2022年10月に文部科学省が公表した調査結果(※)によると、日本の小中学校における不登校児童生徒を含む「長期欠席者」の数は9年連続で増加しており、2022年の調査時点でその数は過去最多となっています。
※「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」(文部科学省)
そんな中、不登校状態にある子どもたちに向けた、オンラインを活用した支援が注目を集めています。今回はオンラインのメタバース空間を活用した不登校児童生徒への支援プログラム「room-K」のご担当である、認定NPO法人カタリバ(以下、カタリバ)の加賀谷さんと白井さんにお話を伺います。
前編である今回は、まず「room-K」の取組についての具体的なお話や、現在注力している自治体連携について伺います。
プロフィール:加賀谷 悠
静岡県出身。大学・大学院にて子どもの居場所やコミュニティについて学び、児童福祉の道を志す。広域自治体の福祉職として児童福祉施設でのケアワークに従事した後、2021年にカタリバへ参画。不登校支援プログラム「room-K」にて伴走支援内容および子ども向けプログラムの開発・スタッフの人材育成などを担当。
プロフィール:白井 さやか
神奈川県出身。前職はNPO法人コモンビートで事務局として、9年間全国各地のミュージカルプロジェクトを運営。ボランティアマネジメントやコミュニティ運営の経験と、保護者の立場を活かし、現在は不登校支援プログラム「room-K」で、運営チームのリーダーとして、CS・事業内バックオフィス全般を担当。
カタリバが目指す「シェア型オンライン教育支援センター」とは
—ご活動内容について教えてください。
加賀谷:私たちカタリバは、「誰ひとり取り残さずに学びにつなぐ」と「未来をみずから切り拓く力を育む」という2つのテーマを掲げ、サードプレイス(居場所)運営、プログラム提供、学校や行政へのハンズオン支援を行っている団体です。
カタリバは、全ての活動において「ナナメの関係」を大切にしています。親や先生(タテの関係)でも友だち(ヨコの関係)でもない、少し先を行く先輩のようなナナメの関係性のなかで、対話を通じて意欲と創造性を引き出すことを大事にしています。
カタリバは様々な事業に取り組んでいますが、新型コロナウイルスが流行し始めた頃からオンラインの事業により力を入れるようになり、その中の1つである「オンライン不登校支援プログラム」として「room-K」を運営しています。
もともとは2020年に、一斉休校中の子どもたちの居場所運営をオンラインで始めたのがきっかけでしたが、一斉休校が終わった後も学校に行っていない子どもが多いことに気づき、不登校支援の必要性を感じてroom-Kのプログラムが始まりました。本格的にroom-Kをリリースしたのが2021年11月ですので、今はちょうど始めてから1年が経ったくらいですね。
画像:カタリバ作成
room-Kでは、オンラインを通して様々な自治体で不登校支援リソースをシェアする「シェア型オンライン教育支援センター」の実現を目指しています。
—「教育支援センター」とはどういう場所なのでしょうか。
加賀谷:既存の「教育支援センター」とは、長期間学校に通えていない児童・生徒向けに、教育委員会が用意した、学籍がある学校とは別の「学びの場所」です。学校が認めれば、教育支援センターへ通うことが出席扱いになるような場所として位置づけられています。
—教育支援センターは、既に全国どの自治体においても設置されているのですか。
加賀谷:現時点では、教育支援センターは約40%くらいの自治体では未設となっています。また、設置されていてもなかなか利用されていないという自治体もあります。しかし、考えてみるとそれは自然なことだとも思います。毎日外に出て学校に通うことが難しい子にとっては、たとえ学校でなくても、学校に近い施設である教育支援センターに毎日通うのは難しいですよね。
そこで私たちは全国どこに住んでいる子どもであっても、オンライン版の教育支援センターを通じて、勉強ができる世界を実現したいと思って活動をしています。
既存の教育支援センターになかなか足が向かなかった子どもであっても、オンラインだったら一歩目を踏み出すハードルが低くなったり、子どもの興味に合わせたコンテンツを利用していることで「楽しそうだな」「ちょっとチャレンジしてみようかな」と思えたりする。そういった部分で、room-Kは今までの教育支援センターとは違う可能性を持っているんじゃないかと思っています。
「個別」と「集団」の二本柱で子どもを支える
—room-Kの取組について、具体的に教えてください。
