2024年9月12日に、子どもに向き合う全国各地の支援者が学び/知見/意見をシェアするオンラインイベント「こども支援ナビMeetup」の第23回が開催されました。
今回は、一般社団法人Everybeing(以下、Everybeing)の共同代表 西崎萌氏をお迎えし、子どもと接する実際の場面やケースも交えながら「子どもの権利と子どもとの向き合い方」というテーマでお話いただきました。
イベントレポート最終回の第4回では、モデレーターに認定NPO法人Learning for All (以下、LFA)職員の塩成氏を迎えた参加者との質疑応答の様子をお伝えします。
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プロフィール:西崎 萌 氏
1987年生まれ、新潟出身。国際基督教大学教養学部卒業後、民間企業や高校教員を経て、筑波大学大学院教育学研究科に進学(教育学修士)。在学中にUNICEF東京事務所インターン。大学院卒業後、子ども支援専門の国際NGOセーブ・ザ・チルドレン国内事業部およびアドボカシー部にて、ガバメントリレーションズエキスパートとして、子ども虐待の予防、こども基本法・こども家庭庁などの日本国内の子どもの権利保障、ODAや人道支援などの政策提言に携わる。こども家庭庁設立準備室アドバイザー、こども家庭庁長官官房参事官付アドバイザーを歴任。
プロフィール:塩成 透 氏
認定NPO法人Learning for All 子ども支援事業部マネージャー
大学院では住民自治について研究を行い、前職では住民参加型の中心市街地の活性化、公共施設での市民活動支援、総合計画策定を行う。2021年にLFAへ入職。こども家庭庁のこども・若者意見反映推進事業(こども若者★いけんぷらす)にて運営を担うこども若者(ぽんぱー)のサポートやいけんひろばのファシリテーターを担う。他にも地域協働方子ども包括支援モデル構築に向けた地域団体の立ち上げ支援やネットワークづくりを行う。
話ができなくても関わり次第で意見表明できる
—参加者)まだ話ができない年齢の子どもや知的障害のある子ども・大人の意見表明はどのように考えれば良いのでしょうか?
西崎:まず、大事なことは、赤ちゃんでも意見表明はできます。赤ちゃんは「泣く」という行為を通して意見表明をしています。例えば、ある場所に行ったらすごく泣いてしまう、というのも意見表明の一つです。
また、会話が成り立たない年齢でも、動くことができるようになると周囲を探検してお気に入りのものができたりします。意見というよりも意思を示しているイメージです。
知的障害のある子どもの意見表明については、スウェーデンの特別支援学校の事例が参考になります。
スウェーデンはインクルーシブ教育が盛んですが、特別支援学校もあり、主に寝たきりの子どもや重度知的障害の子どもが集っています。ここでは、寝たきりでも頑張って指先を動かすなど自分の意思をどうにか表明してもらい、それを汲み取っていくことに重きが置かれていました。
例えば、音楽では、タブレットに何枚かのCDの写真を表示して、子どもが指先を動かして選んだり、表情や目線だけでYes/Noを表明することが行われていました。聴きたいと思ったCDを自分でかけることはできなくても、自分の意思を表明して、それを汲み取ってくれて実行してくれる人がいることで、寝たきりでも意見表明権を行使して自分の人生を決めていくことができます。
こうした環境を作るためには、子どもの意見を汲み取ろうとして、その意見を実行するサポート役となる人の存在とその人の意識が重要だと思っています。実際にスウェーデンを視察して、日本とスウェーデンではこうした部分の意識が違うなと感じました。
子どもの権利が守られる感覚を体験的に学べるようにする
—参加者)子どもの権利条約の子どもの認知度が低いのは、小学校低学年から学べていないからなのでしょうか?子どもの権利を実現するためには、幼少期から学ぶ必要があるのではないかと思います。
西崎:ご質問の通り、子どもの権利を実現するためには、小さいころから子どもの権利が当たり前に実現されている社会で生きるのがいいと思っています。
例えば、私が訪問したスウェーデンの小学校では、アスレチックが老朽化したから新しいものに変えるとなったとき、次にどんな遊具がいいか子どもたちが意見を出し合っていました。
子どもたちが意見を出したらそれが尊重されて、意見を言うことで社会に影響を与えられることが感覚として身についているという点が日本との大きな違いだと思いますね。最近では日本の就学前教育では、子どもの権利や子どもの声(主体性)を尊重した保育などが行われつつあるので、今後こうした流れが教育の中に広がっていくといいなと思っています。
また、認知度の点で言うと、子どもの権利条約が何かということを知識として持っていないと認知度は低くなってしまうんですが、子どもの声を聴く環境を作ることで子どもの権利が守られている状況は作れるかなと思います。
一方で、子どもの権利が守られるためには、保護者をはじめとする子どもの周りにいる大人が、子どもの権利が守られるような関わりをすることがとても重要です。
そのため、子どもは知識として学ぶよりも体験として学んで権利が守られる感覚を得ていくことが大切だと思いますし、同時に大人は子どもの権利が守られる社会で育ったわけではない中で、どうその感覚を得て子どもに関わっていけるかが重要だと思います。
塩成:子ども目線で感じることを知る取り組みとして、例えば大人が子ども役になって学校生活を一日体験して、かけられる言葉だったり疑問に思うことだったりを話し合ってみるのも面白いかなと考えていました。
西崎:それはとても良いですね。実際に子どもが先生役になる遊びは我が家で良くやっていました。
面白いなと思ったのが、先生役になった途端子どもが「はい、座りなさい!」「静かに!」とか口調が少し変わったんですよね。これは先生が権威のある存在だということが意識の中に入っているのかなと思いました。
私はそうした意識から変えていきたいなと思いますし、塩成さんが言ってくれたように子どもと大人の立場を反転させて体験してみることできっと新しい気づきが得られると思います。
スキンシップの必要性は子どもの最善の利益で考える
—参加者)子どもとのスキンシップは愛情表現の一つだと思っていましたが、子どもの権利の面から考えるとむやみに子どもに触れるのは良くないということでしょうか?子どもが危険だと感じた場合、手を出すのではなく言葉で止めたほうがいいのでしょうか?
