【連載第3回】子ども・若者を支える地域ネットワークづくり ~草の根ささえあいプロジェクトの実践事例~(こども支援ナビ Meetup vol.7)

2022年4月25日に、子どもに向き合う全国各地の支援者が学び/知見/意見をシェアするオンラインイベント「こども支援ナビMeetup」の第7回が開催されました。

本イベントでは、一般社団法人草の根ささえあいプロジェクト代表理事の渡辺 ゆりか氏をゲストにお迎えし、地域で連携して子ども・若者を支えることの必要性や、地域ネットワークづくりの具体的な実践内容についてお伺いしました。

【連載第1回】子ども・若者を支える地域ネットワークづくり ~草の根ささえあいプロジェクトの実践事例~(こども支援ナビ Meetup vol.7)
【連載第1回】子ども・若者を支える地域ネットワークづくり ~草の根ささえあいプロジェクトの実践事例~(こども支援ナビ Meetup vol.7)
【連載第2回】子ども・若者を支える地域ネットワークづくり ~草の根ささえあいプロジェクトの実践事例~(こども支援ナビ Meetup vol.7)
【連載第2回】子ども・若者を支える地域ネットワークづくり ~草の根ささえあいプロジェクトの実践事例~(こども支援ナビ Meetup vol.7)

プロフィール:渡辺 ゆりか 氏
一般社団法人草の根ささえあいプロジェクト 代表理事。大学卒業後、広告代理店でのデザイン・企画の仕事を経て、2004年より就労支援の道へ。生活保護受給者や障がい者への就労支援・生活支援に携わる。
2011年4月、「草の根ささえあいプロジェクト」立ち上げ。制度のはざまの方を孤立させないためのボランティアバンク「猫の手バンク」や、 地域のネットワークを多様につなげるためのワークショップ「できることもちよりワークショップ」を自主事業として開始。2013年から、子ども・若者を対象とした相談のワンストップセンター「名古屋市子ども・若者総合相談センター」を開所し 2019年までセンター長を務める。
2014年~2016年には、生活困窮者自立支援法の就労訓練事業(中間的就労)モデル事業を実施。
2019年から働きたい若者と企業をつなぐ名古屋市若者・企業リンクサポート事業所長。
「誰もが人とのつながりの中で、自分の成長と人への優しさを生み出せる社会」の実現に向け、仲間と奔走中。

困っている本人に直接出会うために

今まで関わってきた相談者は4000人を超えていますが、それでもやはりセンターに来られる人は一握りです。まだまだ、私たちの見えないところで苦しんでいる人がいらっしゃるので、その人たちに出会いに行きたいと思って始めたのが「オープン型交流スペース」と「ライン相談」です。

 
画像:草の根ささえあいプロジェクト作成

センターに「僕、困っています」と相談に来ることができる人はかなり少なく、来所にたどりついた人の本人率は2割です。私たちは、できれば本人に直接出会いたい、本人にアクセスできるツールを持とうと思い、「オープン型交流スペース」と「ライン相談」を始めました。私たちが彼らの生活圏に出向くだけでなく、彼らの使えるツールに近づいていくイメージです。

オープン型交流スペース「もいもい」の本人率は現在100%で、ライン相談の本人率も85%です。この2つは、来所よりも本人率が高くなるという逆転現象が起こっています。

コロナ禍の若者

本人にアプローチした「オープン型交流スペース」と「ライン相談」は、コロナ禍に功を奏しました。コロナが本格的に流行する少し前に始めていたので、本当に偶然タイミングが合いました。

コロナ禍において、若者が受けている影響の本当の深刻さが表出するのは、もう少し先だろうと考えています。

私たちは若者支援について、信号機に例えて表現することが多いです。青信号は「健全な若者」、黄色信号は「注意や見守りが必要な若者」、赤信号は「福祉や支援の必要がある若者」だとすると、私たちは青信号と黄色信号の子たちを心配しています

赤信号の子たちも心配ですが、既につながっている支援機関が踏ん張れば何とかなります。しかし、今までうまく適応していた青信号の子たちも、新しい生活様式への新たな不適応が起きています。たくさんの経験ができる青信号の子ですら、他の年代の子たちがしてきた経験からは疎外されています。つまり自動的に経験の不足が発生しているのです。経験の不足を、別の経験に置き換えられる家庭環境がある子たちはいいけれども、そうではない子たちの、ナチュラルな経験の不足が新たな課題を生んでいきます。

そうすると、今まで赤信号の子に起きると思われていた現象が、青信号や黄色信号の子たちに起きるようになります。青信号の子は相談が苦手なので、自分で何とかしようと思って、ある日バーンアウトします。黄色信号の子たちの中は、周囲にナチュラルにサポートされて、青信号のふりをしている子も多いです。大学生の場合、履修登録の仕組みがわからないけど「俺と一緒にしろよ」と友達に言ってもらえたり、自分でアルバイトが見つけられなくても「俺と一緒のバイト先に来いよ」と誘ってもらえたりする。このようなナチュラルなサポートが、本当は黄色信号の彼らを、青信号に見せていました。

しかしコロナで学生同士の繋がりが切れた途端、学校に来れなくなったり、先生の連絡に答えられなかったりする人が、かなり増えています。これらの困りごとを阻止する装置として、「オープン型交流スペース」と「ライン相談」の2つがなんとか機能し、ギリギリ間に合ったと感じています。

人を回復させる地域のケア力(りょく)

とはいえ、私たちの力だけでは全く足りません。私たちができることは限られていますし、私たち自身もコロナに被災しています。支援機関も、赤信号の子たちのさらなる深刻化の阻止に力をとられる中で、今後どうするべきかを考えた時に、私は「地域の力を信じる」しかないと考えています。