加賀谷:room-Kでは、子どもたちが自分でアバターを選択して、オンラインのメタバース空間上の学びの教室に入ったり、子ども同士で遊ぶことができます。オンラインであることで、外に出るのがちょっと怖かったり、他の人に対面で出会うことにハードルがある子どもにとって、一歩目を踏み出すハードルが低くなっているのかなと思っています。
また、子どもたちには「メンター」と呼ばれる個別の伴走スタッフが一人ずつつきます。子ども一人に対して必ず一人のメンターがつき、継続して関わり続けています。
メンターと子どもは、週に1~2回くらいの頻度でオンラインで密に話をしています。その会話の中で子どもの状況を確認しながら、徐々に集団での学びプログラムにも参加してもらい、他の子どもたちと一緒に学んでいくようになります。このように「個別」と「集団」の二本柱で支援を行っています。
画像:カタリバ作成
—room-Kにおいて、子どもたちはどのような学習を行っているのですか。
加賀谷:room-Kで提供している学習プログラムの内容にはグラデーションがあります。勉強の要素よりもまずは「楽しむ」要素の方が強いプログラムもあれば、AI学習ドリルなどを使って、個別指導に近い勉強をするプログラムもあります。
月曜から金曜までたくさんのラインナップのプログラムが開催されるので、その子の状態や好み、学年等に合わせて、メンターと一緒にプログラムを選びます。イメージとしては大学の授業を選ぶような感覚に近いですね。それを「マイプラン」として登録してオリジナルな時間割を作り、自分に合った学びを選び取って学習をしています。
画像:カタリバ作成
—オンライン上の空間で、子どもたち同士はどのように遊んでいるんですか。
加賀谷:メタバース空間では自分のアバターを自由に動かせるので、それを活用して鬼ごっこをしたりしていますし、「マインクラフト」のマルチプレイモードで一緒に遊んでいる子もいます。最近はオンラインで一緒に遊べるゲームもネット上にあるので、そのサービスを活用して一緒にボードゲームやお絵描きをしていることも多いです。案外、オンラインでもあらゆることが一緒にできるんだなと思っています。
サービス立ち上げ時期は、スタッフから子どもたちに遊びのツールを提案していたのですが、徐々に子どもたちが自然と「これやりたいんだけど一緒にやらない?」と他の子を誘ったり、スタッフに「こういうことを一緒にできる子を探しているから手伝ってほしい」と自発的に協力を頼んだりするようなことが増えています。現在は、大人から働きかけるというよりも、子ども達が主体的に遊びを作っている印象があります。
自治体と連携し、子どもの選択肢を増やす
—現在room-Kでは自治体との連携にも力を入れていらっしゃると伺いました。具体的にはどのような連携を進めていらっしゃるのでしょうか。
加賀谷:現在room-Kでは自治体とのパートナーシップを結び、埼玉県戸田市(※)など7つの自治体と連携をしています。
※「PressRelease/NPOカタリバ、埼玉県戸田市教育委員会とオンラインを活用した不登校児童生徒の学び支援に関する連携協定を締結」
自治体と連携すると、自治体経由で教育委員会から学校に広報をしていただき、子どもたちと安定的に繋がることができます。また、自治体と連携ができれば、経済的な理由から民間の不登校支援に手が届かない家庭にも、学びの場を届けることができると考えています。
白井:私たちは「学ぶ選択肢を増やした先の1つ」としてroom-Kの運営をしているため、「学校の代わり」ではなく「ステップルームの1つ」という位置づけの方が近いと思っています。「学校かroom-Kか」という二者択一の考え方ではありません。もし学校に行ったとしても、学校とroom-Kを併用することもできます。事業の名前に「room(部屋)」と入っているように、子どもたちが選ぶドアの1つとしてroom-Kがあってほしい、と願っています。自治体との連携を強化することで、子どもたちが選べる選択肢を増やしていきたいです。
まとめ
今回は、認定NPO法人カタリバの加賀谷さんと白井さんに、不登校支援プログラム「room-K」の取組について伺いました。ポイントを以下にまとめます。
- 認定NPO法人カタリバでは、オンラインを通して様々な自治体間で不登校支援リソースをシェアする「シェア型オンライン教育支援センター」の実現を目指して、「room-K」を運営している。
- room-Kでは、オンラインの特性を活用して「個別」と「集団」の両面から子どもたちに関わっている。
- 子どもたちの学ぶ選択肢を増やすために、自治体との連携を強化している。
後編では、印象的な子どもの変化のエピソードや、今後の展望について伺います。
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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