2022年6月27日に、子どもに向き合う全国各地の支援者が学び/知見/意見をシェアするオンラインイベント「こども支援ナビMeetup」の第7回が開催されました。
新型コロナウイルスの感染拡大、ウクライナ侵攻など、社会が激しく変化する中で、孤立を深める若者たちがいます。本イベントでは、認定NPO法人D×P理事長の今井 紀明氏をゲストにお迎えし、今井氏が取り組まれているオンライン相談「ユキサキチャット」についてのご講演、および、認定特定非営利活動法人Learning for All(以下、LFA)代表の李との対談を通じて、孤立する子ども・若者への支援の在り方や、社会との連携についてお伺いしました。
今回も前回から引き続き、LFA代表の李をモデレーターとして、参加者と今井氏の質疑応答の内容をお届けします。
他の支援機関との個人情報の共有について
ー参加者:支援が必要な若者の情報は自治体と共有しているのでしょうか。個人情報の壁があって、自治体とNPO間の情報共有が困難なのではないかと思い、何か工夫があれば教えていただきたいです。
情報共有はすごく難しい問題で、他のNPOで上手くいっている事例があれば是非聞きたいです。D×Pでは、相談者から許可を取った場合は自治体に共有して、福祉課や児童相談所などと連絡を取れるようにしています。規約上、本人の許可がない場合は絶対に共有しません。個人情報共有については、ハードルが高いなと思っています。
ー李:LFAでは「利用規約申し込みの際に許可を取る」のと、特定の自治体と「子ども達の支援のために情報共有を行うという協定を結ぶ」という2重の許可を取っています。ただ、今井さんの場合は支援対象の範囲が全国なので、全ての自治体と結ばないといけないから大変ですよね。
将来的には、オンラインで協定を結ぶ、何か効率的な方法があればいいんですけどね。
ー李:情報共有については「個人情報保護条例」という国の規格で決まってしまっているので、デジタル庁や総務省などに対して政策提言していく必要がありますね。もちろん、すごくセンシティブな情報のため、扱いは丁寧にやらないといけませんが、こうした場合は使えるとか、相談支援との情報のやり取りについてもフォーマット化する方が絶対に良いと思います。
フォーマット化したうえで共有できれば、オンライン支援はすごく助かります。これは取り組む必要がありますね。
ー李:これは是非取り組みましょう。
寄付型NPOの経営問題
ー李:支援全体として非常に大きな金額の現金給付を行っていますが、経営はどうされていますか?寄付が活動の基盤となるNPOに共通した問題になると思います。
仰る通り、D×Pの毎月の現金支出はとても大きいです。そのため、今も融資を利用しつつ、なるべくキャッシュは常に潤沢に持つことを大切にしています。今だと、おそらく年間の9ヶ月間分ぐらいはキャッシュを持っています。つまり万が一無収入状態でも、9ヶ月は様々な打ち手を打つことができるようにしています。現在は月額のサポーターさんがいらっしゃるのでそのような事態は起こりませんが、相談に来てくれた方が困らないような対策を取っています。
ー李:ある程度手元にキャッシュがあることは重要ですよね。また、講演でも言及されていましたが、先日は職員の給料をきちんと上げるということも公表されていましたよね。(※)
※「認定NPO法人D×Pは2022年4月に全職員への賃上げ(ベースアップ)を行いました。」https://www.dreampossibility.com/news/5515/
公表を決断するのはなかなか大変でした。このようなメッセージを出していいのかギリギリまで迷いましたが、NPOとして発信する必要があるのではないかと思いました。全てのケースにあてはまるわけではありませんが、人がいてこそ良い支援を届けることができます。「職員の給料にもお金をかけてきます」というメッセージを打ち出していくことも、寄付をくださる方々に理解していただくうえで、我々が大切にした方が良いことだと思っています。実は、あの公表によってサポーターの数が増えました。
ー李:重要ですよね。子ども・子育て系の業界は賃金が安い。それは、子どもたちの支援にあたる人たちの専門性の高さに対する社会的な認知が甘いからじゃないでしょうか。このままでは持続性が課題です。支援を必要とする子ども達はどんどん増えていくのに、支援者が続かなくなってしまう。
とても共感します。私はNPOで働ける人が居続けられるように環境を整えておくことが、後世に繋がっていくと考えています。給料を含む労働環境の改善に、今取り組むことが必要だという意識を持って経営を行っています。
相談員の研修・ケア
ー参加者:対応しなければならない相談が多い中で、相談員のスキルアップやメンタルケアについてどの程度意識しているか、具体的な研修の方法など伺えると幸いです。
