2024年3月28日に、認定NPO法人Learning for All(以下、LFA)と東京大学大学院教育学研究科(以下、東京大学)は、「地域協働型子ども包括支援」の実態・成果を明らかにするべく共同で実施した調査に関する公開シンポジウムを開催しました。
イベントレポート第1回は、調査の概要・目的と、東京大学大学院教育学研究科修士課程の小野裕太さんによるインタビュー調査(定性調査)の発表内容から、特にポイントを抜粋してお伝えします。
▶︎定性調査の論文全文はこちらからお読みいただけます。
プロフィール:小野裕太 氏
東京大学大学院教育学研究科修士課程所属。学部1年次よりLFAの活動に参画し、学習支援拠点のスタッフやこども支援ナビのライター等を経て、現在ではLFA×東京大学の共同調査に携わっている。映画鑑賞が趣味で、休日には都内のミニシアターを訪れることが多い。
共同調査の概要
本調査では、LFAが取り組んできた『地域協働型こども包括支援』のこれまでの成果と今後に向けた課題を明らかにしていくことを目的にして、複数の調査を同時並行に進めるような形で、東京大学とLFAで共同調査を行いました。
調査は、大きく定量調査と定性調査に分かれています。
定量調査は、活動の効果検証、何が効果を生み出す要素になりうるのかというところの検証、また現状の可視化、把握という目的で実施しました。LFAだけではなく、地域協働型こども包括支援に共感くださる「ゴールドマン・サックス 地域協働型子ども包括支援基金」の実行団体(計8団体)にも協力をいただいて、支援の対象となるお子さんと保護者方々、また協働させていただいている地域の支援者を対象としてアンケート調査を実施しました。
定性の調査では、定量の中では数値化されづらい、見えづらくなっている支援拠点の価値であったり、この価値を生み出す要素がどういったものなのかを明らかにすることを目的として、LFAが活動している1つのエリアに絞り、主に居場所支援拠点に関わるスタッフ、およびその拠点に通う子どもへのインタビューを行いました。
尚、今回のレポートで取り上げた定性調査の対象(拠点・利用者・支援者)の基礎情報は次の通りです。※名称は仮称
画像:本レポートで取り上げた定性調査の対象 ※名称は仮称(執筆者作成)
居場所における子どもへの提供価値〜利用者インタビューから〜
利用者へのインタビューから、居場所における子どもにとっての価値を抽出しました。ポイントだと感じたことを、子どもの語りとともにご紹介します。
気を遣わずに過ごせて、話を聞いてもらえる場所
①多様な人が集うが、皆気を遣わずに過ごせる
「やっぱりおとながいて、子どもがいて、みたいな感じの場所は結構レアじゃないですか。……そんな中で、気を遣わなくていい場所って結構珍しいなって思っています。学校でも、先生には先生としての地位があるから、やっぱり気を遣わないといけないじゃないですか。けれど、ここ〔=居場所Y〕はみんな違って、みんな友達で、みんな気を遣わない空間だからこそ、すごく居場所として居心地がいい」(ハルさん)
②独り言から会話に
「私はやっぱりYに会話しに来ているというところがあるので、やっぱりおとながいて認めてくれる人がいて、仲良い子とかもいて、話しやすい、話を聞いてくれるおとながいるというのはすごくいいなと思います。いいところ。やっぱりいまの子どもたちというか、おとなに話を聞いてもらうという機会があまりないと思うので。それがあるのとないのとでは、たぶんちょっと今後変わってくると思っています。認めてくれるおとながいるというのは、すごく大事なことだと思っています。それが体験できるYというのはいいところだなと思いました」(アキさん)
「やりたいこと」を表明し、応援してもらえる場所
①「やりたいこと」の発信
「〔自分の成⻑の中で〕一番大きいのは、自分は昔ノリがめちゃめちゃ重くて、今は結構軽いんですけど。何をするにも「いやあ、俺はいいよ」みたいな感じだったんですけど、Yに入って〔2~3年目の〕、高校1、2年生ぐらいから、みんなが乗り気だから、自分のそのペースに乗っかっていく機会ができて。そこから、自分発信で何かしたいって言い出すこともありました」(ハルさん)
② 居場所における行事・イベントの重要性
