【連載第4回】若者支援(>就労支援)を知ってみる ~ 「川下」を知り、「川上」の役割をクリアにする ~(こども支援ナビ Meetup vol.16)

2023年6月22日に、子どもに向き合う全国各地の支援者が学び/知見/意見をシェアするオンラインイベント「こども支援ナビMeetup」の第16回が開催されました。

本イベントでは、認定NPO法人育て上げネットの執行役員である山本賢司氏をお招きし、子ども支援と若者支援の両方に取り組んでいる知見をもとに、「若者支援に取り組む立場から、子ども支援に取り組むみなさんに知っておいていただくと良いこと」を中心にお話していただきました。

イベントレポート第4回では、講演の最後に認定NPO法人育て上げネットの山本さんからご提示いただいたQ&A方式のケーススタディと、山本さんと認定NPO法人Learning for All (以下、LFA)代表理事の李、そして参加者の方との質疑応答の様子をご紹介します。

【連載第1回】若者支援(>就労支援)を知ってみる ~ 「川下」を知り、「川上」の役割をクリアにする ~(こども支援ナビ Meetup vol.16)
【連載第1回】若者支援(>就労支援)を知ってみる ~ 「川下」を知り、「川上」の役割をクリアにする ~(こども支援ナビ Meetup vol.16)
【連載第2回】若者支援(>就労支援)を知ってみる ~ 「川下」を知り、「川上」の役割をクリアにする ~(こども支援ナビ Meetup vol.16)
【連載第2回】若者支援(>就労支援)を知ってみる ~ 「川下」を知り、「川上」の役割をクリアにする ~(こども支援ナビ Meetup vol.16)
【連載第3回】若者支援(>就労支援)を知ってみる ~ 「川下」を知り、「川上」の役割をクリアにする ~(こども支援ナビ Meetup vol.16)
【連載第3回】若者支援(>就労支援)を知ってみる ~ 「川下」を知り、「川上」の役割をクリアにする ~(こども支援ナビ Meetup vol.16)

 

 

 

プロフィール:山本 賢司氏

認定NPO法人育て上げネット 執行役員。1977年生まれ。2001年3月法政大学社会学部卒業。大学在学中に関わっていたNPOで「放課後の居場所」としての学習塾や、不登校経験のある子ども達の中間的就労の場づくりなどに取り組む。2004年から育て上げネットを手伝い始め、2005年に入職。各種支援事業(自主・公共)のマネージメントを担当した後、企画・広報、企業連携や他団体連携事業を担当するなどして、現在に至る。

立川市教育委員会「立川市第3次学校教育振興基本計画検討委員会」委員(2019年度)

厚生労働省「職業情報提供サイト(日本版O-NET)普及・活用の在り方検討会」委員(2020年度~)

プロフィール:李 炯植 氏

2014年に特定非営利活動法人Learning for All を設立、同法人代表理事に就任。これまでにのべ9,500人以上の困難を抱えた子どもへ無償の学習支援や居場所支援を行っている。全国子どもの貧困・教育支援団体協議会副代表理事。2018年「Forbes JAPAN 30 under 30」に選出。

 

若者支援のケーススタディ

ここからは、若者支援に関する具体的な事例とよくありそうな課題を挙げ、私なりに回答したケーススタディを4つご紹介します。

①支援者としては「グレーゾーン」に感じるが、本人や保護者にその認識がない場合、どこにつなぐのがいい?

まずは、就労準備段階の支援者に相談してみましょう。私なら「できそうなことでの一般就労」か「保護者を含め、障碍受容を促しながらの福祉就労」とどちらを進めるかを本人に関わりながら考えたいです。

ちなみに私が子ども・若者と関わるときには、以下の図のようなことをイメージしています。


画像:認定NPO法人育て上げネット

なかでも得意・不得意を見ることと、盲点の窓・未知の窓を開けていくことを意識して関わっています。

②まだ本人が動けそうにない。どうしたらいい?