端的に言うと、スキルアップの研修に関しては全部録画していて、スタッフで共有しています。様々なケース例や外国籍・児童福祉・LGBTQ・高卒就職といった各ジャンル全てについて、2〜3カ月のペースで視聴してもらっています。加えて、発達障害サポーター’sスクールの登録もしていて、全員に受けてもらっています。これらを業務時間内に行ってもらっています。
メンタルに関してはやはり心配しています。特に年末と8月が忙しくなるので、他の期間に有給休暇を取れているかの確認や、会社休日を作って三連休を用意する工夫を行っています。また、残業を少なくするなど、まず労働時間を短くすることも試みています。
職場の魅力
ー参加者:採用や人材育成に関する想いの強さを感じました。D×Pに集まって来る職員・業務委託の方々は、何を魅力に感じて集まってくるのでしょうか。
この質問に代表が答えて良いのか分かりませんが(笑)、否定せず関わるという文化形成や、フレックスタイム制という働きやすさが理由ではないでしょうか。私たちの職員には子育て世帯も多いので、なるべく働きやすくしています。ただ「否定せず関わる」と言っても、社内では結構自由闊達な議論もあるので、その辺のバランスがとても魅力的だと思います。
ー李:心理的安全性があって、皆で議論しながら前に進んでるという感じですね。
そうですね。僕自身がそれを大切にしています。
今後の事業展開と子ども支援者に対する思い
ー参加者:今後どのような事業展開を考えていらっしゃいますか。
ビジョン達成のゴールを定義する、つまりエンドゲームを考えるのってすごく難しいですよね。D×Pでいうと、中長期的にはユキサキチャットの出口を考えています。今は支援を必要としている人たちがいるので私たちが取り組んでいるんですけれども、現金給付などは「本来はNPOの仕事じゃない」という意見も多いです。そのため、ユキサキチャットのような相談の取組が、全国の各自治体でもきちんと予算化されて、様々なNPOが実施できるようになるというのがユキサキチャットの出口戦略なのかなと思っています。
ただ、国に対しての政策提言も出口戦略として捉えていますが、少子高齢化の日本の総人口動態を考えた時に、若年層支援に大きく資源が割かれるようにはならない可能性があると考えています。そのため、自分たちでやれる範囲も広げていこうとは思っています。今対象にしている子達の3割ぐらいは、自分たちがアウトリーチできるぐらい力を発揮したいという、2030年のビジョンを掲げています。
オンライン相談の難しさはアウトリーチです。国が10代や20代の子達のニーズを深く捉えることは、おそらく難しいでしょう。オンラインの相談支援のアウトリーチ、つまり多様なアプリやコミュニティ全部にアウトリーチできるのがNPOならではの強みだと考えています。国として変えてほしいところの提案はしつつ、自分たちのやれる範囲としてアウトリーチも広げていかないと、現実的な問題の対処ができないんじゃないかと思っています。
「私を助けて」という声を出しやすい社会づくりと、若年層が情報にアクセスしやすい仕組みづくりが必要です。オンラインの相談で情報にアクセスしやすくしたり支援制度の申請などをサポートして制度を受けやすくしたりすることで、情報や助けを求めやすい環境にしていくことが、大まかに言うと私たちD×Pが取り組んでいくことです。
もし皆さんの周りでも現金給付や食糧支援が必要な子がいたら、ぜひ声をかけてみてほしいです。「若者の孤立を改善したい」と思って20年経ち、NPOを始めてからは10年ほど経ちましたが、いろんな関係者と協力していかないと問題解決は達成されません。1つのNPOの力では無理です。皆さんと一緒になって問題解決を目指していくことができればと思っています。
まとめ
今回は、今井氏とLFA代表の李の対談、そして参加者からの質疑応答の様子をご紹介しました。
- 支援対象者に関する自治体との情報共有は、当事者の許可があれば行っているが、オンライン支援においては実例が少なく課題が多い。
- 現金給付や不測の事態に対応できるようにキャッシュを蓄えたり、支援を支える人が持続して働けるような環境を整えたりすることを意識して経営を行っている。
- 否定しないで関わるという安心空間に基づく議論ができる文化と、働きやすく休みやすい環境がD×Pの魅力。
- 全国でユキサキチャットのような若年層がアクセスしやすいオンライン相談の精度が整うことが目指すゴール。そのための政策提言をしつつ、D×Pのアウトリーチの範囲も広げている。
- 課題解決のためには、各関係者の連携が不可欠である。
今井さん、ありがとうございました!
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※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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