子どもを支援する現場において「ボランティアの継続」の問題を抱える団体も少なくないのではないでしょうか。支援を続けるには、ボランティアが長期的に関わってくれることは大事ですが、そのためにはボランティアに「ここで活動し続けたい」と思ってもらうことが大事です。
今回は、NPO法人Learning for All (以下、LFA)子ども支援事業部の木村駿さんに、ボランティアに継続して活動してもらうための取り組みや意識していることについて伺いました。
プロフィール:木村 駿
Learning for All 子ども支援事業部。2016年1月よりLFAの学習支援ボランティアに参加。以降、在学中はインターンとして葛飾区・墨田区を中心にボランティアの育成や管理を行う教室長として従事。2018年4月よりLFAに入職。「すべての人が変わりたいと思っている」という確信から、関わるすべての人が、大きな壁を乗り越え、変わることができた経験を持てるようにしたい。加えて、社会課題を他人事でなくジブンゴトとしてとらえる人を増やしたいと考える。最近ハマっていること:自炊、500円玉貯金、amazon primeを見る
LFAのボランティアの特徴
━━LFAの学習支援現場では、大学生のボランティアやインターンが多く活躍しています。まずはボランティアプログラムの概要について教えてください。
LFAの学習支援では「大学生ボランティア(以下、ボランティア)」と「大学生インターン(以下、インターン)」が協力しながら、小学校4年生〜中学3年生を中心とした学習遅滞を抱えた子どもたちに寄り添って勉強を教えています。
ボランティアプログラムは3ヶ月を1プログラムとして実施。私たちの支援は、ボランティアの活躍が、子どもたちを継続的に支援していくための「要」となります。次のプログラムにも参加を促すなど、なるべく継続的に関わってもらえるよう意識しています。
━━ボランティアとインターンは、どのように役割分担しているのでしょうか。
ボランティアには3か月間の指導用に用意されている指導カリキュラムに基づいて「授業の準備」や「授業での指導」をしてもらっています。子どものためにホワイトボードやスケッチブックを用いて視覚的に楽しい教材を準備したり、宿題を用意したり。子どもたちが楽しく学習に向き合えるよう、ひとりひとりのつまづきに合わせた授業準備をしてくれています。
一方でインターンは、ボランティアが制作した教材の確認や、子どもたちへの対応方法をボランティアと相談・確認する等、ボランティアのサポートを行っています。ボランティアが子どもたちと向き合うなかで成長できるように、指導後の振り返りを一緒に行ったり、アドバイスを伝えるのもインターンの役割です。
LFAではボランティアプログラムを通して、「社会課題を解決する人材の育成」も目指しており、ボランティアの成長も目標としている
画像引用:「活動紹介」NPO法人Learning for All
ボランティアと関わる際に大切にしている事
━━子どもの支援を行うだけでなく「ボランティア自身の成長」も目指しているのが、LFAの特徴的なところですね。木村さんがボランティアやインターンと接する際に、大切にしていることはありますか。
まずは「信頼関係」を築くことを大切にしています。基本的なことではありますが、何かあったときに何でも相談してもらえるような信頼関係は非常に重要です。そのために一人ひとりと関係性をつくり、話しやすい雰囲気を作るようにしています。たとえば「何か相談ある?」などと直接的に聞くのではなく「ちゃんと寝れた?」などと気遣う声かけから関係性を作ることを意識しています。
ボランティアが子どもへの指導中にコミュニケーションを取るのは難しいため、指導現場への行き帰りや休憩時間などにコミュニケーションをとっています。指導前だとボランティアが緊張していることもあるので、彼らが不安に思っていることを聞いたり、休憩時間には労いの声かけをすることで少しずつ関係性を築いています。
コロナ禍ではなかなか難しい面もありますが、コロナ以前は、活動後に一緒にごはんを食べに行くなど活動外でのコミュニケーションも積極的にしていました。
最近では、ボランティアと指導の準備や振り返りについてオンラインで打ち合わせする時に、最初の15分は雑談として最近の様子を聞く等、対面で会う機会が少ない中でもコミュニケーションを増やすよう意識しています。
━━短い時間でもコミュニケーションを行い、関係性の構築を心がけているのですね。ボランティアにモチベーションを維持してもらうためには、どのような心がけをしているのでしょうか。
こちらの記事にもあるように、LFAのボランティアは、それぞれ明確な目標を持ってLFAのプログラムに参加してくれています。
私は、ボランティアがプログラムを通して挑戦したいこととは別に、ボランティアそれぞれの「小さなやりたいこと」が実現できているかどうかを意識しています。
「こんな教材を作ってみたい」「自分の経験を共有したい」「もっと他のボランティアと話したい」など、小さなことでも、その人が「やりたいことを実現できている」という感覚を持てるようにサポートします。
