【後編】環境構成:場面別の環境構成と実施手順〜子どもの周辺環境を工夫して、育みを促す〜

前編に引き続き、子ども支援拠点での環境構成について、考え方や注意するポイントをまとめます。後編では、子どもたちの遊びの場、生活の場、養護の場をどのように構成したら良いのか、また環境構成を実施する際の手順についてご紹介します。環境構成をしていく際の進め方の手順をまとめます。

前編はこちら:

【前編】環境構成:8つの要素と3つのポイント〜子どもの周辺環境を工夫して、育みを促す〜
【前編】環境構成:8つの要素と3つのポイント〜子どもの周辺環境を工夫して、育みを促す〜

具体的場面に即した環境構成

ここからは具体的な場面として、「遊び」「生活」「養護」の三つの場で重要なポイントを見ていきましょう。

遊びの環境構成

遊びの環境においては子どもが活動の欲求を満足させることができることが重要です。この欲求が満たされた時に子どもには安定と秩序が生じると言われています。また、子どもが挑戦できる環境になっていることも大切です。「空間に役割を持たせる」「家具の工夫」「色合いや音の大きさの調整」の3つの観点からポイントをご紹介します。

空間に役割を持たせる

空間に慣れていない子どもが多い場合は、初めから空間に特定の役割を持たせることが有効です。例えば、積み木をする場所、運動をする遊び場、ごっこ遊びをする場所などが分かれていると子どもは安心してその空間に入っていけます。その際、必ずしも部屋を完全に区切る必要はなく、机単位やテーブル単位でそれらの機能が分かれている形でも大丈夫です。ただし、場に慣れた子どもが多いのであれば、比較的自由な使い方ができる空間を設計してもよいでしょう。

家具の工夫

子どもにしてほしい活動に合わせて家具の高さや大きさ・材質を調整することも有効です。例えば、造形的な遊びをする際には十分な広さのテーブルがあると良いでしょう。また、子どもの行動を変えるために環境を工夫することもできます。子どもが机に上るのを防ぎたい場合には、上りたくなるような高さの机を選ばないことによって改善できる可能性があります。


出典:Pexels

色合いや音の大きさの調整

視覚・聴覚や刺激の大きさには注意が必要です。色合いのコントラストが強すぎたり、音が常に聞こえるような環境では、刺激に対する感度が強い子たちは疲れてしまいます。視覚・聴覚への刺激が過度になっていないか気をつけることで、より多くの子どもたちが安心して過ごせる環境になります。

生活での環境構成

生活の場を作る時に重要なことは、子どもにとってわかりやすい環境にすること、可能な限り子どもが自分でできる環境を作ることです。

子どもにとってわかりやすい環境

生活用品をいつも同じ位置に同じように置き、子ども達にとってわかりやすい環境にすると良いでしょう。毎日一定の動作を繰り返すことで、子どもたちの生活習慣が形成されていきます。
また、視覚化することも重要です。視覚化するというのは、言葉での説明をしなくても、使い方が分かるようにすることです。子どもたちが使うロッカーと下駄箱にそれぞれ同じマークをつけておいたり、玄関にビニールテープで枠を作って靴を揃える習慣を作るなどすると良いでしょう。

子どもが自分でできる環境

子どもが大人に指示をされなくても、自分でできる環境を整えておくことも大切です。そのためにはまず、なるべく時間がゆったりと流れている環境を意識できると良いでしょう。時間に余裕がないと、子どもが自分でやろうと頑張っている最中にも関わらず、指示や手を出してしまいがちです。その上で、例えば掃除道具を子どもが自分で取り出せる場所に置く、何をどこに片付けるのかがわかるイラストを収納ボックスに貼っておく、など子どもが自分でできるための工夫を施すと良いでしょう。