「動けない」の程度によりますが、大きく4つの選択肢があります。

  1. オンライン
  2. 宿泊型
  3. 保護者支援
  4. 訪問支援

本人や家庭の様子を見ながら、それぞれの状況に合った支援を行います。本人が「動けない」ときこそ、本人に情報を届けられる大人(保護者や支援者)がキーパーソンです。なお、訪問支援については先にも説明した通り、本人を無理やり外に連れ出そうとするような事業者もいるので、本人の納得感を大切にしながら関わってくれる事業者を選ぶことが大切です。

③本人が未成年だが、保護者が阻害要因になっており次につなげられる気がしない。本人は児相に忌避感がある。どうしたらいい?

こういうときこそ第三者の踏ん張りどころだなと思いますが、自分たちのできる範囲・できない範囲に注意することが必要です。

本人の希望を尊重することが第一ですが、弁護士に相談することでケースに動きをつくることができたりします。子どもの法律相談は「法律援助事業」というもので弁護士費用の援助が受けられます。親と子どもで問題がこじれてしまっている場合には、まずは子どもの人権110番に電話して、法テラスとつながることを検討するのも手です。

④若者支援の人として、子ども支援の段階で「これだけやっておいてほしい」ということはある?

「困った時は誰かを頼って良い感覚」を身につけておいてもらえるといいと思います。この感覚があると「受援準備度(支援を受ける準備)」が高くなり、将来の孤立を防ぐことにも繋がります。

一方で、無防備に誰でも信頼して懐いてしまうのは、良いところでもある反面、危うさもあります。そのため、自分を大切にする感覚、おかしいなと思ったら警戒する感覚もセットで持っていると、若者支援にバトンタッチされた時も支援がしやすいです。

参加者からの質問と回答

最後に、参加者からの質疑応答の様子をご紹介します。

その人に合う仕事や企業を見つける・作る


ー参加者)現在行っている既存の会社への就労支援に加えて、今後自分で起業する選択肢もあると思うのですが、その点はどうでしょうか?

山本:現代は稼ぎ方自体が多様化しているので、「ある社会」にうまく適応することだけを前提として考えるのではなく、その人がその人らしくいられる社会や仕事を作る発想は絶対に持たなければいけないと思っています。

私たちにとっては、そのための取り組みが働き方拡張支援です。好きなことをビジネスにして稼ぐことは簡単なことではないですが、働き方拡張支援で「好き」で稼ぎながら福祉もうまく使い、その流れで何人か集まって起業する、という方もこれから出てくると思いますね多くはありませんが、個人事業主として働いている方はもうすでにいます。

李:逆に既存の会社の受け入れ体制の変化はあったりするんでしょうか?

山本:東京だと「ソーシャルファーム」という取り組みが都によって始まっていますね。企業側が雇用者側にもっと配慮するという考え方そのものも広がっています。少子化の影響もあり、企業側が変わっていかなければいけないという機運はちょっとずつ高まっているように感じています。

李:就職は地元が多いとかあるんですか?

山本:若者によりますね。地元を出たいっていう若者と、自転車圏内がいいですっていう若者と両方います。これは公共交通機関を利用できるかどうかという点もポイントになってきます。いろいろな条件と照らし合わせて本人と相談しながら探してみるんですが、昔なら条件に合う企業がなくて行き詰まっていたことでも、今は「オンラインの仕事」もありますし、「無ければ作る」と思っているので私たち側としても楽になりました。

子ども支援と就労支援をつなげるタイミング

ー参加者)支援している子どもが高3で漠然と就労を考えているとき、子ども支援の現場ではできることがあまりないのがネックだなと感じています。子ども支援と就労支援の接続はどれくらいの時期から始めておくといいのでしょうか?

