学習遅滞を抱えた子どもや発達特性を持った子どもへの学習支援などを、学校や地域のNPOと連携して行っているNPO法人Learning for All(以下、LFA)。LFA独自の拠点だけでなく、公立の小中学校と連携して「学習支援事業」を行っています。
今回ご紹介するのは、学校連携をしているLFAの学習支援事業についてです。学校現場と連携し学習支援事業を導入する際のステップや、学校との連携において大切にしていることなどをご紹介させていただきます。
前編では、下記のステップごとに意識していることについて多田さんに伺いました。
1.学校との信頼関係を築く
2.学校のニーズを把握
3.支援開始・方向性を合意していく
後編では、支援の方向性を合意した後、実際に子どもを集めるステップ以降について伺っていきます。
前編はこちら
プロフィール:多田 理紗
Learning for All 子ども支援事業部。大学生当時、地元での原体験からLFAに参画し、非常勤職員として研修開発・現場運営統括に従事。大学卒業後、IT企業を経てLFAに復帰。全ての子どもの”子どもの権利”・全ての人の”学習権”が保障され、一人一人が主体として思いやりをもち豊かに生きる社会にしたい。”自分が大切にされ、自分を大切に思うこと” ”身近な他者や社会と繋がりをもち、しんどいときは誰かに頼り、自分も誰かから頼られる存在であること” “やりたいことが見つかれば、そこに向かって踏み出す糧となる経験”を届けたい。
最近ハマっていること:お花が自宅に届く定期便、日向坂46の番組を観る
学校現場と連携した「学習支援」の導入ステップ
4. 学習支援に参加する子どもを募集する
具体的に支援の内容やスケジュールが決まったら学校の先生方にご協力いただき、参加希望の子どもを募ってもらいます。事前に、学習支援を行う対象学年の中で「先生としてこのプログラムに参加して欲しい子ども」は何人くらいいるかを教えていただき、申込締め切り次第、実際にどれだけ申し込みがあったかを共有していただきます。
参加する子どもが確定してからは、子ども一人一人に対して先生の目線で「どんなポイントで支援が必要と考えているのか」「学校での様子」「家庭としての課題感」などを共有していただきます。
5. 学習支援のスタート
実際に子どもたちへの学習支援プログラムが始まったら、プログラム中の子どもの変化や指導する中で感じた難しさなどについて適宜情報交換をさせていただいています。より困難度の高い子どもについては週1回は情報共有を行わせてもらえないか調整しています。
最低でも学期中に一度は、支援しているすべての子どもについて情報をいただいたり、こちらから共有したりする機会を設けるようにしています。
6.支援の導入を円滑に進めるポイント
- 「自分自身がどんな人間か」を伝え、興味を持ってもらう
学校の先生や関係者との信頼関係を築く際、団体説明に終始してしまい「自分自身がどういう人間か」を伝えていなかった時期がありました。
しかし現在は「私自身がどんな風に育って、どんな思いを持ってLFAで活動しているか」という一個人としての背景や思いを伝えるようにしています。そうすることで、自分自身にも組織の活動にも興味を持ってもらいやすくなりました。初めてLFAを知る方にとっては、目の前にいる私がLFAを表す人間です。自分自身の思いを伝えることで、共感・信頼してもらうことができると気づきました。 - スケジュールは先回りをして、具体的に提案
支援開始に向けて具体的なことを決める段階ではスケジュール調整などが必要になってきます。その際「スケジュールはどうしましょう?」と漠然と伺うのではなく、あらかじめ具体的に想定したスケジュールを持っていきます。
※学習支援スケジュールの提案例
先生が「このスケジュールでできそう/できなさそう」「この日程は、少しずらしたほうが良さそう」などと判断しやすい形で提案することで、円滑に話が進みます。
たとえば提案の仕方として「学習支援は週1回で6〜8週間できたら良いですよね、だとすると私たち(LFA)は準備期間がこれくらい必要で、事前に学力を測るテストはこの辺りで実施させていただきたいです。したがって、この日程までに参加希望の生徒さんを集めていただくことは可能ですか?」という形で、具体的に相談していきます。
また、プログラム実施当日のタイムスケジュールなど詳細部分も文書を作成し、合意をとっています。そうすることで準備〜当日まで、円滑な支援が実現ができると考えています。
不登校“傾向”の子どもたちへの支援も
━━学校の先生方との密な連携によって、学習支援が実現しているのですね。学校現場とLFAが連携したからこそ支援につながった具体的な事例はありますか?