「〔居場所Yの〕大事なアイデンティティーじゃないけど、Yの方針が、子どもに寄り添うということでやっているから、子どもの意見をすごく大事にしているんですよ。イベントとかは基本子ども中心に、どんどん企画を作っていって、本締めとかサポートを職員とかスタッフがやることが多くて。……例えば自分がバスケットボールの大会やりたいってなったら、……自分の望みを全て叶えてくれるような環境を作ってくれて。本当に、Yの中で一番大事にしていることかもしれないです。イベントと、あと行事」(ハルさん)
スタッフとの出会いと関わり
①居場所におけるスタッフとの会話
拠点では普段「職員さんとかと会話していることが多い」、自身が作った曲や最近のアーティストについての話をするほか、「学校であったこととか、最近忙しいんだよねとか、家に居づらいんだよねみたいなこととか、……今こういうことをしていてとか」を話すことが多い(アキさん)
② いいおとな、いろいろなおとな
「何かいいおとなの例って感じがする」山吹さん、「ブッキー〔=山吹さんの愛称〕のイメージはやっぱり銀杏さんとは違って、ちゃんと真面目な部分もありつつ、子ども心を忘れていなくて。何かいいおとなの例って感じがするんですよね。仕事もすごいできるし、話を聞くのもすごく上手だし。やっぱり、ブッキーリスペクトはやばいですね」(ハルさん)
男性ボランティアの紫苑さんについて、「すごく気が合う」「本心で話せる相手」で、「今のYの中だったら一番好き」(ハルさん)
別の男性スタッフの水仙さんについて、「同性で結構、自分の趣味とかも合う」ので、普段最もよく話す、「入った時からずっと物腰いいし、すごく取っ掛かりやすい」「すごい子どもに熱心だし、ちゃんと自分の考え方っていうのもしっかり持ってて、いいなって思う」(ハルさん)
支援者の活動と思い〜支援者インタビューから〜
支援者へのインタビューをもとに、居場所Yにおける支援者の活動と思いを5つのポイントで整理しました。支援者の語りとともに、ご紹介します。
印象深い子ども
中学2年次から通う男子高校生
通い始めた当初中学2年生だった彼は、いろいろとウソをつかざるを得ない状態のように見えました。(例:人に言えない闇バイトをして何十万の財布を買った、等)拠点に通い続ける中で、ウソをつかなくても自然にその場にいられるようになり、財布についても中古店で安く買った、などと言えるようになりました。
「前ウソ言ってたよねみたいな感じの話をちらっとしたら、あの時はすごく自分を大きく見せたかったしみたいな、でも別に今もウソついちゃう時があるから全部なくなったわけではないけど、Yの人たちがそういうふうに、何事もなかったように接してくれてて、……こんな俺でも受け入れてくれるんだみたいな安心感に、その時すごい繋がったっていうふうに言っていて、なので、だから逆に上からわーって言ってたら、彼からその言葉は出てこなかったんだろうなっていうふうに思ったので、それがほんとに一番っていうか、最初にYに来た子がめちゃくちゃ変わったじゃないですけど、みたいなところですごく印象的でした。」(山吹さん)
日々の支援の中で大切にしていること
①弱さを認める、本人に委ねる
「弱さを認めるっていうか、それ一番大事にしているところかなっていうのは思います。できないからできるようになろうとか、そういうことよりかは、できないことを受け入れてどう生きていくかっていうのを、私はもちろん考えるし、子どもと一緒に考えたいっていうのを一番大事にしているかなっていうのと、あとは、最後は子どもが決めるっていう、本人の主体性みたいなところ、平たく言うとそうなっちゃうんですけど、そういうところはすごい大事にしたいっていうふうには思ってます。……その子にとってどう生きるのがいいかって、やっぱり私には分からないし、そういう、人がいる分だけその正解というかがあると思うので、それは最後本人に委ねるっていうところと、本人の思いを最大限尊重するっていうとこは、自分ですごい気を付けたいっていうふうに思っているところですかね」(芝桜さん)
支援者の役割
① 〜し過ぎない
「これは行き過ぎだなみたいな感覚とかは常に持ってやっているので、一線を越えないように、入り込み過ぎないように……必ず本人の意思があって、それに添うかたちで行うっていう感じかもしれないです。自分の意思を乗せ過ぎないというか。……必要だと思ったことはやるので、引いてはない、……たたずんでるように見せかけて支えてるみたいな感じのイメージかなと。たぶん本質は支えとか、補助輪みたいな感じだと思うんですけど、それを感じさせないように居ようみたいな」(山吹さん)
②子ども同士を繋ぐ