山本:高校1〜2年のときは就労に対するイメージもあまりないので、つなげようとしても本人が就労支援団体に行くことに違和感を持ってしまうことも多いと思います。なので、就労に対する課題が顕在化していない段階では無理につながらなくてもいいかなと思うんですよね。

私がちょっと心配になるのは、高校でアルバイトができないタイプの子です。アルバイトできる子は、働いて生きる力があるのでそこまで問題ないんですが、在学中にアルバイトをしない(できない)というタイプの子は就労の点で少し心配ですね。

そうした子に対しては、夏休みに就労準備支援をしている団体等で1〜2日の仕事体験に誘ってみるのもいいかなと思います。それをきっかけに働く力が少しでもついてくれたら嬉しいですが、もし進路未定で卒業したとしても、学生の間に1回でも就労支援準備団体を訪れてくれていると、そこから若者支援にスムーズにつながりやすいです。

就労意欲のない若者への支援のしかた

ー参加者)高校中退したまま18歳を越え、本人は就労に意欲がありません。子ども支援の枠では支援できず就労支援にもつなげにくいというケースで、就労支援につなげる方法はあるのでしょうか?どのようにつなげれば本人の意欲を下げずにできますか?

山本:「働きなさい」よりは「こんなことができるよ」という切り口で進めていくのがいいかなと思います。例えば、育て上げネットでは今度マインクラフトで働く練習というイベントをやるんですよね。そんな感じでゲームと絡めて中高生の興味を引いたりしてます。

私はそもそも、働くモチベーションを持って就労支援につながること自体が無理があることなのではないかなとも思っています。なので、「みんなで集まってマインクラフトやるのが働く練習になるっぽい。それくらいなら行ってもいいかな」くらいのモチベーションで参加してきてくれれば、それでOKです。

まずは出会えないと支援もできないので、関わりのある周りの大人が「こういうのあるらしいよ」と本人に情報を届けてくれると嬉しいですね。私たちとしても、子ども・若者が「参加したい!」と思える企画を立てたいので、気軽に問い合わせして情報提供してもらえると助かります。

社会資源の少ない地方での若者支援


ー参加者)地方にいる精神障害とグレーゾーンの若者支援に関して悩みを抱えています。社会資源が少なく、住民票の移動にも自治体ごとの温度差で苦しむケースが多いです。支援者と支援者がつながることが肝要なことは理解していますが、そもそも僻地にいる支援者が少ない場合があります。この時どんなネットワークを構築するか、社協などもあるので自治体を越えたネットワークづくりの参考になる情報はありますでしょうか?

山本:オンラインでうまくつなげていただきたいです。最近では、地方自治体さんと育て上げネットで協定を結び、若者支援の団体が少ない地域に対して育て上げネットのオンラインのリソースを自治体も認める支援として活用してもらう例も出てきています。自治体に私たちの理念に共感し、同じ想いを持ってくださる方がいれば、こうしたことも実現できます。

選択肢が少なくて難しいとは思いますが、これを機にいろいろな方とつながって相談してもらえればいいなと思います。

登壇者からのご挨拶

本日はお忙しい中ありがとうございました。できるだけ一般化した情報にすることを意識したので物足りないところもあったと思いますが、今回は若者支援・就労支援の全体像や考え方を知っていただくことを目的にしていた、ということでご容赦ください。今日の出会いが、日本社会の「履歴書の空白期間」が短くなるキッカケになれば幸いです。また何かご縁があれば、今度はみなさんのお話を聞かせてください。

まとめ

最終回の第4回は、認定NPO法人育て上げネットの山本さんに、具体的な若者支援の事例や子ども支援と就労支援をつなげるタイミング、就労意欲が乏しい若者への支援方法などについて伺いました。ポイントを以下にまとめます。

  • 就労支援では、その人がその人らしくいられる仕事や社会を見つける姿勢が大切。仕事や企業が無ければ作る。
  • 就労支援へのつながりは無理に作らず、まずは1回遊びに行くくらいの感覚で参加のハードルを低くする。1回つながりがあれば、その後の支援につなげやすい。
  • 社会資源の少ない地域では、オンライン支援サービスをうまく活用することも選択肢に。育て上げネットのオンラインサービス「アトオシ・オンライン」もおすすめ。

※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

 

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