2023年12月19日に、子どもに向き合う全国各地の支援者が学び/知見/意見をシェアするオンラインイベント「こども支援ナビMeetup」の第19回が開催されました。
今回は、一般社団法人子どもの声からはじめようの代表理事であり、こども家庭庁参与でもある川瀬信一氏をお迎えし、「心の声を聴くこどもアドボカシー」をテーマに、川瀬様の知見やお考えをお話いただきました。
イベントレポート第2回では、子どもアドボカシーの6原則と子どもアドボカシーが大切にしている考え方についてご紹介します。
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プロフィール:
一般社団法人子どもの声からはじめよう 代表理事
こども家庭庁参与
川瀬信一氏
子ども時代に里親家庭、児童自立支援施設、児童養護施設で育つ。厚生労働省「子どもの権利擁護に関するワーキングチーム」、内閣官房「こども政策の推進に係る有識者会議」等に参画。元公立中学校教諭(児童自立支援施設に勤務)
こどもアドボカシーとは
ここからは、これまで話してきたことを前提にして、子どもアドボカシーについて紹介していきます。
まずアドボカシーとは、子ども分野ではシンプルに「声を上げること」という意味で使うことが多いです。
日本福祉大学権利擁護研究センターは、アドボカシーを「何らかの事情によって自分の思いや考えを他の人に伝えることができず、その結果、日常の社会生活において不利な立場に置かれている人たちを支援する活動」と定義しています。
また、アドボカシーの活動先進国であるイギリスでは、アドボカシーの担い手であるアドボケイトについて、子どもに「マイクのような存在」と説明します。
マイクは小さい声を大きくして、必要な人にはっきり伝わるようにできるだけでなく、自分のタイミングでスイッチのオンオフができます。そのため、自分の意思で声を大きくしたい、伝えたいと思ったときだけ使えるという意味合いでもマイクの比喩が用いられています。
子どもアドボカシーの6原則
子どもアドボカシーには6つの原則があります。今回は、それらを紹介しながら子どもアドボカシーが大切にしている考え方について理解を深めていきましょう。
①エンパワメント
画像引用元:一般社団法人 子どもの声からはじめよう
私たちが関わる子どもは、それまで受けてきたいじめや暴力、虐待によって外から向けられた抑圧が、諦めや自己嫌悪といった形で自分自身に向けられてしまっていることが多いです。
こうした子どもと関わりながら、自分には権利があるという意識を持ってもらったり、共感や連帯(一緒に動くこと)、信頼関係を構築したりして、子どもが持っている本来的な力を取り戻すことをエンパワメントと呼んでいます。
これが子どもアドボカシーで一番大切にされている考え方です。
②子ども主導
画像引用元:一般社団法人 子どもの声からはじめよう
2つ目は子ども主導です。
子どもアドボカシーは、子ども側「だけ」に立つことが原則となっています。これは他の支援者や専門職とは少し異なる点です。
アドボカシーにおいては、大人が「これは無理じゃないか」「こうした方がいい」と思ったとしても、声を上げるかどうか、何を伝えて何を伝えないのかは、子どもが自己決定をします。
画像引用元:一般社団法人 子どもの声からはじめよう
そのため、子どもアドボカシーでは、支援者が子どもに一方的に迫っていくのではなく、子どもに「この人となら話してみたい」「自分の思いを伝えたい」と思って自ら心のドアを開けてもらうためにどうしていくべきか、という観点を大切にして活動を行っています。
③独立性
画像引用元:一般社団法人 子どもの声からはじめよう
アドボカシーの取り組みは、可能な限り委託団体が請け負って、独立して運営することが望ましいとされています。
専門職は、所属する組織の方針や職業的な倫理とぶつかってしまい、100%子どもの側に立って声を聞くことが難しくなります。
もちろん、子どもの声を聴く様々な立場の人がいるべきですが、その中でも独立アドボカシーは利害から自由な存在として子どもの声を聴くべきであるとされています。
④秘密を守る
画像引用元:一般社団法人 子どもの声からはじめよう
子どもに関わる専門職は、子どもの様子や話したことについて職員間で情報共有をし、なるべく同じ目線で均質な支援が行えるように努める場合があります。しかし、アドボカシーでは、子どもの同意なしに会話の内容を第三者に共有することはありません。
子どもが話したことは、その子どもの一部です。知らないところで他の大人に話が伝わっていくことは、子どもにとって非常に抵抗感を覚えることです。実際に、本人に断りなく情報共有がなされたことで、職員を信頼できなくなり声を上げられなくなった人もいます。
