【連載第4回】「ゴールドマン・サックス 地域協働型子ども包括支援基金」の実践報告~自治体と協働して作り上げた、NPO法人アスイクの包括支援とは~(こども支援ナビ Meetup vol.11)

2022年10月28日に、子どもに向き合う全国各地の支援者が学び/知見/意見をシェアするオンラインイベント「こども支援ナビMeetup」の第11回が開催されました。

本イベントでは、NPO法人アスイク(以下、アスイク)代表理事の大橋氏をゲストにお招きし、「ゴールドマン・サックス 地域協働型子ども包括支援基金」の助成事業としてアスイクが自治体と協働した実践事例やアスイクが運営する地域協働型の子ども包括支援事業についてお話いただきました。

【連載第1回】「ゴールドマン・サックス 地域協働型子ども包括支援基金」の実践報告~自治体と協働して作り上げた、NPO法人アスイクの包括支援とは~(こども支援ナビ Meetup vol.11)
【連載第1回】「ゴールドマン・サックス 地域協働型子ども包括支援基金」の実践報告~自治体と協働して作り上げた、NPO法人アスイクの包括支援とは~(こども支援ナビ Meetup vol.11)
【連載第2回】「ゴールドマン・サックス 地域協働型子ども包括支援基金」の実践報告~自治体と協働して作り上げた、NPO法人アスイクの包括支援とは~(こども支援ナビ Meetup vol.11)
【連載第2回】「ゴールドマン・サックス 地域協働型子ども包括支援基金」の実践報告~自治体と協働して作り上げた、NPO法人アスイクの包括支援とは~(こども支援ナビ Meetup vol.11)
【連載第3回】「ゴールドマン・サックス 地域協働型子ども包括支援基金」の実践報告~自治体と協働して作り上げた、NPO法人アスイクの包括支援とは~(こども支援ナビ Meetup vol.11)
【連載第3回】「ゴールドマン・サックス 地域協働型子ども包括支援基金」の実践報告~自治体と協働して作り上げた、NPO法人アスイクの包括支援とは~(こども支援ナビ Meetup vol.11)

イベントレポート第4回ではアスイク代表の大橋 雄介氏と認定NPO法人Learning for All (以下、LFA)代表の李が対談形式で参加者の皆様から寄せられた質問にお答えしていきます。

行政との関係づくりで大切にしていること

ー参加者)現場サイドから行政に提案して事業を作っていかれた経緯が「行政の下請けではなくパートナー」という信念を通されている感じがしました。この関係づくりは最初からうまくいったのでしょうか?何か苦労された点はありますか?

大橋:学習支援事業を最初に立ち上げたんですが、これはわりと壁に当たらずに動いていったような印象がありますね。

というのも、立ち上げ前の2年間は避難所や仮設住宅で活動していて、メディアで取り上げられる機会も多かったので、行政の方が私たちの活動をよく知ってくれていたというのは大きかったと思います。

自治体との協働というのは地域差・自治体による差も結構あって、その点で言うと仙台市は市民活動の土壌が豊かな地域なんですよね。先ほどNPO第一世代の加藤さんのお話もしましたが。

行政側も「市民協働」というキーワードを掲げていたりして、民間団体が無下にされにくい土壌があったと思います。そういう意味では運がよかったかなと。

李:行政へのアプローチは担当課から行くんですか?それとも首長?

大橋:大事にしているのは、「現場で一緒に働く担当課の方たちと関係性を作って働きかけること」ですね。

首長や議員さんを通したアプローチなど、いろいろなパターンはあると思うんですが、アスイクではそうした働きかけはほとんどやらないです。

実際に事業が始まったときに、一緒に働く人と関係性ができていなかったらその後うまくやっていけないと思うし、職員の方からしたら上からプレッシャーかけられるのって嫌じゃないですか。

それは私たちは失礼だなと思っているので、現場の人たちとちゃんと向き合ってやっていくことを大切にしていますね。

李:担当課の方と粘り強く話して、事業をちゃんとやって提案書にまとめて、成果も報告して…という大変だけど地味なことをずっと続けて関係性が築けているからこその今の展開なんだろうなと思います。

