【連載第4回】全国の居場所づくり~NPO法人パノラマ:全ての人が包摂される社会を目指して~

みなさん、こんにちは。この「全国の居場所づくり」の連載では全国にある居場所支援団体を紹介することで、様々な居場所づくりのあり方があることをお伝えしています。

今回は高校内で実施する居場所カフェの取組が特徴的なNPO法人パノラマ(以下、パノラマ)さんにお話を伺いました。パノラマさんは、「社会的不利な状況を生きる子どもたちや、人や社会に傷ついた人たち」の社会参加をサポートしておりその課題意識が「すべての人をフレームイン!」というミッションに現れています。今回は、校内居場所カフェから若者の就労支援、地域の中でのサードプレイスの提供まで多岐に渡る事業を展開するパノラマさんの事業内容を伺いました。

プロフィール:小川 杏子
2017年に入職した、NPO法人パノラマの第一号職員。学校連携事業(高校内居場所カフェや個別相談、卒業生・中退生支援)を中心に事業や運営に関わる。

 

「すべての人をフレームイン!」

ーパノラマさんのミッションである「すべての人をフレームイン!」という言葉に込められた思いについて教えてください。

私たちの団体名の「パノラマ」は、パノラマ写真が由来となっています。

社会には、社会の既存の制度から様々な要因でこぼれ落ちてしまったり、社会的な弱者となってしまうリスクの高い若者や子どもが多くいます。たくさんの人たちをその枠の中に包摂することのできるパノラマ写真のように、既存のフレームにはめ込むのではなく、既存のフレームをフニャフニャと柔らかくして拡げ、フレームの中に入れる子供や若者、そして大人たちを増やしていきたいと、全ての人がフレームインでき、活きいきと暮らせる社会を実現するために活動しています。

ー「様々な要因でこぼれ落ちてしまったり、社会的な弱者となってしまう若者や子ども」を対象とされているとのことですが、具体的にどのような方々をイメージしていますか。

「出会った責任を果たす」という言葉も大切にしている言葉の一つですが、対象とする方をあえて言うのであれば、事業を通じて私たちが出会う方全員だと考えています。

事業をやっていく中で課題に直面するたびに「出会った責任を果たす」ために事業を広げている形ですね。

例えば校内居場所カフェの主な対象は、しんどさや生きづらさを抱えるハイティーン(10代後半の子どもたち)です。校内居場所カフェが始まった背景には、学校の先生たちだけではしんどさを抱える生徒の相談や支援に対応しきれないという課題がありました。生徒の支援をする外部資源の必要性から、パノラマ代表の石井が公立高校の相談員として派遣され、やがて、校内居場所カフェという形となり、パノラマというNPOが立ち上がりました。(校内居場所カフェを開始した経緯の詳細は第5回でご紹介します。)

パノラマでは横浜北部エリアでの切れ目のない支援に取り組んでいます。校内居場所カフェは課題が困難化・複雑化する前のいわゆる予防的な支援ですが、他にも在学中や卒業後に社会の多様な大人と出会いながら働く経験をすることができる就労支援を行ったり、事業によっては40代を超える方も支援にも取り組んでいます。

 

パノラマさんの活動内容

ーパノラマさんが具体的にどのような活動をされているか、教えてください。

いくつかの事業を行っているので、順番にご説明しますね。

校内居場所カフェ

高校内の図書館や多目的室で週に1回カフェを開催し、生徒たちが自由に出入りし利用できる居場所を提供しています。カフェのコンセプトは、「安心・安全な居場所の提供」や「文化的な体験の場(文化資本の提供)」「ソーシャルワークの起点の場」です。学校内にくつろげる空間を作るとともに、様々な出会いや経験を通じて生徒たちのこれからを支える場所として機能しています。

校内に週1回現れる「安心・安全な居場所」として自由に過ごしてもらい、一緒にボードゲームなどをしたりしながら、信頼関係を築き、信頼が溜まると時には真面目な進路の相談などを受けたりもしています。

また、「文化的な体験の場」としては、食べたことのないものを食べたり、着たことのないものを着てみたり…とそれまで経験したことのない経験をすることによってその後の人生の糧となったり、いつもと違う人と出会う機会になればと考えています。