養護の環境構成

養護の観点から環境を考えることも重要です。ここでいう養護とは、情緒の安定と生命の保持を意味します。情緒の安定という観点から大切にしたい2つのポイントをここでは紹介します。自然が取り入れられた環境であること、一人で落ち着ける空間があることです。

自然が取り入れられた環境

植物などがある場所は、心理的な回復を促す環境になりやすいです。また、実際の自然ではなくても、壁面や柱、テーブルなどが木材であったり、障子や畳などの自然素材と多く触れられる環境であったりすると、情緒の安定感を増すことができます。


出典:Pexels​​​​​​​​​​

一人で落ち着ける空間がある

一人で落ち着ける空間があることも重要です。プライバシーが守られ、休息をとれる環境があると、必要な時にストレスや不安感を軽減することができ、子どもが安心して生活することができます。
また、部屋の中での子どもたちの密集の程度を考慮することも重要です。密度が高いとストレスが大きく、興奮状態になりやすいです。密度が低すぎて孤独感を感じるのもよくありませんが、あまり過密な空間だと子どもが攻撃的になったりする可能性があることにも配慮しましょう。

環境構成の6つの手順

最後に、環境構成を実施していく際の手順を見ていきます。以下の6つの手順を踏むことで、自分たちの理想とする拠点のあり方を実現するための、そして通っている子どもたちに合った環境構成を考えやすくなります。


画像:Learning for All作成

①児童の発達の見立て

初めに行うことは、個々の子どもの発達の見立てです。運動能力や学習能力、他者とのコミュニケーションの仕方について、同じ年齢の子の標準的な育ちと比較した時に、補えると良いポイントがあるかを見立てましょう。どのような能力、考え方、習慣を身につけることがその子にとって良いのかを、具体的に明確にできると良いでしょう。

②保育の目的の策定

①の見立てと、自分たちの実現していきたい拠点の理想の両方を合わせて考え、どのような育みを目的とした場にするのかを策定しましょう。

③玩具や生活用品の選択

次に、玩具や生活用品を選択します。テーブルのように簡単に買い替えられないものもありますが、買い替えられるものはその都度、環境構成の観点から選択しましょう。同じブロックでも木製のものもあればプラスチックのものもあり、色も商品によって多様にあります。

④空間の構成

その後には、空間の構成、すなわち家具や用具の配置を考えます。目的に応じて、安心できる空間にしたり、主体的に生活できる空間にしたりしましょう。その際、環境の要素となる空間の広さや動線、視覚情報や音などの質と量を意識しましょう。

⑤人的環境としての行動計画

物的空間を構成したら、人的環境を考えることも必要です。周囲の大人も空間の一部ですから、自分たちがその場でどう振る舞うかを考えましょう。普段子どもと触れ合う際に考えていることをいつも通りに考え、それが保育の目的と矛盾していないかを考えられると良いでしょう。

⑥日課を展開する

日課を考えることも重要です。どのようなスケジュールで動くのか、どのようなルーティーンを日常に取り入れるのかを考えましょう。日課によって生活の流れを一定にすることは、子ども達が生活習慣を身につけるのに役立ちますただ、子どもの発達に違いがある場合は、幅を持たせて余裕のあるスケジュールを作るとそれぞれの子どもにあった対応が可能になります。

まとめ

今回は、具体的な場面別の環境構成と、環境構成を計画する際の手順をご紹介しました。ポイントを以下にまとめます。

  • 遊びの環境構成では子どもが活動の欲求を満足させられるよう、空間に役割を持たせ、家具の選択、ものの色・音の大きさを工夫する
  • 生活の環境構成では、子どもにとってわかりやすい場所にすること、子どもが自分でできる環境をつくることが大切
  • 養護の環境構成では、子どもの情緒の安定のために、植物を取り入れたり、一人で落ち着ける空間を設けたりする
  • 環境構成の6つの手順を踏むことで、自分たちの理想とする拠点のあり方を実現するための、そして通っている子どもたちに合った環境構成を考えやすくなる。

※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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