やりたいことを実現する機会を、その人の「成功体験」にしてもらうことも意識しています。例えば「他のボランティアともっと話がしたい」といった場合には、その人に飲み会の幹事をやってもらう。飲み会を企画・開催した結果「みんなと話せてとても良い会だったよ。企画、ありがとう!」などと他の人から声をもらうことで小さな成功体験になります。そういった成功体験へのサポートを意識しています。
組織への愛着や、支援する子どもへの思い入れを深める取り組み
━━ボランティアやインターン同士の関係性づくりも大切そうですね。
そうですね。「この仲間と活動ができて楽しい!」という気持ちが自然と湧いてくる人間関係づくりができると良いと思います。
LFAではプログラムの関係上、インターン同士が長く一緒に時間を過ごすことが多いため、まずそこで仲良くなってもらいます。インターン同士の仲の良さという土台があった上で、ボランティアが参加するので、距離が縮まりやすいのではないかなと感じています。
━━ボランティアとして継続的に関わってもらうためには、どのような意識を持ってもらうことが大切でしょうか。
「所属意識」や「当事者意識」を持ってもらえることが大切だと考えています。
LFAの学習支援拠点は現在12拠点(2021年2月時点)ほどありますが、そこで活動するボランティアやインターンが作り出す独自の良さがあります。その良さが現れたときに「●●拠点らしいね!」などと伝えることで、チーム感を醸成したり、所属意識を持ってもらったりします。
その拠点で過去にボランティアをしていた卒業した先輩と現役ボランティアを繋ぐことで、出身校かのように愛着を持ってもらえるような意識もしています。
また、学習支援を担当した子どもに対して思いを持ってもらうことも、継続のための大きなポイントです。ボランティアの存在が、その子にとってどれだけいい影響があるかを伝えます。
長期的に子どもを支援していくには子どもとボランティアの相性は大切だと考えているので、「この子にはこの先生が合いそうかな?」と、相性が良さそうなボランティアと子どもをペアにするようにしています。
コミュニケーションのポイント
━━ボランティアとコミュニケーションをする際には、どのような心がけをしていますか?
子どもたちと関わる中で、課題意識が深まったり、次の行動へ踏み出したりできるよう、声かけをするようにしています。
ボランティアをはじめる動機は人によってさまざまです。最初は「ボランティア活動に興味がある」くらいの人も、活動していくなかで、興味や課題感が具体的になることもあります。興味が深まりそうなタイミングで「今度はここまで考えてみたら面白いかもね」などと声かけをしています。
その他にも、ボランティアとの雑談の中で出てきた興味や課題について「どうしてそう思ったの?」「あなたはどうなったらいいと思う?」など、思考を促すような声かけもしています。そうすることで、そのボランティアが子どもに向き合ってる中で感じた違和感などを掘り下げる手伝いができればと思っています。
━━ボランティアの興味を深め、思考を促すための声かけ…。少し難しそうですが、実践するためのポイントはありますか?
ボランティア自身が興味を持っているテーマに自分自身も、興味のアンテナをはっておくことがポイントかと思います。そうすることで「自分だったらこうしてみるかな」という声かけができるようになります。なので、ボランティアがどのような理由でLFAのプログラムに参加してくれたのか、きっかけはしっかり聞くようにしています。
━━なるほど、先回りして考えておくことが大切そうですね。
「次のステップとして、こういった関わりができるよ」など、本人が次を考える前に提案するようにしているんです。ボランティアの活動が始まって1〜2週間経った頃に「次のプログラムも参加してみない?」と早めに声かけをしたり。
ボランティア一人一人の興味を深めたり、成功体験を積んでもらったりすることが、支援活動の継続につながる。「ここだと自分は活躍できる」「ここで活動するのが楽しい」と思ってもらうことで「ここにいたい」と思ってもらうことも大切です。
LFAには、ボランティアやインターンを経験後、企業に就職し、再び職員になって組織に戻ってくる人もいます。それは、ボランティアやインターンの活動が、その人にとって良い経験になっている証拠でもあると感じています。
まとめ
木村さん、お話ありがとうございました。
最後に「ボランティアの継続」について、LFAでの実践ポイントを下記にまとめます。
・ボランティアに継続してもらうためにはまず、「信頼関係」を築くことが大前提
・信頼関係は、短い時間でもこまめにコミュニケーションをとり、日々の中で積極的に築いていく
・ボランティアのモチベーション維持のためには、それぞれの「やりたいこと」が実現できているかどうかを意識し「成功体験」をつくることが重要
・活動する拠点に愛着を持ってもらい、所属意識を醸成する
・ボランティア自身の興味や課題感を深める声かけをする
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※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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