【後編】ヤングケアラーの子どもたちが抱える、見えない「責任」とは ~一般社団法人ヤングケアラー協会の事例~

近年「ヤングケアラー」について、メディアなどで取り上げられることが増えています。しかし日本においては法令上の定義はなく、一人一人が抱える状況や「責任」は非常に多様です。身近にいるあの子も実は…ということがあるかもしれません。

今回は、一般社団法人ヤングケアラー協会(以下、ヤングケアラー協会)の代表理事を務めていらっしゃる宮崎様にインタビューを行いました。ヤングケアラーたちが抱える「責任」や、ヤングケアラー協会が実施している支援内容について知ることで、ヤングケアラーと呼ばれる子どもたちが抱える様々な問題について、考えるきっかけとなりましたら幸いです。

前編では、ヤングケアラーの子ども達の背景や、抱えている「責任」についてお話を伺いました。

【前編】ヤングケアラーの子どもたちが抱える、見えない「責任」とは ~一般社団法人ヤングケアラー協会の事例~
【前編】ヤングケアラーの子どもたちが抱える、見えない「責任」とは ~一般社団法人ヤングケアラー協会の事例~

後編では、更に詳しい取り組みの様子や、支援において大切にしていることなどをお伺いします。

プロフィール:宮崎 成悟
1989年生まれ。15歳の頃から難病で寝たきりの母のケアを担い、大学卒業後、国内大手企業に入社。3年で介護離職。 その後、2019年にYancle株式会社を設立し、自身の経験をもとにヤングケアラーのオンラインコミュニティ、就職・転職支援事業を行う。 同事業の形態を変え、一般社団法人ヤングケアラー協会を設立。以下を歴任。
令和3年度 厚生労働省「ヤングケアラーの実態に関する調査研究」検討委員会 委員
令和4年度 厚生労働省「子どもの虐待防止推進等普及啓発事業」ヤングケアラーに関する外部アドバイザー
令和4年度 山梨県 ヤングケアラー支援アドバイザー 著書(共著)『ヤングケアラーわたしの語り』『Nursing Today ヤングケアラーを支える』

ヤングケアラー協会の活動

—ヤングケアラー協会の活動について、教えてください。

私たちは大きく5つの活動を行っています。

  • ヤンクルコミュニティ:ヤングケアラーと元ヤングケアラーが集まる、オンラインコミュニティ。現在約300名ほどが参加している。
  • キャリア相談窓口:ヤングケアラーが若者ケアラー(※)となり、自身のキャリア・ライフとケアの両立が難しくなった際の相談に乗る。
  • 研修・講演:支援者の方々への啓発活動。動画やカタログ制作も行っている。
  • LINE相談窓口:行政からの委託事業。
  • オンラインサロン:行政が運営しているヤングケアラーのオンラインコミュニティ。一部を委託事業として運営している。

※若者ケアラー:18歳~おおむね30歳代までのケアラーのこと。(一般社団法人ヤングケアラー連盟による定義

私たちは、「ヤングケアラーが自分らしく生きられるようになること」を目指しています。それは「ヤングケアラーを家族から引き離す」ということではなく、家族のケアを続けることも含め、彼らとその家族の目の前に多くの選択肢があることが重要だと考えています。選択肢があることで、自分の「将来の道しるべ」を見据えながら、今の状況をどうにか乗り越えていけるようになると思っています。ヤングケアラー自身・ケアされる家族にとっての選択肢を、一つでも増やしていきたいと思っています。

私たちがヤングケアラーの方々と直接接点を持つのは、LINE相談窓口(ヤングケアラーチャンネル)と就職相談窓口、ヤンクルコミュニティ(オンラインコミュニティ)の3つの事業になります。

LINE相談窓口(ヤングケアラーチャンネル)

ヤングケアラーからの相談は、LINE相談窓口で受けることが多いです。相談内容としては、ネグレクトに近い家庭の子どもが助けを求めるといった、緊急度の高い相談も一部ありますが、多くは「学校に行きたくない」「辛い、しんどい」「人目が怖い」といった相談です。こういった相談の場合も、事情を詳しく聞いていくと、家庭が何らかの困難を抱えているために、子どもが精神的・肉体的に負担を負っていることが分かることも多くあります。

LINE相談窓口については、行政からチラシが学校に配られるため、小学生から高校生まで様々な方とつながっています。関わり方は人によって様々で、一度のやり取りで終わる子もいれば、数カ月単位の長い関わりを続けた先で他の支援機関につなげる子もいます。ただ、相談を受けてすぐに他の機関を紹介すると、その子が相談に来てくれた勇気を裏切ってしまうように思うので、あまりそのようなことは行っていません。LINE上でやり取りを続けて信頼関係を築いた後に、その子が必要としている支援に繋げることが出来ると考えています。