西崎:まず「愛情表現をしたいのは誰か?」ということを考えてもらえたらいいと思います。大人がしたいのか、子どもがしてほしいのか、愛情表現をする目的は何なのか、といった点ですね。
例えば、「居場所に来る子どもと仲良くなるために、毎回来たときにハグをしています」というスタッフさんがいたとします。しかし、居場所に来る子どもとはハグをしないと仲良くなれないのでしょうか?もっと言うと、「ハグできたら信頼関係がある」と自分が安心したいためにハグをしているのではないか、という点を考えてもらいたいなと思います。
子どもは嫌だと思っているかもしれないということ、そして、そうした言動・行動をする大人に対して「嫌だ」と言いづらいこともあるかもしれません。
そのため、むやみに触れないというのは今日から気をつけてもらえたらいいなと思います。
さらに言えば、「子どもと仲良くなりたい」のは、なんででしょうか?その居場所に来る子どもが安心して過ごせる場所を作るということが目的であれば、子どもが安心する場所にいる大人はどんな人がいいか?どんな場所だったら、安心して「来たい」と子どもに思ってもらえるか?という視点で考えていただきたいなと思います。
ただ、例えば子どもの事情で保護者代わりのように子どもと接する立場にある人で、子ども側からハグしてきたり、座っているときに背中にのってきたりといったケースもあると思います。こうした場合、身体接触ははダメだからと拒絶すると、子どもがさらに傷つくという場合もあります。
また、子どもが危険だと感じた場合に、それ以上危ない状況にならないために子どもを抱き止める、身体を入れて制止するのは、子どもの最善の利益という視点からあり得ることだと思います。ただし、それに加えて「何やってんの!!」と怒鳴ったり子どもを叩いたりすること、つまり罰を与えるような行為(体罰等)は必要ではないです。
そのような状況になったら、次どうしたらそうならないかを考えて環境を変えていくことが大切です。例えば、外に飛び出してしまうんだったら柵をつけたり、危ないものが手に届く位置にあったなら隠したり、と環境を変えるアプローチを考えてほしいなと思います。
大人の目的優先ではなく子どもの意思を真ん中に置く
—参加者)学習支援を行っているのですが、子どもとの関わりが「目的優先」になっているのではないかと感じました。大人にとってはいい方向だと思っていても、実は子どもの意思は置き去りということも多々あると思います。保護者の方の要望と子どもの意思どちらも尊重して、子どもの意思を尊重しながら人との関わりを持てる場にしたいのですが、西崎さんが実践されていることや意識されていることがあれば教えていただきたいです。
西崎:これは支援者としての私と子どもの保護者としての私がいつも葛藤するような事例ですね。
保護者の要望と子どもの意思が異なるときの対応は難しいですが、まずはその子どもにとって最もいいことは何かという最善の利益の視点を基準として自分の中で持っていることが大事かなと思います。そのうえで、お互いの声を聴いて少しでも交わる方向に行くように考えることが重要かなと思います。ただその一方で、保護者や周囲の大人が子どもをしっかり待つことも重要だと思います。
というのも、大人は子どものペースに合わせて待てないんですよ。不安だから、「こうしたほうがいいんじゃないか」「ああしたほうがいいんじゃないか」とあれこれ考えて、大人側の不安を解消するために子どもに口出ししてしまうケースが多いです。なので、今回のケースでもまずは保護者の不安を聞いてあげることが大事かもしれません。
子どもが意見を言わない場合でも、例えばいくつか選択肢を提案して、子どもが自分でやれそうなことを選んだりして、保護者の言う方向に子どもを引っ張っていくのではなく、子どもが真ん中で大人はサポートという関わりができたらいいんじゃないかなと思います。
ちなみに私が支援者として関わるときは、大人側の話を聞いて「あなたが不安になっていますよ」と結構はっきり伝えます。そして「子どもの意見や気持ちを大事にしたいので任せてください」と言って、子どもとしっかり向き合うように心がけます。ただ保護者として、子どもが不登校だったりしたときに不安になる気持ちはとても良くわかります。なので、とても難しい問題ですね。
周りの大人が必ず子どもの権利が保障される場を作る
