連載第1回では、日本における外国にルーツがある子どもたちが抱える困難とその背景について見ていきました。
今回は、「外国にルーツがある子どもにとって支援現場はどのような場所であるべきか」について、前回に引き続き日本女子大学の清水睦美先生に伺います。
関連記事はこちら
プロフィール:清水 睦美
日本女子大学教授。人間社会学部 教育学科所属。博士(教育学)。専門は、学校臨床学、教育社会学。主著に『ニューカマーの子どもたち: 学校と家族の間の日常世界』(2006年、勁草書房)がある。最近では、グループ研究で、日本で育った外国にルーツのある若者170人へのインタビューを行い、その成果が『日本社会の移民第二世代-エスニシティ間比較でとらえる「ニューカマー」の子どもたちの今』(明石書店、共著)が刊行された。
支援現場の位置付け
学習支援と居場所支援との間の葛藤
━━前回は「外国にルーツがある子どもたちが抱える困難とその背景」ということで、複数言語・文化環境下で生きることによる学力不振や文化的葛藤、自分のルーツに対する否定的な態度の形成、葛藤を晒したくないという気持ちから来る抑圧的な振る舞いなどの様子などについて見てきました。
このような困難を抱える子どもたちにとって、支援現場はどのような場所であるべきでしょうか。
「外国にルーツがある子どもの支援」というと、どうしても学校の試験でいい点数を取ることやいい成績を収めることを目的とした学習支援に偏りがちです。その結果、どうしても居場所支援と相性が悪くなってしまうことが多いです。前回お話したように、複数の言語環境の中で複雑な言語獲得をしている子どもたちに、学校の中で同じ年齢段階の単一言語環境にある子どもたちと競争していけるような学力を育もうとすることに無理があります。そうであるにもかかわらず、そこにポイントを絞って支援をすれば、外国にルーツがある子どもたちはまさにその競争の中でうまくいかないことを自分たちのせいだと思ってしまいます。その結果、支援があるのにうまくいかない自分をより否定的にみるようになるか、学習支援の現場を居心地の悪い場所だと思って離れていくか、いずれかになっていく傾向があるように思います。
支援者の方も「競争についていけるような学力をつけさせてあげたい」という想いと、「彼らにとって居心地がいい場所を提供したい」という想いとが両立せずに葛藤を抱え、結果として「競争」へと駆り立てる支援をしてしまうことが多いのではないかなと思います。
居場所を核とした支援のススメ
━━学校の中での競争についていくための学力の獲得を中心とする学習支援の現場は、外国にルーツがある子どもたちにとって居心地の悪い場所になってしまうかもしれない、ということですね。
そうです。私がおすすめしたいのは、居場所であることを核とした支援です。学力競争から一歩距離を置いて、まずは支援の現場が子どもたちにとって居心地のいい場所になることが大切です。
もちろん、学力を身に付けさせる支援も必要です。ただし、ここで言う学力とは、学校の中の競争のための学力ではありません。そうではなくて、かれらの将来を支える知識や思考力の獲得を目指されるべきではないでしょうか。それは例えば、他人と話し合って結論を出す力や人の話を聞きながら自分の考えを整理する力などが挙げられます。このような知識や思考力の獲得を目的とした学習支援は、先にお話した「競争」に向けた学習支援とは異なり、居場所支援と両立できる可能性があります。
支援者に必要な心構え
「うまくいかないことが当たり前」
━━将来を支える知識や思考力の獲得を目指しつつも子どもたちにとって居心地のいい場所を作るために、支援者にはどのような心構えが必要なのでしょうか?
まずは、複数の言語・文化環境に生きることによって必然的に導かれる「葛藤」を受け止める場所であることが大切であると思います。言い換えれば、学校や家庭の中でうまくいかないと感じている子どもたちが、それらを話せる場所であることが大切です。そのためには、支援者側が「うまくいかないことが当たり前」という考え方を持つことが大切です。
例えば、私自身は「うまくいった時に結果だけを褒めすぎない」ことを大切にしています。うまくいった結果を褒めるのではなく、「なんでそんなふうにうまくいったの?」「普通だったらうまくいかないはずじゃない?」という問いかけをしながら、なぜうまくいったのかをかれらとともに考えることで、経験から得られる学びを彼ら自身が手にできるように働きかけたりしています。
競争に効率良く勝つことを求めない、葛藤は豊かさの証
━━なるほど。「うまくいった時に結果だけを褒めすぎない」というのは、外国にルーツがある子どもたちが、学力不振や成績を自身のルーツのせいにしてしまうことを和らげるという狙いもあるのでしょうか?
そうですね。加えて、複数言語環境下で育つ外国にルーツがある子どもたちに対して「頑張れば日本籍の子どもたちと同じように競争できるはずだ」という前提を共有することになるので、結果的にかれらを苦しめてしまうことがあります。複数の言語・文化環境下に育つということの豊かさを認め、それを子ども本人にも気づかせていくことで、かれら自身が抱える葛藤が豊かさの証であることを徐々に感じていけるようにしていくことが大切だと思います。
まとめ
今回は、第1回に引き続き日本女子大学の清水先生に、「外国にルーツがある子どもにとって支援現場はどのような場所であるべきか」ついて伺いました。ポイントを以下にまとめます。
- 支援現場は、まず、外国にルーツがある子どもにとって日々の悩みや困りごとを相談できる居場所であることが大切である
- 良い成績を収めることや学力競争に勝つことよりも、将来を支えるにわたって必要な知識や思考力を身につけることを目的とした学習支援を居場所支援と両立させることが大切である
- 外国にルーツがある子どもの支援者は、「うまくいかないことが当たり前」という前提を持って子どもに接することが大切である
清水先生へのインタビューは次回が最終回になります。「外国にルーツがある子どもが来た際にまず取り組むべきこと」について伺います。
第3回はこちら
※本記事の内容は専門家個人の見解であり、記事内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
この記事は役に立ちましたか?
記事をシェアしてみんなで学ぼう