お出かけや旅行など、子ども時代における体験は、将来に大きな影響を与えるでしょう。しかし経済的な事情や家庭のさまざまな事情で、親との楽しい体験をあまり積めない子どもたちがいます。今回はNPO法人Learning for All(以下、LFA)の居場所づくりを行っている拠点で実施している「イベント」の事例をご紹介します。
これまでに開催したイベントやその開催意図、実施にあたって注意したポイントなどについて、葛飾区にある居場所拠点責任者の岸本さんと、同拠点スタッフの春川さんに伺いました。
プロフィール:岸本 尚子
Learning for All 子ども支援事業部。日本・モロッコにおける小学校教諭、インテリア系メーカー・商社における開発営業を経て、LFA入職。好きなことはものづくり。あらゆる関係者がそれぞれの強みを生かしてボーダーレスに連携する社会の実現を通して、全ての子どもが自分の可能性に気づき選択できる力を。そしてその先に必ずある幸せを一緒に見つけたい。
最近ハマっていること:月1回の断食
プロフィール:春川 美桜
Learning for All 子ども支援事業部。大学卒業後、東南アジアの日本人学校にて、小学校教諭を務める。大人の都合で自分のしたいことができない子どもたちに、安心して自分らしさを出せる居場所を作りたいという思いから、LFAに入職。子どもの家が、「子どもがありのままの自分を出せる居場所」、「子ども・保護者・地域を丸っと受け止め、繋げる居場所」になるようにしたい。最近ハマっていること:Netflixで『愛の不時着』を見る
LFAでの年間イベントとは?
━━まずはLFAの「居場所づくり」の拠点はどのような場なのか教えてください。
岸本:LFAの居場所づくりの拠点は、子どもが安心して過ごせる居場所として放課後に小学校低学年の子どもたちを受け入れ、共に過ごす場です。学校や行政からの紹介で、経済的困窮世帯のお子さんやその他困難を抱えたお子さんを受け入れています。
居場所拠点では「落ち着いてみんなとの生活を楽しむ環境」「自分のペースで学びを深める力」「遊びと体験・世界を広げる人との出会い」を提供し、子どもの自立する力を養うことを目的としています。
私たちが担当している拠点は平日の14時から21時までの居場所を提供しており、小学校1年生から3年生の子どもが通っています。
毎日学校終わりに通う場合もあれば、「子どもとの関わり方を見直したい」「よい生活習慣を身につけさせたい」など保護者の方の希望に応じて週2〜3日利用する場合もあります。年に1〜2回は保護者を交えたイベントも開催しています。
━━イベントとは、具体的にどのようなことをされているのでしょうか。
岸本:居場所づくり事業でこれまで実施した例として、以下のようなイベントがあります。
- 「キッザニア」での職業体験
- 「スカイツリー」への親子遠足
- やりたいこと発表会(子どもたちが実現したいことをプレゼンテーション)
拠点に通っているご家庭の中には、経済的な事情などで親子で遠出することがなかなか難しいご家庭もあります。少しでも「経験の差」を埋められるようにという意図で、キッザニアやスカイツリーなどを訪れました。キッザニアでは、仕事体験を通して子ども自身が自分の将来に希望を持ってもらうことを意図しています。スカイツリーへの遠足では、フレンチレストランでのマナー教室も開催しました。
━━遠出を伴うイベント実施においての準備や注意したことについても教えてください。
春川:準備としては、スケジュール作成やリスクの想定、しおり作成などが挙げられます。
イラストや写真を多く掲載したり、クイズなどを載せることで、子どもたちに興味関心を持ってもらえるように工夫しました。
岸本:当然ながら、参加者の安全には特に気をつけています。事前にスケジュールの中で、リスクのありそうな場面について「こうなった場合は、こう対応する」「こうならないように、このような仕組みにする」などの想定をしています。例えば、子どもがお金を無くしてしまうリスクがあるので、子どもには持たせず、必要な場合はスタッフがお金を貸し、後日保護者の方から回収させていただく、などです。ただ、学校の遠足のように大人数ではなく、スタッフのリソースも限られているため、下見を実施したり、交通機関に連絡をしたりということはしませんでした。
当日は、保護者の方が電車の乗り継ぎに遅れてしまうなど想定外のハプニングが起こったこともありましたが、これまで居場所拠点で開催したどのイベントも安全に実施できています。
━━保護者の方も一緒に参加することには、何か意図があるのでしょうか。
岸本:保護者の方も一緒に参加することで、保護者の見ている世界・価値観を広げることも大切な目的の一つなんです。普段あまり関わることのない保護者同士で会話をし、目の前の生活や育児、仕事における課題だけでない、少し広い社会を体験する。そうすることで、価値観や考え方が広がるきっかけになるのではと考えています。また、イベントを通して、保護者の方自身が楽しむこと、息抜きをすることも大切だと考えています。