子どもの保護のために他の職員と話の内容を共有しなければならない必要が生じた場合は、「こうした理由でこの人に話の内容を伝えなければならない」と本人にしっかり説明をして、同意を得た上で行うことが大切です。
⑤機会の平等
画像引用元:一般社団法人 子どもの声からはじめよう
私たちの活動の対象となるのは、どこかの窓口に自ら相談に来られる人ばかりではありません。
そのため、乳幼児やマイノリティの子ども、ハンディキャップをもつ子ども等あらゆる子どもが声を上げやすいようにサポートすることを心がけています。
⑥子どもの参加
画像引用元:一般社団法人 子どもの声からはじめよう
6つ目は、子どもアドボカシーの取り組みを子どもとともに進めていくことです。
「私たち抜きに私たちのことを語るなかれ」という障害者権利条約のスローガンがありますが、アドボカシーの取り組みにおいても子どもたちが参加していくことがとても重要だと考えています。
子どもの権利擁護と子どもアドボカシーの関係
画像引用元:一般社団法人 子どもの声からはじめよう
子どもの権利擁護とは、子どもの権利条約第3条にある「子どもの最善の利益」を目指していくものです。その過程に、子どもの声(=意見表明・自己決定)が尊重される機会を保障していくことが大切だと考えています。
そして、子どもアドボカシーは、子どもの声の尊重をサポートする取り組みの一つとして位置付けられています。
アドボカシーにも、一人ひとりの子どもの声を聴いて対応していく「個別的アドボカシー」と国や自治体に集積された子どもの声を届ける「集団的(システム)アドボカシー」があります。この2つはどちらも大切で、両立して行うことが大切だと考えています。
アドボカシーはさまざまな立場の人が補完し合うことが大切
アドボカシーの取り組みといってもさまざまな立場の人によるものがあり、なかでも私たちの取り組みは独立したアドボカシーと呼ばれるものです。
画像引用元:一般社団法人 子どもの声からはじめよう
独立アドボカシーの他に、専門職によるフォーマルアドボカシーや同じような経験を持つ人によるピアアドボカシー、子どもに一番近い親や養育者などによるインフォーマルアドボカシーなどがあります。
こうしたさまざまな立場の大人が互いに得意な部分、苦手な部分を補い合いながら、子どもの声をしっかり聴き、子ども自身が声を上げられる状態を作っていくことがアドボカシーにおいてとても大切です。
なぜ第三者が声を聴くことが必要なのか
保護者の方や専門職の場合、子どもが嫌だと言ったことでもさせなければならなかったり、やりたいと言ったことをさせてあげられなかったりすることがあります。
また子ども側からみると、保護者など関係が深い(利害関係が強い)大人ほど本音は伝えにくいことがあります。ここには、本音を言うことによって相手を傷つけたり関係をぎくしゃくさせたりしたくないという思いがあります。
こうした点があるため、私たち独立したアドボケイトが「子どもの声を聴く」ことを専門的に取り組む立場でパズルに加わっています。
子どもが望むアドボカシー
子どもの参加に関連して、子どもたちに話を聞くなかで「こんな人に話を聞いてほしい」という声が多かったものを紹介します。
画像引用元:一般社団法人 子どもの声からはじめよう
怒らない人や優しい人、同性などはイメージがつきやすいかと思いますが、子どもたちからは「同じような環境で育った人」「最後まで話を聞いてくれる人」「秘密を守ってくれる人」「明るすぎず暗すぎない(子どもにトーンを合わせられる)人」に話を聞いてもらいたいという意見も聞かれました。
子どもの話を聞くことは、子どものパートナーになることです。
アドボカシーでは、子どもの良いパートナーになるために必要なことも、実際に子どもたちから教わっていくことが大切だと考えています。
まとめ
今回は、一般社団法人子どもの声からはじめよう 代表理事の川瀬さんに、子どもアドボカシーの6原則と子どもアドボカシーが大切にしている考え方について伺いました。ポイントを以下にまとめます。
- アドボカシーとは、何らかの事情によって自分の思いや考えを他の人に伝えることができず、その結果、日常の社会生活において不利な立場に置かれている人たちが「声を上げる」ことをサポートすること。
- 子どもアドボカシーの原則は、以下の6つ。
- エンパワメント
- 子ども主導
- 独立性
- 秘密を守る
- 機会の平等
- 子どもの参加
-
アドボカシーには独立アドボカシーやピアアドボカシーなどの種類があり、様々な立場の人が補完し合うことが大切。
第3回は、実際に行われている子どもアドボカシーの取り組みやアドボカシーの実践から得られた気づきなどについてご紹介します。
※本記事の内容は専門家個人の見解であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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