「信頼できるおとながいるっていうのは結構大きなことだと思うので、……〔最初は〕 ニコニコして「ウエルカムだよ」みたいな感じですけど、だんだんそれをちょっと手放していって、子どもに渡していくみたいな。何か共通の趣味がある子たち同士にちょっと投げてみたりとか、「誰々、これ教えてくれる?」とかって言って、自分はその場を離れてみたりとか。最初は〔主導権を〕スタッフが握ってるかもしれないけど、それを他の子だったり、場に手渡ししていくみたいなイメージは、私は結構強いかなと思いますね」(山吹さん)
拠点が子どもたちに提供している価値
①緩やかな時間を過ごす中での回復
「いろいろ学校とか家庭とかで傷ついた子どもたちが癒やされる場として、……回復していく場として、すごくそこに価値があるなと思っていて。それも自然と回復してくとこに良さがあって、スタッフが意図的に何かをするんじゃなくて、スタッフはほんとにだらだらしてて、子どもたちがやりたいってことを一緒に手伝ったりとかはもちろんするんですけど、一緒にゲームしてたりとか、一緒に寝っ転がってたりとか、一緒にだらだら過ごすみたいな中で〔子どもたちが〕回復してく中で、自分たちのやりたいこととか何か出てきた時に、〔スタッフが〕そこに一緒に乗っかってって、一緒に楽しんでくみたいな。その中での回復ってすごいなと思ってて」(海棠さん)
ソーシャルワーカーについて
①苦労を奪わない
「苦労を奪わないみたいなことは大事にしていて、なんかこっちが全部やっちゃって、こっちもやっぱ関わりの期限があるんで、なんか僕たちが離れちゃったら全然自分で立って歩けないみたいな、その時にやっと困りと向き合わなきゃいけないとすごく大変だなと思って。〔それ〕よりは、僕たちが先回りして困りを奪うんじゃなくて、ちゃんと本人が困ってるとこに一緒に立ち会いたいなっていうか、支援したいな、関わりたいなみたいな気持ちもあって。しっかり苦労を返すというか、奪わないみたいなのは、結構〔支援する側は支援される側の〕苦労〔を〕奪いがちなので。奪いがちっていうか、なんかやっぱり支援者って先回りして考えたくなるし、やってあげたくなっちゃうなと思ってて、僕も結構そういうタイプなので、そこはなんか、ちゃんとしなきゃなと思って結構自分で言ってるのもあります。結果的に、やっぱり自分たちがいないと回んないっていうか、生きていけないってことは良くないなっていうところがすごくあって」(海棠さん)
本調査のまとめと今後の課題
本調査のまとめ
今回の調査で見えてきた、居場所を考える上でのポイントは3つです。
1つ目は、多様な関係性に支えられ、生成・展開していくのが居場所であるということです。居場所Yは、利用者も支援者も時間が経つごとに入れ替わっていくけれども、そうした中で「Yイズム」と語られるような、どこかその場っぽさを残しながらその都度流動的に生成・展開していました。
2つ目は、子どもの変化に必要な時間です。これは長期的に支援していくことの必要性を感じさせるもので、何もしない、しすぎないというスタンスの職員とともにゆったりと過ごすことで、子どもたちは自分のタイミングで変化していきます。
3つ目は、地域協働型こども包括支援について考えるときには、やはりソーシャルワーカーの機能が重要であるということです。拠点間連携や保護者との連携、地域との連携の部分において、ソーシャルワーカーは重要な部分の役割を果たしています。
今後の課題
今後の課題としては、次の3つが挙げられます。
1つ目は、生成・展開していく居場所の性質や、子どもたちの変化に必要な時間を踏まえて、長期的に観察・調査していく必要があるだろうということです。
次に、今回の調査では1つのエリアのみを対象にしたので、LFAが展開している他のエリアとの比較を視野に入れていく必要があるだろうということです。
最後に、そもそも居場所の価値というものをどのように定義して調査していくか、という大きな問いが残っています。
例えば、「何もしない」というスタンスをどのように評価していくのか、あるいは子どもたちのすごく緩やかな変化の時間をどのように評価していくのかなどは、今後の調査における課題だと感じています。
イベントレポート第2回では東京大学大学院教育学研究科博士課程の田中祐児さんと別府崇善さんによるアンケート調査(定量調査)の発表内容のポイントと、調査報告に対する質疑応答を一部お送りします。
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