自分の力で誰かを動かすという成功体験
━━子どもだけでなく、保護者にとっても経験の場なのですね。「やりたいこと発表会」は、どのようなイベントなのでしょうか。
春川:この催しは2020年の夏に居場所拠点で実施しました。子どもたちがやりたいこと・行きたい場所・好きなものなどをプレゼンテーション資料にまとめ、スタッフや保護者の前で発表し、共感してくれる賛同者を集める、という企画です。そして、実際に実現するところまでやりたいと考えています。
「発表すること」そのものだけでなく、発表内容の計画や準備、プレゼンテーション資料作成など、それぞれの工程における学び・成長を意図しました。プレゼン資料の作成は、タブレット端末で直感的にプレゼン資料が作成できる「ロイロノート」というアプリを利用しています。
居場所づくり事業に関わる私たちは、子どもたちに自分の力で誰かを動かすという成功体験をして欲しいと考えています。「自分が動いた結果こうなった」「誰かを説得したからこれができた」という体験ができるよう意識しました。「皆でディズニーランドに行きたい!」と提案した子どもの発表が多くの賛同を集めたのですが、コロナの影響等でまだ実施に至っていないので、状況を判断しつつ、実現していきたいです。
イベントを通した保護者・子どもの変化
━━イベントを通して、子どもや保護者の変化を感じた部分はありますか?
岸本:ある保護者の方の変化が印象的です。保護者の方の中には、良くも悪くも子どもを、大人である自分と同じ立場の人間として捉えている方がいます。その結果、子どもを養護する対象として見ておらず、自分の子どもに年齢以上の高いレベルでの対応を求めてしまうことがあります。
イベントに「〇〇くんの保護者」として参加することで、保護者としての振る舞いを意識する状況ができるため「この子は自分が見守ってあげなくてはいけない存在なんだ」という気付きを一瞬でも持ってもらえたかなと思います。
━━保護者同士で話すことで新しい気づきもありそうですね。
岸本:そうですね。保護者同士が話す貴重な機会になったことで、子どもを育てていくことに対して意識が変化した方もいたかもしれません。たとえば一人っ子の保護者の方が、複数の子どもを育てる保護者の方とお話することで「一人でも大変なのに、すごいわ…」という感想をおっしゃっていたことがあります。イベントで感じたことが、その後にどう影響しているかはわかりませんが、「子どもを養育する保護者」としての意識が改まったり、振り返る一つのきっかけになったのではないかと思います。
また保護者の方からも「イベントが楽しかった」との声をいただいたので、子どもとの思い出づくりに繋がったり、保護者にとっての息抜きにもなったのではないかと思います。
━━居場所拠点でのイベントを実施することによる子どもの変化は感じましたか?
春川:子どもに関しては変化というより「普段見えていない部分が見えてきた」ことが印象的でした。たとえば、みんなで移動中に社会通念的に座り込んではいけないようなところに「座り込んでしまう」といったことです。居場所拠点内で見えていた課題だけでなく、今後社会で生きていく上で必要になってくる振る舞いについても課題を感じるようになりました。今後の支援計画を立てる際の参考にしたいと考えています。
━━今後の支援に向けた気付きが得られたのですね。最後に、居場所づくり事業においてこれから実施したいイベントについて教えてください。
春川:先ほど紹介した「やりたいこと発表会」で発表された内容の実現を、ぜひ行いたいと考えていますね。賛同者が集まった発表に関して、準備を進めていきたいと思います。
岸本:私は、昔悪天候で実施できなかった「地域の方との交流BBQ」を実現したいと考えています。これまで実施してきた「キッザニア」や「スカイツリー」でのイベントは子どもと保護者を結ぶイベント。今度は地域と子ども・保護者を結ぶイベントを実施したいと考えています。
まとめ
岸本さん、春川さんありがとうございました。
最後に「居場所づくり事業におけるイベント開催」についてLFAの実践ポイントを、以下にまとめます。
・経験の差を埋め、保護者と子どもを繋ぐようなイベントを考え、実施する。その際には、リスクのありそうな場面について事前に想定をしておく
・小学生のプレゼン資料作成は、タブレット端末で直感的にプレゼン資料が作成できる「ロイロノート」がおすすめ
・自分の力で「誰かを動かす」「何かを実現する」成功体験づくりを意識する
・子どもだけでなく、保護者の見ている世界・価値観を広げることが、保護者も参加するイベントの目的の一つ
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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