—参加者)子ども食堂などに関わっています。子どもの権利についての考え方はとても理解できたのですが、保護者と関わっていると、子どもの権利を守ることに割ける余力や時間がない人もとても多いなと思います。そうした保護者に対してできる話や考え方のアドバイスなどあれば教えていただきたいです。
西崎:保護者の方が子どもの権利を守ることに時間や余力を割けない場合でも、周りの子どもに関わる皆さんが接している間は子どもの話を聴いたり意見を汲んだりして権利を保障してあげてほしいと思いました。
スウェーデンへ視察に行ったとき、何人もの学校の先生が「家庭では子どもの権利を守るのが難しい子もいる。でも学校に来れば必ずその子の権利が保障されるという場づくりをしているんです。」と言っていました。
本来なら一番長い時間過ごす家庭が安全であることが望ましいですが、それが難しい場合は、子どもに関わる皆さんが子どもたちの味方になって子どもの声に寄り添い、子どもたちが安心して過ごせる空間づくりをしてもらえるといいなと思います。
その上で、時間や余力がない保護者の方へ「こんなサポートがあります」「こんな情報があります」と皆さんからポスターやお便りなどでそっとお知らせしてあげられると、さらにいいなと思いました。
嫌と感じたことは子どもに伝えてあげてほしい
—参加者)子どもと関わる仕事に就きたいと思っています。子どもとの身体接触はしないと言われていましたが、演習で子どもと接したときに自分が(身体接触は)嫌だなと感じました。ただ嫌なことを子どもに伝えるかどうか悩んでいます。子どもに関わる仕事には就かないほうがいいのでしょうか?
西崎:嫌だという思いは伝えてあげてほしいなと思います。ただ言い方として、「こういうところが嫌だったよ」というよりも「私はこう感じたよ」と気持ちだけ伝えるのがいいかなと思います。
「相手が嫌なことはしない、自分が嫌なことはしない」という相互尊重の考え方で、質問者さんだけが我慢すればいいということではないと思います。
子どもたちの年齢などに合わせて、子どもがわかる伝え方で伝えてあげてください。
「〜〜しないでね」という否定は伝わりづらいので、「次からは〜〜してね」と伝えるのがいいと思います。
登壇者からの挨拶
本日はありがとうございました。
子どもの権利という言葉はそもそも10年前にはあまり知られていなくて、支援者の意識が大きく変わってきたのはここ数年の出来事だと思います。
今後もこうして子どもに関わる方が集まって、子どもの権利の眼差しを持って子どもが子どもらしく子どもの権利を発揮できるように皆さんと一緒に進めていけたらなと思います。
もし本日の話についてご質問がある場合は、こちらのメールアドレスにお気軽にご連絡ください。
また、私たちの団体で「子どもに関わる皆さんがどうやったら子どもの権利を守って活動ができるか」といったことをみんなで学び合うEverybeingコモンズという場をつくっています。興味があればぜひご参加ください。
本日はありがとうございました。
まとめ
今回は、Everybeingの共同代表 西崎さんに、具体的な子どもとの関わりに関する疑問にお答えいただきました。ポイントを以下にまとめます。
- 寝たきりや話ができない状態でも、意思を表明してそれを汲み取って実行してくれる人がいることで、意見表明権を行使して自分の人生を決めていくことができる。
- 子どもの権利を実現していくには、子どもは体験として学んで権利が守られる感覚を得ていくことが大切。同時に大人は、子どもの権利が守られる社会で育ったわけではない中で、どうその感覚を得て子どもに関わっていけるかが重要。
- スキンシップは「誰がしたいのか」を考える。大人は子どもの最善の利益を考えて、子どもの意思を受け止めたり子どもの安全を守ったりすることが重要。
- 保護者の要望と子どもの意思をそれぞれ聴いた上で少しでも交わるところを探り、保護者には待つことを促し、子どもの意思を聴いて尊重することを大切にする。
- 保護者に子どもの権利を守る余裕がない場合は、保護者以外の大人が接している間だけでも子どもの話を聴いたり意見を汲んだりして権利を保障してあげてほしい。
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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