大橋:そうですね、ふれあい広場サテライトの話もしましたけど、自主事業の時期を含めると、もう8年間もやってますからね。

李:事業化してからすごく利用者が伸びてましたね。そこまでが大変そうでしたが。

大橋:そんなすぐにはうまくいかないこともたくさんありますね。タイミングが重要なので。精神論ですが、諦めずにやることが大事だと思います。

事業スタッフの採用・育成方法

ー参加者)これだけたくさんの事業を運営することは、それを支えるスタッフの採用・育成を絶え間なくやる必要があると思いますが、どのようにされていますか?有資格者の数は宮城県内だけでは足りないように思うので他県から呼んでいるのでしょうか?継続して働いてもらう・やめないための工夫もあれば教えてください。

大橋:今ざっと170人くらいスタッフがいますが、こういう事業って求人サイトで募集しても良い人がなかなか集まりにくいと思うんですよね。独特な事業なので他業種から転職してくる人も少ないですし。

アスイクで採用のためにやっている取り組みは、月1〜2回、定期的に職員の採用説明会を開くことです。

関心のある方に話を聞きに来てもらって実際に話して、そこから良い人が入社するというパターンが多いですね。あとはボランティアやアルバイトとして働いていた大学生が卒業して就職することもよくあります。

でも福祉の専門職はそもそも人が少ないですし、採用は難しいなと思いながらやっていますね。

李:採用もそうですが、育成も大切にしているんですか?

大橋:特別なことはしていないですが、現場で気づいたこと・学んだことを一緒に働く職員に共有できる環境・関係づくりが大事だと思っています。

スタッフ同士が日中話をしたりアドバイスをしあったりするケースはすごく多いなという印象ですね。

意地でも新しいことにチャレンジし続ける

ー参加者)地域で必要とされるものをキャッチしてアスイクさん自身が幅広く事業化されているのはすごいと思いました。新しい領域にチャレンジする際に気をつけていることや大事にしていることはありますか?

大橋:アスイクにはいくつか行動原則があるんですが、そうした自分たちが大事にしている価値観・原則から外れないことは大事なラインだと思っています。

例えば行政の下請けにならないことは大事にしている考え方の一つですね。

行政から相談されて事業が始まるパターンは最近増えてますが、その場合もどんなふうにやっていくのかはこちらから提案するようにしています。一方的に仕様書を押し付けられるような形ではやらないようにしていますね。

あとは「意地でも新しいものを作り続ける」というのも結構大事かなと思っています。一回止まってしまうと、その後動かしにくくなるんじゃないかという恐怖があるんですよね。

経営者の方からたまに「新しいことをやろうとするとスタッフが嫌がる」という話を聞くんですが、アスイクの場合は新しいことをやり続ける姿勢がDNAみたいに染み付いているので、僕の把握している限りですが、スタッフから新しい事業への批判はあまりないように思います。

李:170人もスタッフがいると「一回止めよう」「丁寧にやろう」という発想が出てきてもおかしくないですが、そこで新しいことをやり続けるのが組織の成長に繋がって新しい人やお金やビジョンを呼び寄せる感じがしますね。

でも経営者としてそれをやり続けるのはこの領域だと本当に大変だと思うので、この成長を維持している大橋さんはすごいですよ。

関係機関とのやりとり

ー参加者)貧困や虐待の最初の壁として「個人情報だから」と言われてしまうことがあると思います。学校や教育委員会、児相などさまざまな機関があるなかでどうやったら個人情報も含めて関係機関とやり取りできるようになるでしょうか?実績を示すしかないのでしょうか?

大橋:アスイクでも最初は「個人情報だから」と言われて情報共有できなかったことがありました。最近はあまりなくなりましたね。

これは「〇〇をやったら壁がなくなる」という方法があるようなことではなく、小さな実績の積み重ねや信頼関係の構築が一番大きいと思います。「あの団体だったら大丈夫だな」と思ってもらうというか。

少しずつ信頼関係を構築して大丈夫だと思ってもらえると、だんだん情報を得やすいポジションになっていけると思います。

アスイクも2年前くらいから仙台市の要対協(注1)の代表者会議の構成員にもなっています。

(注1)要対協…児童虐待などで保護を要する児童、養育支援が必要な児童や保護者に対し、関係する複数の機関で援助を行うため、児童福祉法に定められている「子どもを守る地域ネットワーク」

