作業療法士に聞く!学習支援における発達障害の子どもとの関わり方

学習支援拠点に来ている子どもの中には、発達に特性がある子どもたちも多くいます。専門的な知見も問われる分野のため、対応方法についてお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、学習支援現場で起きがちな事例と対応方法について、作業療法士の高畑先生にお伺いしました。

プロフィール:高畑脩平
作業療法士。藍野大学医療保健学部作業療法学科助教。
大学時代に発達に特性のある子どもに関わるキャンプに参加した経験から、発達障害分野に興味を抱くようになる。著書に、「子ども理解から始める感覚統合遊び」「みんなでつなぐ読み書き支援プログラム」がある。

 

発達障害とは

発達障害には大きく3つの種類があります。

自閉症スペクトラム障害(ASD)

「対人関係・社会性やコミュニケーション能力に障害があり、物事に強いこだわりがあります。また感覚が異常に過敏(または鈍感)であったり、柔軟に思考することや変化に対処するのが難しいこともあります。」

引用:「発達障害とは?発達障害の分類・症状・特徴・診断方法はどのようなもの?」LITALICO発達ナビ

子ども支援の現場においては、「扉を必ず自分が閉めないと気が済まない」「一度始めたら気が済むまでやり続ける」など、その子ども自身の強いこだわりが見られる場合があります。

注意欠如・多動性障害(ADHD)

「不注意・多動性・衝動性」といわれる、「落ち着きがない」「集中力がない」などは誰にでもある行動のようにも見えますが、ADHDの場合には社会的な活動や学業、日常に支障をきたすほどの症状が見られます。

引用:「発達障害とは?発達障害の分類・症状・特徴・診断方法はどのようなもの?」LITALICO発達ナビ

学習支援の現場において、ADHDの傾向が強い子どもは椅子に座ることができず走り回ってしまうこともあります。

学習障害(LD)

基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、読む・書く・聞く・計算などのある特定分野における理解・能力取得に極端な困難さがあります。

引用:「発達障害とは?発達障害の分類・症状・特徴・診断方法はどのようなもの?」LITALICO発達ナビ

マス目内に文字を書くことができない、「ぬ」と「め」を混同して読んでしまう、など学習支援の現場ではLDの傾向が強い子どももいると思います。

子どもの支援計画を立てる際に意識すること

━━様々な発達に特性を持つ子どもの支援計画を立てられていらっしゃると思いますが、子どもの支援計画を立てる際に大切にしていることはありますか?

気になる”行動”に対して、解決策を出す前に”理解”を深めること、そして成功の法則を探すことを大切にしています。

気になる行動について、「どんな対応方法があるか端的に教えて欲しい」という依頼もよくいただくのですが、その場しのぎの対策は逆効果になる可能性もあります。

例えば、奈良県作業療法⼠会が作成した「⼦どもの育ちを応援する“作業療法⼠の視点”」という資料では、座ることができない子どもについて、約63ページに渡って分析をしています。このように「座る」という行動一つをとっても、身体機能上の問題なのか、感覚調整機能の問題なのかによって対応方法が変わってくるのです。

まずは行動の理由を理解すること、そしてその理由を周囲にも伝えることで、周囲の見方も変わってくることから、「理解を深める」ことを大切にしています。

また、「どのような時であれば上手くいくのか」という成功の法則を探すことも大切です。例えば、「ワーキングメモリ(作業記憶、作動記憶)が少なく、学習内容がなかなか定着しない子」についても、アニメのキャラクターの名前はしっかり覚えているなど、記憶の定着を成功しているパターンを探します。

できないことに焦点を当てるのではなく、どういう条件が揃ったら学習定着しているかという成功の法則を探すことを大切にしています。

実際の事例で考える、発達特性を持つ子どもへの対応

発達に特性がある子どもと言っても、学習支援現場における困りごとは様々です。ここでは1つの事例をもとに、どのような対応方法があるのかを見ていきます。

━━文字をマス内に記入することが苦手な子どもがいます。漢字の書き取り練習では、偏(へん)を大きく書きすぎてしまい、旁(つくり)がマスに収まりません。あわてて消しゴムで消すと、うまく書けていた漢字まで消してしまいます。どのように対応すれば良いでしょうか?

