子ども食堂や子どもの居場所づくりが全国に広がる一方で、現場運営を担う人材の確保や、ボランティアとの関係性づくりに課題を抱える団体も少なくありません。特に、大学などが近くにない地域や過疎地では、「人が集まらない」「関わりが続かない」といった悩みが日常的に聞かれます。
今回は、京都府で自学自炊コミュニティnalba(ナルバ)を運営する一般社団法人はぐくみ共同体nalbaの理事長である楠本貞愛(くすもとていあい)さんにお話を伺いました。
前編では、nalbaの活動内容や地域の状況、居場所づくりの考え方、そして日々の運営を支えるボランティアの関わり方についてご紹介します。
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プロフィール:楠本 貞愛(くすもと ていあい)氏
一般社団法人はぐくみ共同体nalba 代表。1956年、京都市生まれ。
1994年より図書出版「素人社」の代表として出版活動に携わる。
2013年より京都府立大学と連携し、児童養護施設の子どもたちの自立支援に取り組む。2021年に自学自炊コミュニティnalbaを開講し、2022年、一般社団法人はぐくみ共同体nalbaを設立。子どもの居場所づくりを中心に活動を続けている。
第三の居場所としての「nalba」
―まず、nalbaとはどのような場所か教えてください。
nalbaは、食と農をベースに、子どもから大人まで、だれもが共に学び合い、育ち合う場です。学校や家庭とは異なる「第三の居場所」として、人が本来もっている「生きる力」を大切に育んでいます。
―nalbaでは、「食」や「農」を活動の軸にされているんですね。
食べ物を作るということは、命にとって一番大事なことだと思っています。だからまず、食べ物を「つくれる人」になってほしい、という思いがあります。
一次産業は、とても大切で大きな力を持っているのに、今はその価値がなかなか伝わりにくい時代です。子どもたちには、「食べ物をつくる」すごさを頭で知るのではなく、体で味わってもらいたいと思っています。
「食」や「農」を楽しいと感じられる人になれたら、きっと生きていく力が自然とついていくという思いから、実際に野菜を育てたり、魚を捕って自分でさばいて食べたりする体験の楽しさを、子どもたちに伝えています。
来年の4月からは、近くに畑を借りられることになりました。 40坪くらいを使って、野菜を栽培する予定です。
これからは、もっと子どもたちと一緒に、食べ物を「つくる側」に立って、生産から料理して食べるまでを一つの流れとして体験していきたいと考えています。
「食」や「農」を楽しむ経験を通して、体力や持久力も含めて、生きる力を育てていきたいです。
地域とつながることで広がる、nalbaの居場所
―畑や農業体験のお話が出てきましたが、地域の方々や他組織との関わりもおありなのでしょうか。
現在お世話になっている畑は、車で30分ほど行ったところにあるNPO法人スモールファーマーズさんの畑で、代表の方がうちの理事も務めてくださっていて、長く一緒に活動してきました。
スモールファーマーズさんとは、農業を「生き方」や「学び」の土台として捉える考え方を共有しています。
農業は、天候や季節に左右され、思い通りにならないことの連続です。待たなければ実らないし、工夫しても結果がすぐに出るとは限らない。自然に向き合う経験そのものが、人の力を育てていくと感じています。
思い通りにならない状況の中で考え、手を動かし、待つ。その積み重ねが、生きる力になる。
そんな考え方に共感し合えたため、今も一緒に活動を続けています。
nalbaは、ここだけで完結する場所ではありません。
地域の人や場とゆるやかにつながりながら、子どもたちの世界が外へと広がっていくための拠点でありたいと思っています。
ボランティアとともにつくるnalbaの日常
―nalbaの運営体制について教えてください。
nalbaは、レギュラースタッフ7名の他にボランティア30名ほどで運営しており、ボランティアさんには大変支えられています。
立ち上げ当初から「人手が足りないからボランティアを集める」という発想ではなく、子どもたちが学校や家庭の外で、さまざまな大人と出会える場をつくりたいと考えてきました。
特に中高生にとっては、年齢や立場の違う大人と関わる経験そのものが、少しずつ自立していくための大切な土台になると感じています。
―ボランティアさんの条件や役割について教えてください。
参加頻度については、月に1回以上参加できることを一つの目安とし、子どもとの信頼関係を築いてもらえることを大切にしています。年度のはじめには継続の意思確認を行い、無理のない関わり方かどうかを確認しています。
ボランティアには、有償と無償があります。有償の「れぎゅらーさん」(週1回以上)、「ふらっとさん」(月1~2回)には、団体でスポーツ安全保険に加入する他、18歳以上の方には、地場企業協賛の近隣のお店で利用できるメルシ―クーポン(1000円相当)もしくは交通費実費(上限1000円)を支給しています。「まれに~さん」(年に何回か参加)や「みまもりさん」(めったに参加できないけど見守り応援してくださる方)、「お試し参加」の方には、お食事の提供のみです。
頻度は生活状況や役割に応じて選ばれていて、調理を支えるレギュラーメンバーとして継続的に関わる人もいれば、大学生や地域の人が、自分のペースで子どもたちと関わる形もあります。
役割については、「何かを教える人」になることは求めていません。
学生ボランティアであれば、思いきり遊んだり、子どもと一緒に過ごしたりすることが大切な役割です。
料理が得意な人は台所に立ち、子どもと並んで包丁を握る。特別な指導をしなくても、その姿そのものが、子どもたちにとっての学びになります。
―さまざまな大人が参加することの良さも多分にありつつ、多様な価値観や人生経験をもつ大人が関わることに、不安はないのでしょうか。
全くないわけではありませんが、nalbaでは、ボランティア全員に登録時にビジョンや子どものセーフガーディング(子どもの安全と尊厳を守るための基本的な考え方)を共有し、必ず一度は見学をしてもらっています。子どもの安全に関わる最低限の共通理解は、最初にしっかり確認しています。

出典:ボランティア登録フォームにある参加前に必読の「子どもの権利とセーフガーディング」資料
一方で、関わり方や価値観を細かくそろえることまでは求めていません。
大人にもいろいろな考え方や関わり方があることを、子どもたちが日常の中で感じ、学んでいくことも大切だと考えています。
無理のない関係性を大切にしてきた結果、ボランティアがボランティアを紹介する形で、関わりが自然に広がっています。
まとめ
今回は、楠本貞愛さんに、nalbaの基本的な考え方と実践について伺いました。ポイントを以下にまとめます。
- 「nalba」は「食」と「農」を軸に、子どもから大人までが学び合い育ち合う第三の居場所として、「生きる力」を育む場。
- 食べ物を「つくれる人」になってほしいという思いから、野菜づくりや魚を捕ってさばいて食べるなど、体験を通して一次産業の価値や楽しさを伝えている。
- 地域や他団体とも連携し、農業の「思い通りにならない自然と向き合い、考え、手を動かし、待つ」経験が生きる力になるという考えを共有して活動している。
- ボランティアは「教える人」ではなく「一緒に過ごす大人」。有償と無償があり、有償のメンバーには団体でのスポーツ保険の加入の他、交通費もしくは近隣で使えるクーポンを支給している。
- 子どもの安全面の確保については、ボランティア登録時にビジョンや子どものセーフガーディングを共有することで確認している。
後編では、nalbaの活動を支えるボランティアの関わり方や、関係性づくりの工夫について詳しくお伝えします。
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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