前編では、コミュニティデザインの考え方や手法について、認定NPO法人Learning for All(以下、LFA)子ども支援事業部職員の塩成さんに伺いました。
今回は、子ども支援者がコミュニティデザインから学べることや、コミュニティデザインを活かしたLFAの支援拠点の地域連携事例などについて、引き続き塩成さんに伺います。
プロフィール:塩成 透
LFA職員。大学院では住民自治について研究を行い、前職では住民参加型の中心市街地の活性化、公共施設での市民活動支援、総合計画策定を行う。2021年にLFAへ入職。居場所拠点の拠点長や地域協働型子ども包括支援モデル構築に向けた地域団体のネットワークづくりを行う。趣味は音楽鑑賞(ダンスミュージック、K-pop)
子どもに関わる地域の非専門家
—地域と連携した子ども支援を考える上で、コミュニティデザインの考え方や方法の活用はどのように役立ちますか?
「デザインの力を使って、コミュニティが持つ課題解決力を高めるよう支援すること」であるコミュニティデザインの考え方や方法は、「子どもに関わる地域の非専門家を増やす」ことに役立つのではないかと思います。現在の日本における子ども支援は、少数の専門家によって担われている場合が多いです。専門家による支援は確かに重要ですが、様々な非専門家が支援に関わることもまた重要なことではないでしょうか。例えば、地域に住む様々な大人と出会うことによって、子どもたちは多様なロールモデルを知ることができます。ものづくりが得意なおじいさん、コミュニケーション能力に長けたおばあさん、プログラミングが得意なお兄さんなど、子ども支援においては非専門家でも、様々な分野においての専門家は地域にたくさんいます。そんな方々との出会いは子どもたちにとってかけがえのない経験になります。また、前回お話ししたように、「いざという時の安心・安全」をもたらすような地域住民との関係構築にも繋がるでしょう。
「子どもに関わる地域の非専門家」のあり方は様々です。例えば、親身に話を聞いてくれる人やキャッチボールに誘ってくれる人、見かけたら声をかけてくれる人や手を挙げて名前を呼んでくれる人などもいれば、そのような活動に参加していなくとも、子どもが置かれている現状を知っている人や近所の子どものことをなんとなく知っている人などもいます。
コミュニティデザインの考え方や方法の活用
—コミュニティデザインの考え方や方法の活用の仕方について伺います。「子どもに関わる地域の非専門家」を増やすために、コミュニティデザインの考え方や手法から子ども支援者が学べることは何でしょうか?
地域で活動する子ども支援者にとっては、コミュニティデザインのなかでもとりわけコーディネーター的な役割を担えるといいのではないかと思っています。
コーディネーターは地域のいちプレイヤーとして根を下ろし、地域資源の把握とコーディネートを行い、地域課題解決を促進します。
例えば、ある支援拠点の職員が、地域に存在する他の支援拠点と子どもを繋げたり、地元住民の団体と協働してイベントをしたりするために、他の支援拠点や地元住民の団体が地域にどの程度存在しているのかを調べたいとします。しかしながら、そのような情報の中にはインターネットに載っていないようなものもあります。これを調べるためには、実際に地域に足を運んで情報を集めることが必要であり、地元住民との接点を持ち、数珠繋ぎで住民や団体と繋がっていくことが効果的です。これはコーディネーターが得意とするところであり、子ども支援の現場でも活用できる場面が多いのではないかと思います。
子ども支援でコーディネートを考える上では、特に対象とするコミュニティの範囲を意識しています。子ども支援は対象を子どもにしているため、子どもの行動範囲を中心としてコミュニティの広さを捉えます。具体的には、小学校区や中学校区といった単位の資源をまずは明らかにしていくアプローチをとっています。
子ども支援におけるコミュニティデザインの考え方や方法を活用した地域連携の事例
—子ども支援におけるコミュニティデザインの考え方や方法を活用した地域連携の事例について伺います。LFAでの塩成さん自身の地域連携の取り組みを具体的に教えてください。
LFAが運営している学習支援拠点と、近所の飲食店との連携の事例をお話します。
この連携が始まったのは、ふとしたことがきっかけでした。もともと「子どもたちへの食事提供をしたいけど、その食事はどうやって準備するか」という問題が拠点内で挙がっており、解決の糸口を探していました。そんな時に入店したのが、この飲食店でした。私が食事をしている時に店主と他のお客さんとの会話が耳に入ってきて、たまたま子どもの話をしているのが聞こえてきました。そこで、自拠点の紹介をしつつ話に入ってみると、思ったより意気投合したので、食事提供の話をしてみたところ、快諾していただいて連携が始まりました。この連携ができたことで、LFAの学習支援拠点に通ってくれている子どもたちに、栄養価が高いお弁当を安価で提供できました。
この事例で連携が上手くいった理由は2つあると思います。1つは「自分たちに欠けているところを明確にしていたこと」です。自分たちの支援では届きにくいニーズ(今回の場合は食事提供)を自覚して連携先を探していたことで、意図を持って店主に声をかけるという行動ができたのではないかと思います。もう1つは「アンテナを張っていたこと」です。「この飲食店は連携できそうかどうか」を判断するために、店内の雰囲気や店主の様子、店主と他のお客さんとの会話などに注目していたことで、連携が成功したのではないかと思います。
特に後者のアンテナを張ることについては、前職で培った経験や視点が強く活きているように感じます。
また、子どもの居場所を「町会」の中で開催しているのですが、この「町会」がもともと地域に開かれている場所であるからこそ、段々と多様な方々が関わってくれるようになっています。その結果として、町会長のご紹介で、町の中でヨガ教室をしている方が月に1回ほどボランティアでヨガを教えてくれるようになったこともあります。また、近所のお寺の住職さんが、子どもたちが花火をする場所としてお寺の境内を貸してくださったり、地域のおじさんがご自宅の倉庫を貸してくれて荷物を置かせてもらったり…と、地域の人々と子どもたちの間で様々なコミュニケーションが生まれています。
—塩成さんが今後目指している「地域の姿」はどういう姿ですか?
今後も、子どもに関わる「専門家」だけでなく「非専門家」が増えることで、子どもを支えるネットワークを、より細かい目にしていきたいと思っています。
地域の住民が、子どもたちを「見守る」から一歩進んで、自分の得意なことを活かしたり、場所やモノを提供したり、行政の計画策定・選挙に地域住民が参加して制度を作ったり…と、具体的なアクションを行っていくことで、子どもを中心とした住みやすい町を、地域みんなで作っていくことを目指しています。
まとめ
今回は、LFA子ども支援事業部職員の塩成さんに、子ども支援者がコミュニティデザインから学べることや、コミュニティデザインを活かしたLFAの支援拠点の地域連携事例などについて伺いました。ポイントを以下にまとめます。
- コミュニティデザインの考え方や方法は、子ども支援において「子どもに関わる地域の非専門家を増やす」ことに役立つ
- 特に、地域の情報を収集し、地域住民と繋がるなど、地域に存在する社会資源を把握し繋がっていく際にその考え方や方法は活かされる
- 子ども支援においては、まずは小規模のコミュニティ(小学校区や中学校区)にどんな資源があるのかを明らかにしていくアプローチをとる
全2回にわたり、LFA子ども支援事業部職員の塩成さんにお話を伺いました。塩成さん、ありがとうございました!
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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