いよいよ、待ちに待った夏休み。カレンダーを眺めながら楽しみに期待を膨らませ、ワクワクしながら休暇を待ち望んでいる方もいるかもしれません。
一方で、給食がなくなるためにご飯が満足に食べられなくなる子どもがいたり、家で過ごす時間が長くなって親子関係に軋轢が生じたりする家庭も少なくありません。生活リズムが崩れて昼夜逆転の生活になったり、暑さに苦しんで健康を損なったりする子どもも増えてきます。
そこで今回は、「子どもたちの安全を守り、楽しく夏休みを過ごすために居場所拠点でできること」を、認定NPO法人Learning for All (以下、LFA)で居場所拠点責任者を務める職員に伺いました。長期休みに気をつけるポイントを幅広く教えてくださいました。
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長期休みに子どもたちが直面するさまざまな困難
—夏休みをはじめとする長期休暇には、子どもにとってどのような課題があるのでしょうか。
まず、親子や兄弟が一緒に過ごす時間が長くなることで家族間の衝突が起きやすくなります。さらに、学校に行かないことによって生活習慣が乱れることも多いです。そして、夏休みの宿題を溜め込むなど、勉強面の課題もみられます。
それぞれについて、詳しくご紹介します。
長時間一緒に過ごすことで増える、親子の衝突
長期期間中は「保護者と子どもの衝突」という課題が普段より多く発生すると感じます。
家で過ごす時間が増え、家庭内のトラブルが増える可能性もあるので、アンテナを高く張ってスピード感を持った対応を心がけています。
具体的に、子どもと接する中で気にかけているポイントは、
- 食事を取っているか
- 見える範囲で身体に変化がないか(不潔である、極端に太ったり痩せたりするなど)
- 外傷や自傷がないか
です。これらの項目は、虐待チェックリスト(注1)にも記載されているため、拠点に通っている子ども全員について確認しています。
(注1)「虐待チェックリスト」は自治体や官公庁が配布しているチェックリストのこと。例えば、東京都福祉局は「外傷」「家の外への閉め出し」「身体や衣服の不潔」「食事が与えられていない」「夜遅くまで外出」の5項目を挙げている。
ただ、家での出来事や食事の有無について、話したがらない子どももいます。そのようなご家庭では保護者の方が教えてくれるケースもあるので、保護者のお話をお聞きすることも大切です。保護者の中には、子どもへの接し方が分からず苦しまれている方もいるので、子どもへの対応があまり良くないことを伝えながら、保護者の気持ちに寄り添うことも意識しています。あまりにも保護者が自身を追い詰めていたり、親子関係が悪化したりしている場合は、団体内のソーシャルワーカーにも相談し、保護者の話を聞く時間を取っています。児童相談所などの外部機関に繋げることもありますね。
—子どもたちは、家族内の衝突をどのように乗り越えているのでしょうか。
多くの子どもは、ストレスを溜め込んだまま、拠点に来ています。愚痴を言う子どもは話を聞けるのですが、そうでない子は気持ちを吐き出せず、子どもによっては自傷してしまうこともあります。長期休みの間は子どもたちの「しんどい」をどのように受け止めて対応できるか、普段以上に注視して早めに動くことが重要です。
学校がないことで乱れる生活習慣
学校に行かないことで、睡眠や食事の乱れも見られます。「学校がないから夜中までゲームや動画を視聴し、そのままずるずると朝方まで起き、日が出てくる頃に就寝して夜ごろに起き出す」という悪循環を経験する子どもは多いのではないでしょうか。他にも、朝食・昼食を食べずに夜ご飯だけ食べに来る子どもや、お風呂に入る習慣も適当になって身なりが乱れる子もいます。
—拠点では、どのように生活習慣を整えていくのでしょうか。
間接的なサポートにはなりますが、保護者・子ども・スタッフの三者で話し合い、「学校が始まったら大変だからそろそろ軌道修正してきましょうね」と確認しています。また、一部のエリアでは地域の飲食店の協力でお弁当を配布する企画が実施されているので、その仕組みを紹介して規則正しい生活を促したり、お風呂に入ることの重要性を認識してもらえる声かけを行ったりしています。
画像:https://loosedrawing.com/illust/246/
計画的に進まない宿題、そしてイベントに困る絵日記
多くの子どもが経験することかもしれませんが、宿題を溜め込んでしまい、夏休みの最後にまとめて取り組むことが見受けられます。子どもだけでは計画的に進めることが難しく、宿題に着手する頃には1学期の内容を忘れてしまい、取り組むのが大変になるケースもあります。
しかし、拠点はあくまでも「居場所」なので勉強を強制することはしません。そこで、「宿題を持ってきて一緒に取り組もう」と声をかけたり、「宿題は終わらせるものだよ」と危機感を持たせたりすることを心がけています。
—他にはどのような課題がありますか。
絵日記や夏休みの出来事を書く作文で、保護者の経済状況やご病気から思い出になるようなイベントができず、書くことがない子どももいます。
そこで、拠点では親子遠足を企画したり、地域のイベントに参加したりしています。親子遠足では、親子で同じ体験をすることで仲が深まったり、思い出を共有したりできます。また、地元の大きな夏祭りにも足を運んでいます。地域の行事を楽しむことは、地元を好きになるきっかけにもなると考えているからです。お祭り当日は浴衣を着て、お小遣いも用意して子どもと一緒に屋台を回ります。子どもたちが拠点を卒業しても、自ら地域のお祭りに参加できるよう、近場のイベントを選んでいます。