李:すごいですね。要対協の代表者会議に呼ばれているってことは、行政が介入するなかなかハードな案件も情報共有してもらえるわけですね。実力が認められている感じがします。

要対協の会議には実はNPOも入れるんですが、実際はあまり入れてないんですよ。また地域によっては会議自体がうまく機能していないこともありますね。

アスイクさんはこの重要な会議の代表者として参加されていて、しかも会議をうまく回しているというのはすごいと思います。

子どもの貧困支援で生協と協働するのはおすすめ

ー参加者)生協のスペースを利用するのはユニークな試みだなと思いました。何かきっかけがあったのでしょうか?

大橋:2013年に学習・生活支援事業を立ち上げる前に一つ試験的な事業をやっていた際に利用場所を探していて、知り合いづてに生協の集会所の存在を知りました。

生協の生活文化部長と顔見知りだったので、「集会所を使いたい」と相談して、アスイクを通せば無料で集会所を使えるような協定書を結んだのがきっかけですね。結果的には、学習支援事業で集会所を利用させてもらいました。

生協は相互扶助を目的とした組織で、子どもの貧困支援にも関心が高いところが多いです。でも直接子どもを支援することは難しいので、アスイクのような他団体と協力して子ども支援に関わる、という流れは作りやすい組織だと思います。

事業とお金の問題

ー参加者)新しい事業をやるには助成金や寄付といった資金源が必要だと思いますが、特に寄付集めについて力を入れていることや大切にしていることがあれば教えてください。

大橋:アスイクは寄付集めはあまりうまくないですね… LFAさんと比べたら2桁くらい違うと思います。地方は個人の寄付を集めるのは結構難しいと思うので、戦略的には自治体との協働という形が中心になってきますね。

寄付は財務的にも嬉しいですが、こうした活動に関心を持ってくれる人と繋がりを作る一つのきっかけとも思っています。

結果としてお金を寄付してくれたら嬉しいですが、どちらかというと子どもの貧困問題を知ってもらうための取り組みとして行っている側面が強いです。

李:お金ではなく、現物の寄付や会場の提供などはありますか?

大橋:会場の提供はあまりないですが、お米や食品の提供はすごく多いです。コロナ禍でフードバンクも始めたのでとても助けていただいています。

李:いいですね。お金という形だけでなく現物の寄付や現場参加など、いろんな形の参加・協働がありますからね。

大橋:そうですね。ただ、アフターフォローがすごく弱いなという課題意識がありまして。

寄付していただいた後の関係づくりがあまりうまくできていないです。やっぱり管理部門があまり手厚くできていないというのがありますね。

李:行政との連携で事業収入メインでやっていると、どうしても利益が上がりにくくて他への投資もしにくいですよね。

でもアスイクさんはビジネスモデルや経営的な数字をすごく分析してやられているなと思います。事業を多角化しているので収入の幅も広いですし。

いろんな事業を手がけて成長し続けて、新たなステージに行かれている姿に今日は大変刺激を受けました。

大橋:ありがとうございます。

登壇者より締めのコメント

大橋:本日は貴重な機会をいただきありがとうございました。

ほかの地域で活動されている方に対しても何か貢献できることがあればぜひ協力したいと思っていますので、何かあればお気軽にご連絡ください。

あとLFAさんのこの基金はすごく良い基金だと思っています。

助成金という面でももちろんありがたかったのですが、アスイクのスタッフがLFAのスタッフさんとの交流でたくさんの学びをいただきました交流後のスタッフが生き生きした様子で活動していて、こうした面でもこの基金はとてもいいなと思います。

本日はありがとうございました。

まとめ

最終回の第4回は、アスイク代表の大橋 雄介さんに自治体と協働するための姿勢や関係性づくりのポイント、新しい事業にチャレンジし続ける秘訣について伺いました。ポイントを以下にまとめます。

  • 行政との協働は、一緒に働く職員の方との信頼関係づくりが大切である。
  • 「行政の下請けにならない」「意地でも新しい事業にチャレンジし続ける」ことを大事にしながら事業を成長させている。
  • 少しずつ実績と信頼を積み重ねることで、行政も信頼して情報共有をしてくれるようになる。

大橋さん、ありがとうございました!

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※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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