認定NPO法人Learning for All (以下、LFA)では、2016年頃から地域づくり事業に取り組んできました。2016年から現在にかけて埼玉県戸田市・東京都葛飾区・茨城県つくば市での居場所づくり事業と地域づくりに取り組んできました。
今回は、LFA地域づくり事業マネージャーである塩成 透氏に、これまでのLFAの地域づくりの歩みと変遷、活動の中で得られた学びや気づきについてご紹介いただきます。
子ども支援団体として学習支援から事業を始め、その後居場所づくり、地域づくりと範囲を広げながら地域に関わってきた流れや、地域の他団体・地域住民との繋がりのつくり方についても具体的に紹介しているので、地域づくりにご関心のある方はぜひご一読ください。
連載第1回では、LFAが2016年に学習支援に加えて居場所づくり事業を開始したところから2021年に地域づくり担当者を設置するまでの流れをお話しいただきます。
プロフィール:塩成 透 氏
認定NPO法人Learning for All 子ども支援事業部
2024年度より地域づくり事業マネージャー/個別支援プログラム・マネージャー
こども家庭庁の「こども若者★いけんぷらす」で活動するこども若者のサポートも行う。
東日本大震災をきっかけに有事の際の地域の繋がりの重要性を認識し、前職で地域住民と共に公共施設や自治体の計画づくりを行うといった地域づくりに関わる。
LFAの「地域づくり」のあゆみと実践
こんにちは、LFAで地域づくり事業マネージャーをしている塩成です。
私はもともと居場所拠点の運営に携わっていたのですが、前職の影響から拠点運営に加えて拠点と地域をつなげられるような活動を自主的に行っていました。
そうした働きかけがきっかけになって次第に拠点運営から地域づくりにフォーカスするようになり、現在は地域づくりメインで活動を行っています。
今回は、こうした私の経験を通して、LFAの地域づくりがどのように変遷してきたのかを一つの事例としてご紹介していきたいと思います。
この事例を通して、
- なぜLFAが地域づくりをしているのか
- LFAがこれまでどのように地域づくりに関わってきたのか
- 子ども支援事業者がどのように地域づくりに関わっていけるのか
このような視点や活動を通して得た学び・気づきを皆様に共有できれば幸いです。
これまでの「地域づくり」の変遷
LFAのこれまでの地域づくりに関連した流れを年表に起こすと、このようになりました。
2016年までにまず学習支援を実施する中での気づきがあり、2016年には「地域づくり」の芽が出てきている感覚がありました。
そして2017年から2020年にかけて「地域づくり」初期といえる時期があり、2021年から2023年に地域づくり担当者が創設されて現在に至ります。
ここからは、このそれぞれの時期にどのような実践があり、学び・気づきを得たのかについて詳しくご紹介します。
【〜2016年】学習支援での気づき
最初に地域づくりに繋がる気づきを得たのは、LFAが行う学習支援においてです。
2016年までのLFAの学習支援は週2回の決まった時間のみ実施をしており、保護者との接点も面談のみでした。その面談を通して保護者や世帯のニーズが見えてきたのですが、同時に学習に限らない子どもを取り巻く課題の広さ・根深さも見えてきました。
それらを踏まえて団体内で「学習支援の中で何ができるか」と「学習支援外で何かできないか」を議論したことで、以下の機運が高まっていきました。
- そもそも学習する意欲をもてない状態の子どもたちが安心して過ごせる「居場所」があったらいいのではないか
- 保護者と関わりサポートする「ソーシャルワーク」が必要ではないか
このような流れから、公益財団法人日本財団が実施する「子ども第三の居場所事業」を受託することとなり、「子ども第三の居場所」の第1号拠点として埼玉県戸田市での居場所づくり事業を開始しました。
なお、当時学習支援を行っていた東京都葛飾区でも、ケースワーカー、学校、地域のNPO団体との交流は少しありましたが、情報交換を行う程度で深い繋がりはありませんでした。
【2016年】「地域づくり」の芽が出始める
戸田市の居場所拠点がオープンし、オープニングセレモニーを実施しました。
オープニングセレモニーには地域の方々をお招きし、町会長や地域の元ソーシャルワーカーの方から「子どもを見守る地域の目が大事」といったお話もしていただきました。