さらに、同じ高校内では個別相談も行っています。居場所カフェで関係を築いた生徒が個別相談に来ることもあります。

中退生徒・卒業生徒の個別支援

また、居場所カフェの中で出会った若者の中には、学校を中退・卒業した後に困りごとを抱えたり、早期離職してしまうこともあります。個別の事情によりユースプラザなどの既存事業に当てはめて支援することが難しい若者もいます。そうした若者のために、個別に伴走をする形の支援として、住まい探しをしたり、生活面や経済面、仕事面での困りごとのサポートなどを行っています。

このような事業外の緊急的支援は、「フレームイン基金」というものを作って、賛同いただいた皆さんから寄付をいただきながら運営しています。

 

次に、生徒や若者を社会につなぐ出口の支援としてのバイターンと15歳から39歳の様々な困りごとを抱える若者の居場所ユースプラザをご紹介します。

有給職業体験プログラム「バイターン」

高校生/若者が、企業で3日間の職場体験ののち、アルバイトという形でお給料をいただきながら就労経験を積むプログラムです。困難な現実を生きる高校生が、在学中に親や教員以外の多くの大人たちに支えられることで、社会的排除のきっかけとなる中退や進路未決定を予防することができます。また、同じように、なんらかの理由で社会に出そびれてしまった、社会に不安を感じている若者たちも、地域の大人たちの優しさに触れることで自信を取り戻し、社会参加の一歩を踏み出すことができます。

高校を卒業した後に就職を目指す生徒は多くいますが、中には就職活動の面接に落ちてしまう生徒や働くこと自体に不安を覚える生徒もいます。そのような生徒を、就労に向かわせていいのか、という判断は、学校では判断材料が少ないため、なかなか難しいものです。就労可能かどうかの判断をしたり、そもそもの就労経験を積んだりするための機会が必要だと考えていました。

通常のインターンは無給かつ交通費が自費の場合もありますが、家庭環境によっては無給で行うことは厳しいご家庭もあるため、お給料を頂きつつなんとか職業体験を提供できないかと企業様に持ち掛け、バイターンを開始しました。

協力してくださっている企業様は、パノラマ代表の石井の講演を聞いて、高校生の受け入れを希望してくださった企業様や、地域の方に紹介してもらった企業様です。知り合いの紹介でまた新しい関係性を作れているので、「ご縁の数珠つなぎ」と呼んでいます。

ユースプラザ

15~39歳の若者の居場所として、ユースプラザ事業を行っています。社会に上手く繋がれなかったりした若者が戻ってこられる場所となっています。

横浜市の補助事業として行っているので、前述の校内居場所カフェで関わっている学校のOB・OGに限らず、15-39歳の地域の方やその保護者さんを対象に個別の相談も受ける事業です。

具体的には、引きこもり、思春期、就労などの悩みの相談を受けています。心理士や社会福祉士の資格を持った専門家を含むチームで対応に当たっています。

また、それだけではなく、落ち着いて自分の時間を取り戻し、緩やかに社会参加に繋がっていくための居場所も併設しています。

地域でのサードプレイス提供事業(居場所居酒屋「汽水」)

さらに、若者や地域の方々に向けて、家でも職場や学校でもない地域のサードプレイスとしてコミュニティー居酒屋「汽水」を開いています。

「汽水」は、支援を”しない”場所として存在しており、支援機関や病院以外は外出せず、ずっと家にいるような若者や、仕事や学校以外に周囲とあまり繋がりのない若者が地域の大人と出会うことで、孤立を未然に防ぐための取り組みです。支援機関だけでは解決しきれない問題はたくさんあります。

支援機関以外の場所で頼れる大人がいないと地域で孤立してしまいますし、支援が終わったら関係性が切れてしまいます。「汽水」では、そのような孤立を防ぎ、支援する側・される側という関係性では言えないようなおせっかいもかけることができる場となっています。

今現在は新型コロナウイルスの感染拡大を受けてオンラインでの運営となっていますが、それ以前は実際にお酒も飲んでおいしいものを食べながら雑談をしている場所でした。そこで若者が地域の方と関係性を作ることができていると感じます。

 

まとめ

高校内での居場所カフェが特徴的なパノラマさんですが、事業の中で出会った困りごとを抱えた方を支えるために様々な事業に展開していっていることが伺えました。

次回は校内居場所カフェに焦点を絞って、生徒たちにとってどんな場所なのか、校内で居場所カフェを開く意義はどんなところにあるのか等を伺っていこうと思います。

【連載第5回】全国の居場所づくり~NPO法人パノラマ:全ての人が包摂される社会を目指して~
【連載第5回】全国の居場所づくり~NPO法人パノラマ:全ての人が包摂される社会を目指して~

※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

 

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