【連載第4回】「法」の観点から子どもの最善の利益を守る ー子ども・学校に関する弁護士の取り組みとは(こども支援ナビ Meetup vol.21)

2024年4月16日に、子どもに向き合う全国各地の支援者が学び/知見/意見をシェアするオンラインイベント「こども支援ナビMeetup」の第21回が開催されました。

今回は、子どもの権利保障に関わるさまざまな活動・ケースに携わるおにざわ法律事務所の代表弁護士 鬼澤秀昌氏をお迎えし、「『法』の観点から、子どもの最善の利益を守る ー子ども・学校に関わる弁護士の取り組みとは」というテーマで子ども支援に関わる弁護士の仕事内容や弁護士の活用方法についてお話いただきました。

イベントレポート最終回の第4回では、認定NPO法人Learning for All 子ども支援事業部 マネージャーの木村氏とともに、参加者からの質疑応答の様子をお届けします。

過去の連載はこちら:

【連載第1回】「法」の観点から子どもの最善の利益を守る ー子ども・学校に関する弁護士の取り組みとは(こども支援ナビ Meetup vol.21)
【連載第1回】「法」の観点から子どもの最善の利益を守る ー子ども・学校に関する弁護士の取り組みとは(こども支援ナビ Meetup vol.21)
【連載第2回】「法」の観点から子どもの最善の利益を守る ー子ども・学校に関する弁護士の取り組みとは(こども支援ナビ Meetup vol.21)
【連載第2回】「法」の観点から子どもの最善の利益を守る ー子ども・学校に関する弁護士の取り組みとは(こども支援ナビ Meetup vol.21)
【連載第3回】「法」の観点から子どもの最善の利益を守る ー子ども・学校に関する弁護士の取り組みとは(こども支援ナビ Meetup vol.21)
【連載第3回】「法」の観点から子どもの最善の利益を守る ー子ども・学校に関する弁護士の取り組みとは(こども支援ナビ Meetup vol.21)

プロフィール:鬼澤 秀昌 氏
おにざわ法律事務所 代表弁護士。東京都出身。司法試験合格後、教育系NPO法人の常勤スタッフとして勤務。その後、大手法律事務所を経て、2017年に「おにざわ法律事務所」を開業。第二東京弁護士会・子どもの権利委員会、日本弁護士連合会・子どもの権利委員会、学校事件・事故被害者弁護団などに所属。

 

プロフィール:木村 駿氏 
認定NPO法人Learning for All 子ども支援事業部 マネージャー。東京大学卒業。在学時よりボランティア・インターンとしてLearning for Allに参画し、その後職員として入職。困難な状況に置かれた子どもたちが「なりたい自分」になるための手助けをし、また社会課題を自分ごととして捉える人を増やすことを目指す。現在は子ども支援事業部のマネージャーとして学校内の別室登校拠点や中高生向けの居場所拠点を担当。

子どもオンブズの役割・課題

ー参加者)子どもオンブズマンで実際に政策提言され、結果に結びついた事例はあるのでしょうか?また学校制度自体にテコ入れをすることは可能なのでしょうか?

鬼澤:具体的に子どもオンブズマンから政策提言されて結果に結びついた事例はわからないのですが、自治体によっては子どもに関する法律などの制定に際して子どもの権利擁護委員が意見書を提出するなどの活動を行っているところもあります。

政策実現で難しいなと思うのは、子どもオンブズマンには自治体の予算を使う権限や制度設計を変える権限はないので、子どもオンブズマンの活動に協力的でなければなかなか制度を変えるまでは難しいという点です。この点はスクールロイヤーに関しても同じで、学校の法律や制度、条例について変更すべき点を提案しても、実際すぐに変えられるわけではありません。

子どもオンブズマンの位置付けとしては、制度改革をしてほしいという子どもや保護者からの声を集める機関というのが一番イメージが合うかと思います。

木村:例えば、あまり学校関係者に知られていない政策・制度が、子どもオンブズマンが勧告をしたことによって学校に伝わって対応が変わった、という事例はあるのでしょうか?

