居場所づくりにおいて、子どもの成長や変化を促すための「意図的な関わり」は確かに重要です。しかしながら、まず何よりもその場所が子どもにとって「居場所」となれること、その場所において子どもがありのままの自分でいられることが、居場所づくりには求められていると言えるでしょう。そのためには、スタッフ自身がありのままでいることもまた大切なことなのではないでしょうか。
今回は、居場所づくりにおける「意図的に関わること」と「ありのままでいること」との間のジレンマについて、認定NPO法人Learning for All(以下、LFA)の居場所拠点スタッフである片岡さんに伺います。
プロフィール:片岡 優衣
LFA職員。中学生・高校生が通う居場所拠点で拠点長をしている。前職では塾の教室長なども務めた。最近ハマっているものは、6年ぶりに再開したポケモンGO。
子どもの成長を支える空間
—LFAの居場所拠点では「子どもの自己創出」という言葉を大事にしていますが、この言葉が意味するものはスタッフや拠点によって異なると思います。片岡さんにとって子どもの自己創出とはどのようなものですか?
仰る通り「自己創出」という言葉の意味や捉え方は人それぞれ異なるものだとは思いますが、「日常における様々な経験が、その子どもにとって重要な意味を持ったものとして現れ、それによって子どもが自ずから変容する」ということが、自己創出の1つだと私は考えています。子どもの変容を促すような経験は、居場所支援拠点において、スタッフが意図して提供できるものもありますが、そうではないものも多くあります。つまり、スタッフが意図的に用意したわけではない経験が、その子どもにとって重要な意味を持って現れてくることもあるということです。
—そのような子どもの成長を支える空間として、居場所拠点があるということですね。
はい。一方で、子どもの成長は居場所拠点のみで完結するものではないとも私は考えています。なぜなら、子どもの経験や世界は居場所拠点だけでは完結しないからです。子どもにとって、拠点以外の環境(例えば学校や家庭等)があることを前提として、居場所拠点が子どもの成長のシステムの一部になっている状態が望ましいです。私たちの居場所拠点は、子どものやりたいことを実現できる場所の1つでありたいと思っています。
「意図的に関わること」と「ありのままでいること」
—居場所拠点が子どもの成長を支える場であるためには、そのための経験を提供する「意図的な関わり」がある程度重要になると思います。しかしながら、意図的な関わりはともすると「ありのままでいること」と緊張関係にあるようにも思います。「意図的に関わること」と「ありのままでいること」との関係について、どのように考えていますか?
居場所拠点におけるスタッフの仕事は、子どもと「人間として接すること」だと思っています。つまり、教師と生徒という関係ではなく、人と人との関係であるということです。人と人との関係においては、相手をより良い方向に導こうとする意図による関わり以外にも、様々な関わりが生じていると思います。居場所拠点におけるスタッフと子どもとの関わりの根底には、そのような「人間的な関わり」があり、意図的な関わりとのバランスをとるべき関係性だと思います。
その中で大切にしていることは、子どもと一緒にいながら、子どもが自分の殻を破ろうとする様子を見逃さないためのアンテナを張っておくことです。スタッフ側から意図的な関わりをしていない時でも、子どもが自分の殻を破ることに繋がりそうなきっかけは見逃さないようにし、場合によっては意図的な関わり方にシフトすることもあります。
現在は、私自身もありのままで過ごせているのですが、居場所づくりに携わり始めた頃は、かなり意図的な関わりに偏っていたと思います。学習支援で「教師として」子どもとの関わりが長かったことも関係しているとは思うのですが、こちらから頻繁に子どもに話しかけようとしたり、子どもから何か相談されたら張り切って応答したり…という感じでした。とにかく「何かしていないと」「意図的な関わりをしないと」と、常にそわそわしていたことを覚えています。
—「ありのままでいること」は最初は難しかったのですね。どういうきっかけで考え方の変化が起こったのですか?
私の場合は、他のスタッフからの影響が大きかったです。居場所づくりに携わり始めてしばらくすると、意図的な関わりのみで子どもと関わることに何かしらの違和感を覚えるようになりました。他のスタッフともそうした感覚を共有していたのですが、誰も何が正解か分からないまま進めている状態でした。
そんな時に、居場所づくりについて研究している大学院生の方が、ある期間だけ私たちの拠点にスタッフとして関わってくれることになりました。彼はLFA以外の居場所拠点についても色々知っていたのですが、そんな彼から「これで良いと思います」と背中を押してもらえたことで、意図的な関わりという縛りから抜け出すことができたと思います。おそらく他の人との関わりがなければ、私の考え方の変化は起こっていなかったと思います。
画像:https://www.photo-ac.com/main/detail/1560488#goog_rewarded
「自分の殻を破る」チャンスに対してアンテナを張っておく
—先ほど「子どもが自分の殻を破ろうとする様子を見逃さないためのアンテナを張っておくこと」を大切にされているというお話がありました。ここについてもう少し詳しく伺いたいです。
「アンテナを張っておくこと」は、子どもが自ら成長するきっかけをキャッチして、それを促すためのスタッフの行動を可能にします。しかしながら、それは場自体を特定の子どもの特定の変容に向けて設定するということとは少し異なります。私は「子どものタイミングを待つ」や「子どものタイミングに任せる」といった言葉遣いをよくしていますが、スタッフからの意図的な働きかけによって子どもたちが殻を破るというよりもむしろ、子ども自身の変化のタイミングに合わせてスタッフが少しその変化のお手伝いをするイメージです。そこで大切なのは、1回の関わりで全てを変えようとするのではなく、自分の殻を破るチャンスを散りばめておいて、子ども自身が「一歩踏み出したい」と思った時にそのお手伝いができるようにしておくことです。
もちろん、特定の子どもの特定の変容を目的の中心に据えたイベント設計は1つの方法で、拠点で計画することもありますが、日常の意図的でなく「ありのまま」で過ごせるような場や関わりがベースとしてあるからこそ、成長を支えるスタッフの行動の意図が際立つ、ということも言えると思います。「意図」と「ありのまま」はどちらも大切にしたいもので、そのバランスを大事にしたいなと考えています。
まとめ
今回は、LFAの居場所拠点スタッフである片岡さんに子どもの成長を支える空間としての居場所拠点の価値について、また「意図的に関わること」と「ありのままでいること」との関係性について伺いました。ポイントを以下にまとめます。
- 居場所拠点において、子どもの変容を促す経験はスタッフの意図的な関わりによってのみ生じるわけではなく、また居場所拠点のみで完結するものでもないと片岡さんは考えている。
- スタッフ自身がありのままでいることと共に、子どもが自分の殻を破ろうとする様子を見逃さないためのアンテナを張っておくことが大切である。
- 居場所拠点スタッフの役割は、子ども自身の変化のタイミングに合わせてその変化のお手伝いをすることであり、そのためには日常の中に、自らの殻を破るチャンスを散りばめておくことが大切である。
次回も引き続き片岡さんに、現場運営への子どもの主体的な参画を促す取り組みについて伺います。
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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