【連載第4回】初めて学ぶ!子ども支援現場における性教育のいろは④

連載第3回では、思春期保健相談士の徳永桂子さんに、子どもたちが受けている性被害の実態および日本の性教育の現状について伺いました。今回は、子ども支援現場における具体的な性教育の取り組み方について、引き続き徳永桂子さんに伺います。

【連載第3回】初めて学ぶ!子ども支援現場における性教育のいろは③
【連載第3回】初めて学ぶ!子ども支援現場における性教育のいろは③

プロフィール:徳永 桂子
思春期保健相談士、2女2男の母
1997年にCAP(Child Assault Prevention、子どもへの暴力防止)スペシャリストとして仲間とともに市民グループ「CAPにしのみや」を立ち上げる。その活動の中で子ども達自身から幼児期・学童期の性被害について聴き、個人で性教育活動を始める。保育所、幼稚園、小・中・高等学校、特別支援学校、助産学科、看護学科、各地の男女共同参画センターなどで、性教育ワークショップを多数開催。
著書に『からだノート:中学生の相談箱』(大月書店、2013年)など。

子ども支援現場の価値と役割

—地域で子どもに関わる大人として、子ども支援現場で特に担うべきことにはどのようなことがあるのでしょうか?

地域の子ども支援現場は、学校や家庭ほど距離が近くないからこそ、子どもがホッとできる場所になっていると思います。だからこそ子どもの興味関心の本音を聞くことができたり、性的なSOSの行動も表出しやすかったりします。そうした場面に遭遇した際に、まずは教えてくれてありがとう」と感謝しつつ、その背景を考えて適切なサポートに繋げることが重要です。特に性に関しては、前回、「心配をかけたくない」と思って被害を打ち明けられていない子どもが多いことをお伝えしました。子どものSOSを受け止める子ども支援現場の役割は大きいと思います。

まずはとりあえず性教育に関する本を置くところから始めてみると良いと思います。そうした本をきっかけに子どもの意見表明や質問が始まることもあります。もし子どもから聞かれて分からないことがあったら、「私も知らないの。一緒に勉強しよう」と、子どもと一緒に学びを深めるチャンスにしてください。大人も十分な性教育を受けないまま大人になったので、知らないことがいっぱいあっても当然です。購入した本は、まず大人が熟読してください。そして、知らない言葉に対しても「どこでその言葉を聞いたの?」「ネットに出ていたんだね、それって本当かな?」「一緒に調べよう」と、子どもとの会話のきっかけにしていただけると良いと思います。

保護者からの相談事例①

—実際に現場スタッフから寄せられた相談を踏まえて、具体的な事例に対する対応方法についてお伺いします。まずは保護者からスタッフに相談が寄せられた場合についてですが、「子どもがスマホやタブレットで性的な動画を見ているのだが、どうしたら良いか」と保護者から現場スタッフへ相談があった場合はどのように対応すれば良いでしょうか?

子どもの年齢にもよりますが、まずはショックを受けた保護者の気持ちを聞いて、受け止めましょう。その上で、科学・安全・健康に基づく性教育のために働きかけをするとよいと思います。そもそも、幼い子どもはそれらのコンテンツを見たくて見ているのではなく、何か他のことについて検索していると、広告からアダルトサイトに飛んでしまい、「見せられている」のが現状だと思います。最初は気持ち悪いと思うけれど、繰り返し見せられているうちに、歪んだ形で興味が引き出されて、思春期には自ら検索する、という場合が多いです。そのため、「年齢にそぐわない性的なコンテンツを子どもたちが見ている」という事態は、適切な情報提供ができておらず、18歳以下の子どもに性的、暴力的映像を見せてはいけないという社会的ルールを守っていない大人の責任なのです。

会話例1:幼児期、児童期の子どもを持つ保護者の場合

 

まあ、それは驚かれたでしょうね、どんな風に感じましたか?

 
 

こんなに小さい子どもが性に興味を持つなんてショックです。うちの子おかしいでしょうか?

 
 

お子さんをおかしいと感じたのですね。でも、自分の体や性に興味を持つことは幼児期の大切な発達のひとつですよ。興味に応じてタイムリーに学ぶことは、自分の体や性は大切なんだという気持ちを育てることができるチャンスです。ただ、性的な動画は不適切な情報なので、幼児にふさわしい教材を用意しましょうね。

 

幼児期、児童期の子どもにおすすめの書籍

 

会話例2:思春期の子どもを持つ保護者の場合

 

まあ、それは驚かれたでしょうね、どんな風に感じましたか?

