子どもに合った支援をするには? 〜個別支援計画の作成方法〜

「子どもに合った支援」とは、まさに「言うは易く行うは難し」と言えるものです。日々子ども支援に携わる中で、「今この支援がこの子にとって本当に適切な支援なのだろうか?」という疑問を抱いたことのある方も多いのではないでしょうか。
今回は、子どもに合った支援をするために個別支援計画を作成するメリットや作成のポイント、子どものニーズを理解するコツなどを、NPO法人Learning for All (以下、LFA)のソーシャルワーカーである竹田さんに伺います。

プロフィール:竹田 ゆきえ
Learning for All 子ども支援事業部。大学卒業後、ソーシャルワーカーとして精神科医療機関で勤務。重度の精神疾患を抱える患者さんや、救急対応が必要な精神状態の方の地域での生活を支援し、児童精神科でのソーシャルワーク業務にも従事した。その後、JICAボランティアとしてドミニカ共和国で活動。子ども時代の経験がその後の人生に与える影響の大きさ、生まれた環境による選択肢の違いを感じた。2020年6月からNPO法人Learning for All に入職。「ありのままの自分で良い」と思える子ども時代とそれを応援できる社会を実現したい。最近ハマっていること:K-POPの歌やダンスを練習し、子どもたちと楽しむこと

個別支援計画の概要

個別支援計画とは?

━━まず初めに、個別支援計画の概要についてお話いただけますか?

日々子ども支援をする中で、その時々の子どもの様子や表出する課題に振り回されず、長期的な視点や目標を持って支援に携わるために必要なものが、個別支援計画です。個別支援計画作成の手順は、基本的に以下の5ステップです。

  1. 情報収集
  2. アセスメント(収集した情報を整理・分析し、子どもやその周りの環境の状況を客観的に評価する)
  3. プランニング(実際に行う支援の計画を立てる)
  4. 実行
  5. モニタリング(計画を振り返り、修正する)

━━プランニングでは、どの程度の期間の目標や計画を策定するのでしょうか?

長期と短期の2つを考えることが多いです。短期は1か月から3か月、長期は半年から1年程度を目安として目標や計画を立てています。

 

個別支援計画作成のメリット

━━個別支援計画を立てるメリットについてお伺いしたいです。個別支援計画を立てる前と立てた後で大きく変わることにはどのようなことがありますか?

大きく分けて2つあります。

1つは対象の子どもに対して本当に必要なことは何かを考えながら支援しやすくなる点です。先ほどもお話した通り、個別支援計画という指針を立てることで、その時々の子どもの様子や表出する課題に振り回されずに、長期的な視点や目標を持って支援に携わることができるようになります。また、子どもの困難な状況や課題がすぐに解決されなくても、焦らずに支援に取り組むことができるようになります。

もう1つは対象の子どもに対する支援方針を複数の支援者で共有できる点です。子どもに関わる他の支援者と支援計画を共有することで、同じ方向に向かって支援を行うことが可能になります。

 

個別支援計画作成のポイント

━━個別支援計画の手順について、先ほど個別支援計画作成の5ステップをお話いただきましたが、これらについてさらに詳しく教えていただけますか?

情報収集、アセスメント、プランニングにおけるポイントについて、お話します。

1. 情報収集
自分たちが直接見たり聞いたりした情報はもちろん、対象の子どもが関わる他の機関からの情報も収集対象になります。意外と忘れがちですが、子ども自身の意見や保護者の願いを聞くことも重要です。

また、情報の中には、客観的な事実(活用している行政の制度など)と自分たちの主観が混ざった情報(子どものコミュニケーションの特性に基づいた推測など)が混在します。それらを明確に分けて整理することが重要です。

2. アセスメント
アセスメントでは、収集した情報を元に、対象の子どもや家庭の状況についてイメージを広げていきます。最も重要なステップですが、最も難しいステップでもあります。

ジェノグラム、そしてエコマップといったツールを活用するとやりやすいので、これらについて後程詳しくお話します。

3. プランニング
対象の子どもの想いを中心に計画を立てることが最も重要です。子どもが望んでいない計画を立ててしまわないように、例えば子ども自身に「どんなお姉さん/お兄さんになっていきたい?」などの質問を問いかけてみてもよいでしょう

また、目標を立てる際には、達成状況を評価しやすい目標を立てることが重要です。例えば「〜しない」という目標設定よりも「〇〇回〜をする」といった目標設定の方が達成状況が見えやすいです。

 ━━子どもや保護者の意見や想いを知っておくことが重要ですね。そうした意見や想いを聞く際に、気を付けていることなどはありますか?