画像:photoAC
さらに、企業サポーター様のご協力によって、夏休みの宿題として提出できるクラフトを作る企画も実施しました。
学校が始まるしんどさ
—上記以外に、長期休みの課題はありますか。
学校が始まることそのものに対し、不安を抱えている子も多いです。拠点としては、無理に学校に行かせようと思っていないので、「学校ってしんどいよね」という思いを受け止めつつ、「何かあったらいつでも教えてね、いつでも聞くからね」とメッセージを発信しています。
拠点で気をつけたい、夏特有の課題
近年、地球温暖化によってますます気温が上昇し、熱中症や食中毒の危険も高まっています。そこで、拠点で行っている対策についてもお話しします。
熱中症
暑さ指数(WBGT)の活用
暑さ指数(WBGT)とは、環境省が発表している熱中症予防を目的とした指標です。拠点では毎日数値を確認し、「危険」のときは外遊びを禁止に、「厳重警戒」のときは鬼ごっこ禁止で、日陰で遊ぶようにしています。また、「熱中症特別警戒アラート」や「熱中症警戒アラート」が発表された場合も、外遊びは禁止になります。
どこまでの遊びを許可するか、指針を参考にあらかじめ拠点でルール化しておくと実行しやすくなるでしょう。
塩分タブレットの配布
おやつや外遊びの際に塩分タブレットを配り、塩分不足に陥らないように注意しています。
—子どもの熱中症対策として、他に気をつける点はありますか。
家庭によって暑さに対する認識が異なり、冷房を使用するルールが違うことを知っておく必要があると思います。例えば、去年は家庭での暑さ対策が十分に行われず子どもが汗だくで拠点に通ってきたり、電気代を心配してお家のクーラーの使用が制限されたりするケースがありました。子どもの安全を考えると冷房を使えないのは心配ですが、電気代の高騰も受けて「絶対につけてください」と我々からお願いするのも正直難しいところです。今後は、保護者も交えて対応策を拠点で考えたいと思っています。また、子どもへ熱中症対策グッズを配布したり、拠点が空いていない時間に使える施設を紹介したりして、子どもが安全を確保できる手段や情報も伝えていく予定です。
食中毒
前日の作り置きをしない
その日に食べるものはなるべくその日に調理しています。
時間が空く場合は冷蔵庫へ
昼過ぎに作ったものを夜ご飯に出すなど、当日に調理したものでも、時間が空く場合は一度冷蔵庫に仕舞っています。鍋やフライパンごと入れる時もあれば、お皿に移し替えて仕舞うこともあります。
講習の学びを活かす
拠点がある地域では、集団給食施設の担当者は年に一度の講習に出席しないと食品衛生責任者として認められません。従って、毎年講習に参加し、学びをスタッフで共有したり、対策冊子を読んだりしています。
最低限守るべきポイントはマニュアル化
温度や時間の経過を原因とした食中毒のみならず、冬の時期はノロウイルスなど、他にも気をつけなければならない事柄が存在します。そのため、1年を通して最低限守るべきことはマニュアル化し、全員が実行しやすいように努めています。また、季節ごとに気をつけたいポイントも、1年を通して守れることが理想なので、マニュアル化すると取り組みやすくなります。
長期休みに備えて、普段からできること
—長期休みを見据えて、普段から行っていることはありますか。
やはり、一番重要なことは子どもと信頼関係を築くことだと思います。なぜなら、何気ない会話の中から生活習慣を聞き出し、「それはまずいんじゃない?」とやんわり伝えるためには、日頃から気軽に言い合える関係性が大切だと感じるからです。学校に行っているか否かというセンシティブな話も、普段の何気ない会話に取り入れることで、今では子どもが自ら報告してくれるようになりました。
また、料理の保存方法や熱中症など、マニュアル化できるものは決まりを作ると良いと思います。気をつけるポイントを日常的に行うことで対策をやりやすくなりますし、スタッフ間で判断の相違を防ぐこともできます。
長期的には、地域の中で子どもの居場所を増やすことが大事です。現在は、子どもが家にいて「しんどい」と感じたときに、逃げ場がほとんどありません。児童館も低学年向けのところが多いため、高学年の子は通いづらく、大人の目から離れたところに出歩いてしまうこともあります。子どもが安心して過ごせる居場所を地域に増やしていきたいです。
まとめ
今回は、LFAの居場所拠点責任者を務める職員に、夏休み中の居場所の取り組みについて伺いました。ポイントを以下にまとめます。
- 長期休みは、家族の衝突が増えやすい。普段以上に子どもの様子(食事の有無、見た目の変化、外傷)や保護者の話を聞き、スピード感を持った対応を心がける。ソーシャルワーカーや外部機関へ相談することも重要。
- 生活習慣も乱れやすくなる。軌道修正するために、保護者・子ども・スタッフの三者で話し合い、共通認識を持つことが大切。
- 宿題を溜め込んだり、夏休みにどこにも出掛けられず絵日記に書くことがなかったりする子どももいる。拠点では、地域の行事にも参加している。
- 熱中症対策として、暑さ指数(WGBT)の活用と塩分タブレットの配布を行っている。
- 食中毒対策として、作り置きの禁止や冷蔵庫での保管、講習への参加や手順のマニュアル化を行っている。
- 長期休みに備えて、普段から子どもと信頼関係を構築し、ポイントをマニュアル化して実行しやすくすることが大事である。
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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