 
 

我が子が我が子でなくなったような、子どもが急に遠い存在になってしまったような気がして寂しいです

 
 

思春期は体が変化する時期ですし、性や恋愛に興味が出てくるのも大人に向かっての大切な変化です。学ぶことで戸惑いや不安を減らすことができますし、大人への変化を肯定的に受け入れることができるようになります。ただ、知りたいという気持ちをしっかり認める言葉をかけましょう。「大人に近づいて性に興味が出てきたのね。嬉しいわ。ただ、その情報は科学的に間違っているよ。こっちに科学・安全・健康に基づいた情報が載っているので読むと良いよ」と、科学的な情報や自分と相手を大切にできる方法を学べる教材を用意しましょうね。また、子どもに本を渡す前に、まず保護者も全部読んでみてください。改めて基本を学ぶことで、子どもとの会話もしやすくなります。

 

思春期の子どもにおすすめの書籍

保護者からの相談事例②

—ひとり親世帯の保護者から、「トイレの使い方を指導してあげて欲しい」など異性の子どもへの対応の仕方についてスタッフへ相談があった場合はどのように対応すれば良いでしょうか?

家庭でも拠点でも同じメッセージで子どもに教えていくことが効果的なので、まずは「一緒に取り組んでいきましょう」と性教育の本や子ども向けの絵本などを提示することが大切です。性器(足と足の間全体をさす言葉)の構造を保護者が学ぶことで、適切な支援や指導の仕方(例えば性器の拭き方や洗い方など)が分かるようになります。

幼児や障がいのある子どもの場合は、同性の大人がやって見せることが最も有効です。親族など同性の大人に協力してもらえる場合は手伝ってもらうとよいでしょう。それが難しい場合は、例えば男子向けには、トランクスやジャージと性器模型がセットになった、性器模型の先から水を出せる教材(排尿支援教材)が開発されています。そのため、保護者やスタッフがその教材を服の上から付けて、便器に対しての立ち位置や的を狙っておしっこを出すことを教えることができます。

保護者からの相談事例③

—拠点で性教育の取り組みを行おうとする際、最初は保護者から理解が得られないこともあるかもしれません。「寝た子を起こすようなことをしないで欲しい」などの訴えが保護者からあった場合、どのように対応すれば良いでしょうか?

その保護者が何にどのような不安を感じているのかを聞いた上で、前回紹介した内閣府のデータなど、事実を元に性教育の必要性を説明することが大切だと思います。文部科学省の「生命(いのち)の安全教育」を紹介して、国の方針として性教育が重視されていることを説明したり、保護者向けの性教育の本などを紹介して、一緒に学んでいくことを促したりすることも有効だと思います。

保護者におすすめの性教育サイト

  • 「命育」
    https://meiiku.com/
    専門家の性の知識を子どもへの伝え方という形に変えお届けし、大人と子どもが性のコミュニケーションを図る機会をつくることを目的としたサイトです。
  • 「子どもの性の健康研究会」
    http://csh-lab.com/leaflet_download
    性暴力被害にあった子どもの回復支援、ストレス反応のチェック&リラックス法などの心理教育教材のダウンロードができます。

まとめ

今回は、思春期保健相談士の徳永桂子さんに、子ども支援現場における具体的な性教育の取り組み方について、特に保護者への働きかけという観点で伺いました。ポイントを以下にまとめます。

  • 子どもと近すぎない距離にあるからこそ、地域の子ども支援現場は子どもの興味関心の本音や、性的なSOS行動を受け止めることができる
  • 子どもの性的な言動にショックを受けた保護者からの相談に際しては、まずはショックを受け止めつつ、科学・安全・健康に基づく性教育を家庭で行えるようにサポートすることが必要である
  • 家庭でも拠点でも同じメッセージで子どもに教えていくために、保護者が拠点での性教育の取り組みに不安を感じている場合には、事実に基づき取り組みの必要性を説明することが大切である

次回も引き続き徳永さんに、子ども支援現場における具体的な性教育の取り組み方について伺います。

【連載第5回】初めて学ぶ!子ども支援現場における性教育のいろは⑤
【連載第5回】初めて学ぶ!子ども支援現場における性教育のいろは⑤

企画協力:性教育サイト「命育https://meiiku.com/

医師・専門家の監修で、年齢に応じた包括的な性教育の情報(子どもへの具体的な伝え方、専門家によるお悩みQ&A、セミナー情報など)を発信している。

※本記事の内容は専門家個人の見解であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

 

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