不登校傾向の子どもが学校につながりなおした事例があります。「不登校」は文部科学省の調査で用いられている定義があり、学校現場でも一般的にそれが適用されています。その定義とは「何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により登校しないあるいはしたくともできない状況にあるために年間30日以上欠席した者のうち、病気や経済的理由による者を除いたもの」というものです。学校において「不登校の子どもへの対策」の対象になるのは基本的に、この定義に当てはまる子どもたちです。
ただ実際には、「不登校の子どもへの対策」の対象から外れているもののサポートが必要な子どもは存在します。そのような状況にある子どもを担任の先生から紹介いただき、LFAが週1回実施する学習支援に繋がりました。その子は土日に実施している学習支援に毎週参加しているうちに、平日の学校にも行けるようになったのです。
━━ルール上、学校では対策がしきれていない子どもたちにも、支援することができた事例なのですね。学校連携において意識していること・大切にしていることはなんでしょうか。
常に子どもたちに接している先生方への尊敬の気持ちは忘れないようにしています。困難を抱えた子どもへの理解の深さや対応経験の多さ、思考の深さなど、こちらが勉強させていただくことがとても多いです。また、一般的な「先生=忙しい」というイメージをもとに話すのではなく「担当の先生ごと」に異なる業務があることを理解し、それぞれの大変さ・忙しさがある中でご協力いただいていることへの感謝をお伝えするようにしています。
更に、子どもと向き合う一人の人間同士として、学校の先生と想いを交わしていくことも大切にしています。私の印象に残っているのは、学校の先生とLFAの目標を共有した時のことです。
その先生に「本来LFAの活動は、国の法制度のなかで保障され実施されているべきものだと考えており、法制度化されることを目指して活動している」という目標の共有をしたことがありました。その話に大変共感していただき、今行っている学習支援は、目の前の子どものためであることはもちろん、確かな実践・実績をもとに法制度化を提言していくためにも重要な活動であることを、先生と共通認識を持つことができました。未来の目標まで共有できる関係性を作れることが、まさに学校と連携する醍醐味だと感じました。
そういった共感や、深い信頼関係を結ぶことも大切ですし、子どもの変化を一緒に喜ぶ関係性になることも大切にしています。例えば、学習支援に参加した子どもが、学校の授業でも「手を挙げて発言できるようになった」などの子どもたちの良い変化を、一緒に喜ぶことができます。継続的に良い形で支援ができていると、自ずとそのような関係性になれると感じています。
━━多田さん、ありがとうございました。
最後にLFAの学習支援事業における「学校連携」についてポイントを以下にまとめます。
まとめ
- 学校を学習支援拠点とする場合、行政への働きかけがきっかけになることが多い。しかし、急にできるものではなく、地道な実績の積み重ねが大切
- 学校現場との連携は「団体として」「個人として」共感・信頼できると思ってもらうことが非常に重要
- 支援対象となる子どもたちにはさまざまな課題・ニーズがある。どのような困難を抱えた子どもがいるのか、具体的なケースで確認する
- 学習支援の実績づくりとして「まずは小さくはじめてみる」
- 実際に支援の内容やスケジュールを決める際には、具体的に想定したもの文書にして提案し、先生方が判断しやすいようにする
- 常に子どもたちに接している先生方への尊敬の気持ちを持ち続け、協力に対する感謝をお伝えする
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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