鬼澤:まさにそうした役割が子どもオンブズマンにあると思います。

子どもオンブズマンのいいところは、子ども・保護者側と学校側の両方から話を聞けるという点です。スクールロイヤーは利益相反の問題があるので、こうした立ち回りはあまりできません。

「スクールロイヤーと子どもオンブズマン、どっちが好きか」みたいな議論もあるんですが、私はどっちもあるべきだなと思っています。子どもオンブズマンは子ども側と学校側両方の意見が聞けるのがメリットなのですが、その分工数がかかって関与できる件数には限界があるのがデメリットなんですよね。子どもオンブズマンに関わる弁護士の多くは他に仕事を抱えながら、子どもオンブズマンの仕事もしているので、その対応にかかりっきりというのは難しいんです。

子ども支援に関わる弁護士は教育的な見方と法律的な見方のすり合わせが大事

ー参加者)学校や教職員との連携にはどのような難しさがありますか?

鬼澤:私は法律を学んできた立場で学校現場を見ているので、学校の先生方と話をするときに教育的な見方と法律的な見方のギャップは感じます

極端に言うと、教育的な見方では過去よりも今後の子どもの未来を重視します。「過去に起こってしまったことはともかく、これからどうするかみんなで考えましょう」という感じですね。一方で法律的な見方では、過去あった事実を証拠から確定してそこから法律的な効果を導き出します

私がこのギャップを特に感じた話があるんですが、ある学校の先生のクラスで物が壊される事案があって、でもその先生は最終的に犯人探しはせず「これをされたらどう思うか?」という話し合いをクラスメイトにさせて収めるんですね。

私はこの先生の話を聞いて感動したんですが、一方で法律的な見方をすると、例えばいじめ防止対策推進法では、この対応はNGな対応方法なんです。いじめ防止対策推進法では、いじめを認知したら事実関係を確認するための措置を講じて指導を行います。そのため、教育的には素晴らしい対応方法でも、法律的な見方をすると事実関係の確認をしていないという点でよくない対応方法となるんです。

弁護士向けの研修を行う際にもこの見方の違いはしっかり説明しています。言語のすり合わせをするようなイメージです。実際に学校現場に弁護士が入っていって、教育的な見方も理解せずに法律的な見方だけでズカズカ物を言ったら反発しか生まれません。表面的には意見を聞いてもらえても、その後その学校で頼られる弁護士にはなれないと思いますね。

私は学校に関わる仕事をする中で「学校の文化」や「子どもへの理解」といった、これまで学校・子ども関係者の暗黙知のようになっていたものの言語化に力を入れてきました。それまでそうした知識が言語化されていなかったことで、学校関係者以外が立ち入れないような雰囲気があったと思うんですよね。私はこれを言語化して、みんなで理解できるようにしていくことを目指して活動しています。

子ども支援に関わる弁護士の担い手が少ない原因とは

ー参加者)子ども支援に関わる弁護士の数が足りないことが課題とおっしゃっていましたが、原因としては何があるのでしょうか?子ども支援領域の認知度不足、経済的な魅力不足、業務内容がハードなどの原因が考えられるかと思うのですが、どうお考えですか?

鬼澤:経済的な厳しさが一番大きいかなと思いますね学校分野は学校弁護士のあるべき姿というのが言語化されていないことが課題だと感じたので、私はそれに力を入れていろいろ活動してきました。学校以外の分野に関しては、そこで弁護士をやることでの生計の立て方や資金調達の仕方が定まっていないので参入しづらい面があるかなと思います。

木村:まだ子ども支援に関わる弁護士の仕事のやり方として決まった形がないから、選びにくいというのもありそうですね。

子ども・保護者の話を聞くときに気をつけていること

ー参加者)契約は子どもの代わりに保護者が交わしますが、それが子どもの意思に反しており、相談が来た場合に弁護士はどう対応するのでしょうか?