画像:illust AC

就職相談窓口

就職相談窓口は、主に若者ケアラー(18歳から概ね30歳代までのケアラー)の方々が利用しています。大学生や、社会人になって間もない方からの相談が多いです。ヤングケアラーから若者ケアラーになっていくと、キャリアの壁にぶつかります。キャリアとは仕事のことだけではなく、「一人暮らしをしたい」「結婚をしたい」等の、個人の人生にまつわることを含むと捉えています。ヤングケアラー・若者ケアラーにおいて、キャリアと介護・ケアとの両立が難しくなるポイントで相談に乗っています。

例えば大学生だと、就職を考えるにあたって「自身のやりたいこととケアの両立」について悩んでいる方がいらっしゃいます。また、社会人からは、仕事とケアの両立が難しくなっている状況について「この状況を継続させるか、転職などで状況を変えていくのか」といった相談を受けることが多いです。これらの相談に対し、私たちは家庭の状況や本人のやりたいこと/やるべきことを確認し、一緒にキャリアプランを作るということを行っています。

ヤンクルコミュニティ

オンラインコミュニティでは、ヤングケアラー・若者ケアラー・元ヤングケアラーが集まっています。最近ではヤングケアラーについてのニュースを目にするようになりましたので、ネット検索を経て主に17歳以上の方々が参加して下さっています。日常生活の中のモヤモヤや不安について、当事者同士がコミュニケーションをとれる場所、ピアサポートが生まれる場所になっています。

形式としてはSlackアプリを用いていて、自由に参加・利用することができます。「雑談用のチャンネル」や「返信不要の独り言チャンネル」、「悩み相談」…といった様々なチャンネルが存在します。「悩み相談」チャンネルに投稿された悩みには参加者や職員が答えます。参加者の中には、ヤングケアラーの経験があり、現在はスクールワーカーや看護師といった支援職や専門職に携わっている方々も多くいらっしゃるため、専門的な回答が多く見られます。また、「返信不要のひとり言」チャンネルでは、当事者のつぶやきに対して、様々な人がSlackのリアクション機能を用いて反応をするやり取りがよく見られます。

支援において大切にしていること

—支援全体を通して、大切にしていらっしゃることはありますか。

「伴走し続けること」を大切にしています。ネグレクトや虐待などの「支援の緊急度が高い」方々は、既存の支援の仕組みもある程度整っているため、行政の対応によって子どもの責任を軽くすることがある程度可能です。一方で、既存の仕組みに当てはまらない「支援の緊急度が中程度」の子どもたちの場合は、困りごとはあっても既存の支援制度の中ではそこまでは重くないと判断されてしまいます。そのため、たとえスクールソーシャルワーカーの方がその子を見つけたとしても、繋げられる具体的な支援機関は多くなく、家族や子どもの話を聞いて寄り添い続けることしか手段がないというのが現状です。

ただ、そのように寄り添ってくれる人は何人いても良いと思っています。私たちは、今の子どもたちが慣れ親しんでいるSNSツールを用いて、接点を持ち続けるようにしています。いずれ状況が悪化してしまったときに、子どもが「助けて」と声をあげられるようなつながりがあることが必要ではないでしょうか。

接点を持ち続ける第一歩として、まず「参加してもいいかな」と思ってもらえることが大事なので、LINE相談窓口の名前を「相談窓口」ではなく「ヤングケアラーチャンネル」としたり、学校に配るチラシの中でもあまり「相談」という言葉を使わないようにしていたり、「中の人」(運営しているスタッフ)を紹介する等の工夫をしています。そうやってまずは接点を作って、そこから情報を発信したり声掛けをしながら接点を深めて、関係性を持続させるという流れが大事だと思っています。

まとめ

今回は、一般社団法人ヤングケアラー協会の宮崎さんに、具体的な取組についてのお話や、支援において大切にしていることなどについて伺いました。ポイントを以下にまとめます。

  • ヤングケアラー協会は、LINE相談窓口や就職相談窓口、オンラインコミュニティの運営などを通して、ヤングケアラーや若者ケアラーとつながり続け、ヤングケアラーが自分らしい生き方を選ぶことが出来るように選択肢を増やす支援を行っている。
  • 定常的な接点を持ち続ける中で信頼関係を築き、目の前の子どもが本当に必要としている支援を模索することを大切にしている。

宮崎さん、ありがとうございました!

※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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