日々の活動では、拠点職員がコミュニティワークを意識して積極的に地域住民との関わりをつくっていきました。また、元ソーシャルワーカーの地域の方がつなぎ役として地域と拠点をつなぐ活動をしてくださったこともあり、この居場所は地域で子どもたちを支える拠点となっていきました。
そして地域で子どもたちを支えるスタンスは、現在のLFAの居場所拠点のロールモデルとなっています。
居場所拠点に変わったことで地域との関わりが増えた
2016年までの学習支援拠点は地域の方々との関わりは少なく、そもそも活動の中で地域との関わりは重要視されていませんでした。
しかし、居場所拠点は学習支援以外の日常的な暮らしや遊び、社会生活にも関わる場所であるため、学習支援拠点のみを実施していた時代よりも地域の方が関わる機会やきっかけが生まれやすくなりました。
居場所機能が加わったことで、徐々に地域との関わりが増えていくような拠点運営がなされるようになってきたと感じています。
ただしこの時期は「地域づくり」といっても拠点職員と地域の方々という大人同士の関わりが主であり、地域と子どもたちの関わりはあまり多くありませんでした。
【2017〜2020年】「地域づくり」初期
戸田市での実践を通して、戸田だけでなく学習支援拠点のあった葛飾などより多くの地域でも「居場所づくり」「ソーシャルワーク」「地域づくり」を展開していくべきだという方針に至りました。
そこで、2017年に地域での包括的な支援体制(CES)についてのワークショップを職員全員で実施し、その結果などを元に事業提案をまとめてゴールドマン・サックス様に提案したところサポートを受けられることになりました。
結果として、学習支援拠点のみを実施していた葛飾区で小学生向けの居場所と中高生向けの居場所を立ち上げることができました。
▶︎参考:2017〜2020年の主な地域での取り組み
「地域づくり」担当者の配置について
葛飾の居場所拠点では地域連携担当者の配置が予算的に難しく、2016〜2018年は拠点長が地域づくりの担い手をしていました。
その後2019〜2020年はソーシャルワーカーを雇用して担い手となってもらうことを計画していましたが、採用が難しく、従来通り拠点長やマネージャーが担当していました。
この時期は居場所を中心とした地域づくりを進める一歩目を踏み出せた一方で、LFA側の担い手問題にも直面する時期でした。
【2021〜2023年】地域づくり担当設置
2017〜2020年までの「地域づくりをやりたいけど担い手問題でできない」という課題を解決するために、2021年から地域づくり担当者を設置することになりました。
担当としては前職で地域づくりに携わった経験があり、地域づくりに関わりたい想いも強い塩成が任命され、さらに一般社団法人ソーシャル・インベストメント・パートナーズ(通称SIP)様から2023年まで資金面でのサポートもいただけることになりました。
地域づくり担当者の設置によって目指したことは、この2つです。
- 戸田・つくば・葛飾の3エリアで子ども支援ネットワークを構築すること
- 地域住民/地域企業が新たに子ども支援の担い手になること
そこでここからは、私が地域づくり担当として関わってきた2021〜2023年までの戸田・葛飾の事例についてより詳しくご紹介していきます。
まとめ
今回は、LFAが2016年に居場所づくり事業を開始したところから2021年に地域づくり担当者を設置するまでの流れについてご紹介しました。ポイントを以下にまとめます。
- 限られた時間・関わりの学習支援では子ども・保護者を取り巻く課題にアプローチできないと考え、居場所づくり事業を開始した。
- 居場所拠点第1号の戸田では職員から積極的に地域の方に関わっていったものの、子どもたちと地域の方の関わりをつくるのが難しかった。
- 戸田に続いて葛飾でも居場所拠点を開設して地域づくりに関わり始めた一方で、LFA側の担い手問題に直面していた。
- 担い手問題を解決して地域づくりを進めるために、2021年から地域づくり担当を設置した。
連載第2回では、地域づくり担当が設置された2021〜2023年までの戸田・葛飾の事例についてより詳しくご紹介していきます。
第2回はこちら:
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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