画像:草の根ささえあいプロジェクト作成

コロナが起きる前から、人を回復させるケア力は地域にあると思っています。むしろ私たち専門家が、その力を奪って覆い隠していただけではないかと思うことすらあります。

私たちが地域の人たちの力を信じると、向こうも私たちを信頼してくれて「あそこに困っている子がいたよ」と、困り事のある若者を発見し、私たちにつないでくれる「どこでもドア」の機能を果たしてくれます。

また、本人を中心にして「この子のために一肌脱いでくれない?」と繋がろうとすると、思った以上にたくさんの大人が集まってくれます。

ただ、私たちが決してやらないことは「できないことの押し付け」です。できないことを押しつけ合うのではなく、例えば、この人は編み物を教えることはできる、近所に住む人はゴミの日を教えることはできる、など、できることを持ち寄りあうネットワークにしていきます。

そうすると、多様な人たちとのチーム支援になるので、当然バランスの悪さも生まれます。若者のために積極的に力を貸してくれる人には、ちょっと個性的な大人も多いです。ただ、そのバランスの悪さを排除するのではなく、生かしていくと、応援できる幅が広がります。個性の光る、熱心に子どもや若者を応援してくれる人たちのことを私たちは「珍しいキノコさん」と呼んでいます。ちょっとユニークな人を大事にして、その多様性を私たちが抱きしめる。もちろん行き違いが起こることもあるのですが、そのエピソードをお互いにとって成功の物語に切り替えるのが、私たちソーシャルワーカーの仕事だと思っています。

大人が若者を一方的に助けるのではなく「この地域の人たちが優しいのは、困難を抱える若者のおかげじゃない?」と思えるようになった時に、その地域のケア力がまた一段上がっているんだろうと思います。

できることもちよりワークショップ

私たちは、多様な大人、一肌脱いでくれる大人との関係性を作るための「できることもちよりワークショップ」を開催しています。制度や専門家や学校だけでは解決できない困り事を抱える若者たちが、事例として複数人登場するワークです。その若者のために、様々な立場の人たちが、自分ができることをどんどん書いていきます。会場全体で、たった一人の若者のことを考えるので、膨大な付箋の量になります。そうすると「たった一人のために10人集まれば、50人集まれば、100人集まれば、解決でできない問題は、実はないよね!」と確認することができます。


画像:草の根ささえあいプロジェクト作成

このワークには大きな仕掛けが1つあります。最後に本人から手紙が届くんです。今まで散々「この人のために何ができるか」と考えてきた、その若者本人から手紙が届きます。その手紙の中には、「自分が本当はどう生きたいか」「何に苦しんでいて、何に微かな希望を感じているか」が吐露されています。それをまた新たに受けて、改めて今まで私たちが書いたことが、本当に彼らの望むことだったのかを考える話し合いに持ち込みます。

このワークショップをやると、地域がまた一段成長するのを感じます。例えばケース会議がもちより風になったり、インフォーマルな人たちが若者の居場所を作ってくれたり、最後の手紙を手帳に挟んで持ち歩いて「いつかこのお手紙に答えるために、私は何かやりたい」と思ってくれている人もいます。非常に粘着性の高いネットワークを作れるワークショップだと思っています。

草の根ささえあいプロジェクトの5つの合言葉

私たち草の根ささえあいプロジェクトが大事にしている合言葉が5つあります。

  1. 本人を中心としたオーダーメイドの応援
  2. できることもちより
  3. 専門性より関係性
  4. 珍しいきのこを探す旅
  5. 絶望


画像:草の根ささえあいプロジェクト作成

1~4までは、今までのお話の中で説明しました。

5つ目に大事にしているのは「絶望」です。今日はこんな風に整理してお話ししていますが、本当は力不足を感じ、反省する毎日です。実績も評価も頂くことの多いわたしたちですが、それに甘んじて「私たちいい感じだね!上手くいっているね!」と思ったら終わりだと思っています。常に絶望しながらも、その絶望には未来への希望が混じっています。なぜかというと、社会資源マップを見直して「この人たちを誰が連れてきたのか?」と考えると、若者なんですよね。今この社会に適応できない若者は、行き詰まり感のある今の社会がなぜそうであるのかを教えてくれます。その教えてくれたことを足がかりに未来をつくっていけば、彼らが生き生きと暮らせるかもしれない。その優しい社会は、彼らだけでなく、誰もが生きやすい社会かもしれないんです。若者が新しい答えを持っている可能性があることに希望を見出しています

まとめ

今回は、困っている本人につながり、地域の人たちと一緒に解決策を考えていくための具体的な施策や、草の根ささえあいプロジェクトが大事にしている合言葉についてご説明頂きました。

  • 困っている本人がいる場所に出向くだけでなく、使っているツールに近づくことで、より本人と直接繋がれるようになる
  • 人を回復させるケア力は、地域の関係性の中にある
  • 粘着性の高いネットワークづくりに「できることもちよりワークショップ」が有効
  • 日々の活動で絶望しつつも、子ども・若者の可能性の中に未来への希望を見出す

次回は、参加者からの質疑応答をご紹介します。

【連載第4回】子ども・若者を支える地域ネットワークづくり ~草の根ささえあいプロジェクトの実践事例~(こども支援ナビ Meetup vol.7)
【連載第4回】子ども・若者を支える地域ネットワークづくり ~草の根ささえあいプロジェクトの実践事例~(こども支援ナビ Meetup vol.7)

本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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