対面で人と接する場に抵抗を感じている子どもや、拠点に通えない距離にいる子どもでも参加可能なオンラインでの支援。様々な子どもとつながることができる可能性がある一方で、実際に顔を合わせることがない分、子どもとの出会い方や保護者とのやりとりに難しさを感じることもあるのではないでしょうか。
今回は、不登校であったり、学校が苦手な子どもたちを対象にオンラインで支援活動を行っているFor Everyone Study(以下、FES)の代表兼コーディネーターを務める植竹さんにお話を伺いました。
前編では、FESの活動内容や大切にしていること、子どもとの出会い方についてお伝えします。
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プロフィール:植竹 智央 氏
高校時代からボランティア活動を行い、青少年・社会教育・国際交流などの分野を中心に活動。現在はオンライン不登校支援を行うほか、拠点である石岡市のPTA連絡協議会にて、ICT部分のサポートも担うパラレルワーカーの31歳。
茨城県青少年健全育成審議会委員。令和5年度こども家庭庁こどもまんなかアワードにおける「こども・若者活動奨励章」、令和6年度茨城県表彰における「新しいいばらきづくり表彰」受賞。
For Everyone Studyとは
—FESの活動について教えてください。
FESは、不登校であったり学校に行きづらい子どもたちに向けて、オンライン上で子どもたちとの会話や遊び(コミュニケーション活動)と学習支援を行っています。この活動はボランティアが行っていますが、設備費など団体の運営にかかる費用に充てるため、コース別の回数制を採用し、ご家庭から一定の金額をいただいて活動しています。
コミュニケーション活動では、子ども一人ひとりに大学生などのボランティアの担当者がついており、週に1回程度、ボランティアと子どもが1対1で1時間ほどzoom上で一緒に時間を過ごします。時間の過ごし方は子どもによって様々です。「Roblox(ロブロックス)」や「Minecraft(マインクラフト)」などのオンラインゲームを一緒にしたり、YouTubeの動画を一緒に見て話したりしています。一緒にお絵描きをして絵しりとりなどを楽しんでいる子どももいます。
画像:FES提供
学習支援でも、コミュニケーション活動と同様、子どもと担当のボランティアが週1回程度の頻度で学習に取り組んでいます。無料で使用できる「新ネットレの学習教室」などのオンライン教材を活用して、それぞれの子どもに合わせた学習を行っています。
画像:FES提供
コミュニケーション活動と学習のどちらに取り組むかについては、初めに保護者の方から問い合わせがあったときにそれぞれをどの程度で行いたいか希望を聞いています。
また、ボランティアと子どもの1対1の活動だけでなく、複数の子どもたちと学生たちがオンライン上で交流する「オンラインゲーム交流会」というイベントも開催しています。実施するゲームは、人狼ゲーム(注1)やNGワードゲーム(注2)、Among Us(アモング・アス)(注3)などさまざまです。
(注1)人狼ゲームは、複数人で会話しながら推理するもの。参加者に役を割り振り、人狼役を割り振られているのが誰かを当てるゲーム。
(注2)NGワードゲームは、複数人で会話して行う。それぞれの参加者に本人には分からない状態でNGワードが割り振られる。会話の中でNGワードを言った参加者が負けとなる。
(注3)Among Usは、複数の参加者が2つのグループに分かれ、それぞれのグループで勝利を目指すゲーム。大まかなルールは人狼ゲームと似ている。(参考:Among Us)
子どもたちに向けた活動の他にも、不登校の子どもに関わる大人やボランティアスタッフが学び合う場として「不登校関係者情報交換会」を実施しています。2ヶ月に1回程度、FESを利用している保護者やスタッフ、学校の先生や不登校関係の団体の方などをお呼びしてオンライン会議を行っています。
子どもたちが「人と関わりたい」と思えるようになるために
—活動する上で、大切にしていることを教えてください。
FESでは、活動に参加した子どもたちが「ほかの人とより関わりたい」と思えるようになることを目指しています。学校は子どもたちが成長できる場の一つですが、それ以外の場所や人との関わりで学ぶことも多くあるのではないかと考えています。そのため、子どもたちが登校することをゴールとするのではなく、子どもによってはメッセージのみ、音声のみなどスモールステップを重ねながら、他者と関わる機会を提供しています。
画像:FES提供
時には「不登校の子を支援しても税収が上がるわけではないのに、その支援に意味はあるのか」といったご意見をいただくこともあります。しかし、FESがやっていることは、働いて納税できる人を増やすことではなく、子どもたちがボランティアなどの信頼できる大人と関わることを通して、「もっと人と関わりたい」と思えるような機会を提供することであり、それで十分だと思っています。
—子どもたちにとって「信頼できる大人」であるために、ボランティアに気をつけてもらっていることはありますか。
活動に遅刻をしないこと、子どもの話をよく聴くこと、活動の間を基本的に2週間空けないようにすることを、ボランティアの学生たちには伝えています。3点目については、子どもとの信頼関係を築くためには、活動の間があまり空きすぎない方が良いと考えているためです。
また、何か問題があったときには、代表の私や運営メンバーに相談するよう伝えています。一度、活動に関してボランティアの大学生が保護者の方からお叱りを受けることがあったのですが、保護者の方から聞くまで運営側に知らされていなかったことがありました。保護者の方とのトラブルを避けるためにも、団体内部での情報共有は大変重要なものだと思っています。
子どもとのつながり方
—FESはオンラインで活動をしている団体ですが、活動へのニーズを抱えている子どもやその保護者とはどのようにつながっているのでしょうか。
基本的に口コミで団体のことを知って問い合わせてくださる方がほとんどです。これまで50件ほど活動に向けてのマッチングをしてきましたが、その中でホームページからの問い合わせがあったのは7件で、インターネットで知って連絡をくださる方は少ないです。口コミで知った方や私がつながりを持っている不登校の会の方、フリースクールの職員を介して知った方からの問い合わせが多くを占めています。不登校保護者の会などで「FESの支援活動を受けたんだよ」などの話を聞いて、関心を持ってくださり、FESの活動につながったケースもあります。
また、広告を出せばもっと広く、たくさんの子どもにアウトリーチができるのではないかと感じられるかもしれませんが、不登校支援の団体として広告を出してしまうと、困り感に駆られた保護者の方が子どもの意思を無視して連絡してしまうケースもあると感じています。そのため、我々は広告を出していません。保護者の方が子どもに「(活動を)やってみたい?」と確認してから問い合わせをしてくださる方が多く、登録後も子どもに活動を強要しないことを大切にしています。
まとめ
今回は、For Everyone Studyの植竹さんに、FESの活動内容や大切にしていること、子どもとの出会い方についてお伺いしました。ポイントを以下にまとめます。
- FESはオンライン上で子どもと学生ボランティアをつなぎ、コミュニケーション活動や学習支援を行っている
- 活動で信頼できる大人と関わることを通して、活動に参加した子どもたちが、「人により関わろうとする姿」の実現を目指している
- 困り感に駆られた保護者の方が子どもの意思を無視して連絡してしまうことを避けるために、広告ではアウトリーチを行っていない
後編では、スムーズに活動を始めるための「マッチング」や、オンライン支援の難しさについてお伝えします。
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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