「子どもをサポートしたい」「子ども支援に興味がある」、そんな思いから支援現場への参加を決めたものの、「子どもとの交流経験が少ないので上手くコミュニケーションが取れるか不安だ…」という方は少なくないでしょう。また、いざ参加してみても「何がとは言えないけれど、もっと上手く子どもと接することができるのではないか」と頭を悩ませている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
子どもとのコミュニケーションに正解はありません。皆さんが出会うのは誰一人として同じ人のいない「一人ひとり」の子どもたちであるからです。けれども、事前の心構えや「次子どもと会った時、こんな風に声をかけてみよう」という具体的なアクションを考えておくことが、より良い子どもとの関わりのサポートとなることもあります。前編である本記事は子どもとのコミュニケーションにおいて意識すると良いこと、後編では実際のコミュニケーションにおける具体的なスキルについて、過去のこども支援ナビの関連記事もご紹介しながらまとめます。
後編はこちら:
はじめに
拠点で子どもと初めて出会う前、皆さんはどのような子どもたちが拠点にいると想像していましたか。一度、皆さんがいつも接している、あるいはこれから出会う子どもたちに思いを巡らせてみましょう。
一人ひとり異なる「日常」
「子ども」とひとくくりに呼んでも、様々な子どもたちがいます。外で皆と遊ぶことが好きで一日中走り回っている子もいれば、何時間でも一人で絵を描き続けることができる子もいます。あるいは、おとなしそうに見えて実は負けず嫌いな子もいるでしょう。「子どもってこうだよね」というような決めつけによって、見逃してしまうことがあるかもしれません。
一方で、子どもは日常生活の送り方や日々の関心事が大人と大きく異なります。この「当たり前が異なる」ことは、支援現場において特に起こりやすいことです。拠点に来る子どもたちは、多様な背景や困難を抱えています。家庭が経済的困難を抱えている子どもや、外国にルーツを持っている子どももいるでしょう。支援拠点に参加する皆さんにとっては馴染みのない「日常」を過ごしている子どもたちと出会うかもしれません。
子どもが見ている「日常」に目を向ける
全ての子どもが安心して拠点で時間を過ごすためにも、子ども一人ひとりの異なる「日常」に目を向けながら、丁寧に関係を築いていくことが重要です。例えば、拠点に来る子どもたちの中には攻撃的な言葉を使う子どもや、受け答えが乏しい子どもなど、コミュニケーションを上手く取ることが出来ない子どももいるでしょう。しかし、彼らはそうしたくてしているのでしょうか。
そういった行動の背景には様々な要因が考えられます。もしかしたら、母子家庭で母親は遅くまで働き、家族とのコミュニケーションをとる機会が少ないのかもしれません。或いは学校の集団授業についていけなくなり、誰にも相談できないままずっと席に座っているのかもしれません。その結果、「自分は何で皆ができることが出来ないんだろう」と思いつめてしまっている可能性もあります。
生活環境以外に、発達的な要因もあります。児童期を過ぎた子どもは小学校高学年から中学校にかけ、 思春期にさしかかります。心理的にも社会的にも大きな変化が生じる不安定な時期です。このような様々な要因が子どものコミュニケーションに影響を及ぼしている可能性があります。目に見える子どもの言動のみならず、その背景にも目を向けて子どもの目線に立つことが、子どもとのコミュニケーションにおける第一歩ではないでしょうか。
出典:性教育いらすと
コミュニケーションのマインドセット
それでは、子どもとのコミュニケーションにおける基本的なマインドセットについて取り上げます。先述した「子どもの目線に立つ」ことを前提として、
- 「何を子どもに届けたいか」を軸に持つ
- 「自分が今どう見えているのか」を意識する
- 子どもの「肯定的な意図・欲求」を信じる
- 「場づくり」から始める
の4つのポイントについてご説明します。
「何を子どもに届けたいか」を軸に持つ
家族でも友人でも学校の先生でもない、という立場の人は非常に貴重です。毎日会う訳ではないからこそ子どもが自身の悩みを打ち明けやすかったり、ロールモデルとして子どものアイデンティティ形成を助けたりすることもできるでしょう。子どもに届けられるものを最大限にするために、「自分が何を子どもに届けたいか」について考えをめぐらすことが重要です。