[原因と対策]
3つの原因が考えられます。

原因1:書き始めの場所がずれている可能性があります。
原因2:「すでに書いた部分、今書いている部分、残りの部分」の3つに同時に注意を払いながら、空間的バランスの、つじつまを合わせることが難しい可能性があります。
原因3:運動のコントロールが苦手な可能性があります。

今回は、原因1の対策を見ていきましょう。

原因1.書き始めの場所がずれている可能性があります。

文字をマスの中に収めるには、書き始める前に、書こうとしている文字(あるいは単語・文章)全体の形や量をマスの大きさに合わせてイメージし、どこから書き始めるのか、どの位の大きさで書くのかの見通しを立てる必要があります。その見通しがもちにくい、もしくは、それをすることなくいきなり書き始めるのかもしれません。

このような子どもには、書き始めの位置や左右の関係を意識しやすくなる工夫をすると改善することがあります。

  • 十字リーダー(点線)入りノートを使用する。
  • へんとつくりが左右に分かれる漢字の書き取りの場合は、マス内の左右を点線で分ける。
  • マス内の左右を赤・青などで色分けしておく
  • 文字数が増えたときに解答欄に収まらない子どもの場合は、1文字ずつマスに書けるような解答欄にする
  • 一文字ずつマスに書ける回答欄により、文字の関係を意識しやすくする

画像引用:「特別支援教育に活かす作業療法の知と技 改訂版」京都府作業療法士会
文章参照:「特別支援教育に活かす作業療法の知と技 改訂版」京都府作業療法士会

上記のとおり、1つの事象から複数の原因が考えられ対策も異なることからも、最初に子どもの行動の「理解を深める」ことの重要性が分かります。

ここでは1事例を挙げていますが、これらの対応については、京都府作業療法士会のサイトにまとまっています。

「文字の書き写しが上手くできない子ども」「足し算・引き算・掛け算の筆算が難しい子ども」など、現場に即したお悩み回答が見られますので、ぜひご覧ください。

もっと勉強したい人向けおすすめ書籍・サイト

クリエイツかもがわ「子ども理解から始める感覚統合遊び


画像引用:「子ども理解からはじめる感覚統合遊び」クリエイツかもがわ

乳幼児〜小学校低学年向けの書籍です。子どもの特性を現場に即した行動10タイプに分類し、①その行動の理由を理解、②支援の方向性を考える、③集団遊びや設定を紹介しています。

クリエイツかもがわ「みんなでつなぐ読み書き支援プログラム


画像引用:みんなでつなぐ読み書き支援プログラム」クリエイツかもがわ

より学習に特化した内容としては、こちらの書籍がおすすめです。
読み書きに困難を抱えた子どもを、視覚、聴覚、小脳の機能の観点から分類分けし、それぞれの子どもにあわせた支援方法が掲載されています。

株式会社LITALICOメディア&ソリューションズ「LITALICO発達ナビ

 

画像引用:LITALICO発達ナビ

発達に特性を抱えた子ども向けのメディアです。基本的な知識について学べるのはもちろん、当事者の保護者によるコラム連載等もあるので、発達に特性を抱えた子どもの対応で困った際には一度見てみることをおすすめします。

まとめ

学習支援現場で起きがちな事例と対応方法について、作業療法士の高畑先生にお伺いしました。
お話のポイントを下記にまとめます。

・気になる”行動”に対して、解決策を出す前に”理解”を深めることを大切にする
・できないことに焦点を当てるのではなく、どういう条件が揃ったら子どもが行動できるのかという成功の法則を探すことを大切にする

高畑先生、ありがとうございました!

※本記事の内容は専門家個人の見解であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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