鬼澤:これは保護者から相談を受ける時に弁護士としても一番苦労しているところです。

対応の仕方としては、必ず子どもと一対一で話をする機会を設けるようにしています。また、保護者の方の相談を受ける時にも「子どもの意思が第一ですので」というお話をしています。なかには「子どものことは私が一番わかっている」「子どもはシャイだから私が話す」というスタンスの方もいて、子どもに話を聞けない場合は苦労しますね。

ただ、保護者の方も悩みに悩んだ上で決断して相談に来ている場合が多いので、こうした場合は保護者の方のお話を一度最後まで聞くように意識しています。話したいことを一通り話すと、保護者の方も少し落ち着くので、そのタイミングで「お子さんにもお話を聞かせてください」という提案をすると通りやすいですね。話の聞き出し方については弁護士同士でもよく相談しています。

木村:弁護士でありながらカウンセラーのような側面もあるんですね。そうした業務の複雑さも担い手の少なさに影響しているような気がしてしまいます…。

子どもから話を聞く際には、例えば日頃から保護者の方に何か言われている影響で一対一でも自分の意見が言いづらかったり、場面によって言っていることが二転三転したり、といったケースもあるかと思います。こうしたとき子どもの意見の聞き方で気をつけている点や意見の信憑性の判断についてはどうでしょうか?

鬼澤:話の聞き方で注意しているのは、「言いたくないことは言わなくていい」「保護者の方に知られたくないことはここだけの話にして絶対に言わない」と伝えることですかね。あとは、自分が悪いことをしている場合って言いたくないじゃないですか。なので、「何か不利なことを後から知ると味方しにくくなっちゃうから、そういうのも全部教えてくれるともっと頑張って一緒に戦えるからね」といったことも伝えるようにしています。

事実関係の確認については、子どもの言うことの時系列がおかしかったりする場合に保護者の方や他の資料も確認して判断することもありますね。基本的には子どもの意見を聞いて、保護者の意見を聞いて、他の資料などと照らし合わせて客観的に判断します。

弁護士として相手にお願いする上で、どこが落とし所でどこが主張として弱いのか、は常に客観的に考えていて、コミュニケーションや聞き方を工夫してできるだけ事実が出てくるように聞くようにしています。ただ、傷ついて相談に来られている方も多いので、話し方や聞き方が否定的だったり厳しめだったりにならないようにも注意していますね。

登壇者からの挨拶

本日はありがとうございました。

弁護士の役割も細分化されて分かりにくくなっているので、これから私も情報発信を頑張っていければと思います。関連して、子ども支援に関わる弁護士や制度というまとめ方ではないのですが、「学校で困ったことが起きたときの相談先一覧」というテーマで私のnoteに記事を掲載しています。相談先がわからなくて困っていることがある場合はぜひ参考にしてみてください。

▶︎鬼澤秀昌|学校で困ったことが起きたときの相談先一覧を作ってみました(子ども・保護者向け)

また、第二東京弁護士会で設置している電話相談や、弁護士子どもSNS相談では、子どもに関わる支援者の方々も相談をしていただけます子ども支援に携わる中で、弁護士に相談した方がいい事案に遭遇した場合は、ぜひ電話相談やSNS相談もご活用ください。

これから子ども支援に関わる方々と連携していろいろなことをやっていければと思っていますので、皆さまどうぞよろしくお願いします。

まとめ

今回は、おにざわ法律事務所代表の鬼澤さんに、子どもオンブズマンの役割・立ち位置や学校や教職員支援の難しさ、子ども・保護者への話の聞き方などについてお話を伺いました。ポイントを以下にまとめます。

  • 子どもオンブズマンの位置付けは、制度改革をしてほしい子どもや保護者からの声を集めて調整・改善する機関というイメージが合う
  • 学校における教育的な見方と弁護士の法律的な見方は異なるものなので、弁護士はそのすり合わせをしっかりした上で介入していくことが大切。
  • 子ども・保護者の相談を受ける際は子どもと一対一で話す機会を設けて本人の意思を確認するようにしている。
  • 子どもの話を聞かせてもらいづらい保護者の対応では、一度保護者の抱える思いをすべて聞いてから子どもにも話を聞かせてもらいたいことを伝える。
  • 第二東京弁護士会で設置している子ども向け相談窓口は子ども支援者も相談できるので、弁護士が対応した方がいい事案に遭遇した場合は積極的に活用してほしい。

※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

この記事は役に立ちましたか?