日常的な何気ない会話の中で本人の希望を聞くことができる場合もありますが、改めて問いかけてみないと出てこない意見や想いもあります。「あなたがここでどう過ごすかを考えたい」「あなたのために何ができるかを考えるために想いを聞きたい」と明確に目的や知りたい内容を伝えたうえで、本人の意見や想いをちゃんと聞くのが大事だと思います。

 

アセスメントのためのツール

ジェノグラムとエコマップ

━━個別支援計画作成の5ステップの中で、先ほど難しいと話されていたアセスメントについてさらにお伺いしたいと思います。アセスメントのためのツールであるジェノグラムとエコマップについて、その概要を教えていただいてもよろしいですか?

ジェノグラムおよびエコマップは、情報収集で得た情報を可視化・整理することで、対象者の周囲の環境についてイメージを膨らませることができるツールです。

ジェノグラムは、対象の子どもを中心とした家族・親族の状況が一目で分かるような家族図です。ジェノグラムを見ることで、その子どもがどのような家族に囲まれて生活しているか、あるいはこれまでどのような家族と過ごしてきたのかを把握することができます。例えばアニメ『サザエさん』の磯野家のジェノグラムは以下の画像1のようになります。

画像1:磯野家(カツオ)のジェノグラム
引用:「保育園での「ジェノグラム」「エコマップ」活用法!~書き方・記入例~」ほいくジョブ

そして、エコマップは、ジェノグラムに加えて他の社会資源を図に書き入れ、対象の子どもや家庭とそれらの社会資源との関係性を図示したものです。ここで図示する関係性には客観的事実だけではなく主観的な評価も含みます

ジェノグラムは基本的に誰が書いても一緒になりますが、エコマップは主観的な評価を含むので、作成する人によって内容が異なります

同じくアニメ『サザエさん』の磯野家を中心としたエコマップを作成してみると、以下の画像2のようになります。

LFAの個別支援計画では、ジェノグラムよりもエコマップを使用することが多いです。

画像2:磯野家(カツオ)を中心としたエコマップ
出典:「保育園での「ジェノグラム」「エコマップ」活用法!~書き方・記入例~」ほいくジョブ

 

エコマップ作成のポイント

━━エコマップ作成の際のポイントについてお話いただけますか?

エコマップを書く以前に持っていた主観的な印象や判断を掘り下げるということを意識しています。例えば対象の家庭と関係性が濃いと思われる関係機関がある場合、自分がそのように判断したのはなぜなのかを掘り下げて考え、情報を整理することで、主観的な印象や判断に客観的な裏付けを得ることができます。

また、関係性が濃いと思われる機関から書いていくと書きやすいと思います。最初は対象の子どもと同居している家族や、同居していなくても普段行き来している家族、続いて家庭が普段頻繁に連絡を取っている機関というような順序です。さらに、家庭との関係性があまり良くない諸機関や、家庭との間でトラブルを抱えている諸機関を書き込んでおくことも重要です。ただし、機関同士の関係性が悪いという判断を行う際には慎重になる必要があります。一度関係性が悪いと判断してしまうと、その機関同士は繋がらないものだというイメージがどうしても強くなってしまいます。関係が悪いという判断はあくまでも現在の状況に過ぎないので、関係性は常にアップデートされていくものだという認識を持っておくことが重要です。

 

プランニング時の優先順位のつけ方

━━エコマップを書いてアセスメントをしたのち、実際にプランニングを行うことになると思います。アセスメントの結果、対象の子どもや家庭に複数のニーズがあると判断した場合、ニーズの優先順位付けのために考えるべきことや重要なことはありますか?

まずは自団体が提供しているサービスの中で対応できるニーズに焦点を当てることが重要です。ニーズが大きくとも自団体が扱いきれないものについては無理せず、他の適切な機関に繋げることを考える方がよいと思います。

また、短期的に満たすことのできそうなニーズと、長期的に支援が必要なニーズとをバランスよく優先順位づけることも大切です。子ども自身に「出来た!」「成長した」という感覚を味わってもらうために、短期的に結果が見えそうなニーズを1つは目標として定めておくとよいです。それを達成することで、子ども自身が支援計画に対して前向きになれるのではないかと思っています。

 

まとめ

ここまでのお話をまとめます。

  • 長期的な視点で子どもの支援を考えるための個別支援計画は、以下の5ステップで作成する
  1. 情報収集
  2. アセスメント(収集した情報を整理・分析し、子どもやその周りの環境の状況を客観的に評価する)
  3. プランニング(実際に行う支援の計画を立てる)
  4. 実行
  5. モニタリング(計画を振り返り、修正する)
  • 個別支援計画は、子ども自身の想いや保護者の声を中心に作成することが重要である
  • アセスメントは難しいが最も重要なステップ。エコマップで子どもや家庭と社会資源との関係性を可視化することで、支援者の主観的な印象や判断に客観的な裏付けを得てイメージを膨らませることができる

今回は、ソーシャルワークの視点から個別支援計画の作成方法や作成の上でのポイントなどについて伺いました。竹田さん、ありがとうございました。

 

※本記事の内容は専門家個人の見解であり、記事内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

この記事は役に立ちましたか?