例えば、受験を控える子どもとのコミュニケーションについて考えてみましょう。ここで、「志望校合格は勿論、自分の頑張りを認められるようになってほしい」という思いを軸とした場合、「これだけ頑張ったから、この問題が解けるようになったんだよ」といったその子の頑張りについてのメッセージを日々伝えていくことも、分かりやすく勉強を教えることと同じくらい重要なコミュニケーションに含まれます。皆さんが子どもに届けられる経験やメッセージには多様なものが考えられますが、軸を持つことで言動に一貫性が生まれ、子どもとの信頼関係にもつながります。
「自分が今どう見えているのか」を意識する
メッセージの伝え方も意識すると良いでしょう。一瞬見せた表情やたった一言の発言、わずかな姿勢の違いから、子どもは様々なものを読み取ります。学習支援など実施する内容がある程度決まっている場合には、「正解だったら笑顔で明るい声で褒めよう」というように、準備段階で想定できる工夫もあります。
また、子どもにとって親しみやすい存在となるために教師が自己開示することも重要です。子どもから見て教師がどのような人か分からなければ不安感にもつながります。子どもの話を聞きつつ、自分自身の話も積極的にしましょう。
子どもの「肯定的な意図・欲求」を信じる
子どもとのコミュニケーションにおいて、子どもの行動の裏にある意図・欲求に目を向けることも重要です。例え行動が否定的であったとしても、その裏には肯定的な意図や欲求が隠れていると考える事ができます。
学習支援において、子どもが「勉強したくない」と言うことがあるかもしれません。このような言動の裏にある子どもの気持ちとしては様々なものが考えられますが、例えばその日の指導の中で問題を間違えることが続いてしまった場合、「できるようになりたいのに、できるようにならない」という葛藤からネガティブな発言につながったのかもしれません。
常に子どもの言動に対して、「この子の肯定的な意図・欲求は何だろう?」ということに目を向けられると、表面の行動だけではわからないその子が見えてくることがあるでしょう。
「場づくり」から始める
最後に、子どもとのコミュニケーションは大人と子どもの間の直接のやり取りにのみ影響を受けるわけではありません。子どもが拠点に慣れていくほど、拠点での行動は次第に習慣的なもの、無意識のものになっていきます。拠点が全ての子どもにとって安心空間であり、また成長できる場であるための「場づくり」も重要です。
例えば、勉強時間や大人との約束を守らなかったり、他の子が遊んでいるものを勝手に取ってしまったりといった行動に対して、適切なコミュニケーションを取らなければ、「そうしてもいいんだ」という価値観を子どもが形成してしまうかもしれません。場づくりの例として、以下の様なものが挙げられます。
- 学習時間には机上に必要なものしか出さないなど机上整理を促し、集中して取り組む空間をつくる
- 1日の初めにタイムスケジュールを確認し、時間管理を促す
- 「分からないことは質問しよう」と最初に呼びかける/目標設定することで、子どもの発問を促す
場づくりを行う上でのポイントは、「それらがなぜ必要なのか、それを守るとどんな良いことがあるのか」を子どもに分かりやすく伝えることと、これらのルールや目標にしたがって効果的な褒めと叱りを行うことです。褒めと叱りについては、後編の「スキル編」で詳しく取り上げます。
出典:いらすとや
まとめ
今回は、子どもとのコミュニケーションについて意識すると良いこと、について扱いました。ポイントを以下にまとめます。
- 一人ひとり異なった日常を送っているため、行動や思考の前提となる価値観や「当たり前」が異なる。「子ども」と一括りにすることなく、目の前の一人ひとりの目線に立とうとすることが大切。
- 子どもとのコミュニケーションにおけるマインドセット
- 「何を届けたいか」を軸に持つ:自分の行動に一貫性を持たせる
- 「自分が今どう見えているのか」を意識する:自己開示や話す際の表情などを通して、親しみやすさを意識する
- 子どもの「肯定的なWant」を信じる:子どもの否定的な行動の裏にも肯定的な欲求があるのではないかと考える
- 「場づくり」から始める:教室のルールづくりやその日の目標設定などを通して、空間に一貫性を持たせる
後編では、実際のコミュニケーションにおけるスキルについて取り上げます。
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません。
関連記事:
この記事は役に立ちましたか?
記事をシェアしてみんなで学ぼう