虐待通告対応フローの整備 —行政との連携、および団体内での連携—

子ども(児童)虐待(以下、子ども虐待)の疑いがある場合、行政へ通告することは児童虐待防止法第6条で定められている国民の義務です。子ども虐待の疑いがある場合の通告対応手順(虐待通告対応フロー)を定めておくことで、いざという時に子どもの最善の利益を守るための適切な行動をとることができます。

今回は、虐待通告対応フローを作成・運用・改訂する際のポイント、特に行政の担当部局との連携、および団体内の周知や研修におけるポイントについて、認定NPO法人Learning for All(以下、LFA)の職員である宇地原さんに伺います。

プロフィール: 宇地原 栄斗

特定非営利活動法人 Learning for All子ども支援事業部 エリアマネージャー。

東京大学教育学部卒業。出身である沖縄県での原体験から子どもの貧困に対して関心を持つようになり、大学在学時にLearning for All の学習支援事業に参画し、子どもに対しての包括的な支えのある地域を作ることの重要性を感じ、大学卒業後にLFAに入職。

行政との連携

—団体内で虐待通告対応フローを作成する際に、行政との間で何か打ち合わせなどは行ったのですか。

LFAには複数の支援拠点がありますが、基本的にどの拠点でも行政との打ち合わせは行っています。ただし、打ち合わせを行う相手や内容は、拠点の運営方法によってやや異なります。例えば、行政の委託事業として運営している拠点の場合、委託元の部署との間で打ち合わせを行います。一方で、委託事業ではない拠点の場合は、「市民による通告」という形での虐待通告になるので、通告を受理する側の部署との間での打ち合わせを行います。また、教育委員会管轄の施設(学校や図書館、児童館など)を借りて運営している拠点の場合は、施設長(校長や館長など)との間で打ち合わせが必要になります

打ち合わせの内容としては、主に以下の2点について担当者の方と話し合い、対応フローを決めています。

  • 虐待の疑いがあった際に、誰に通告すべきか
  • 担当部局の窓口が閉まる夜間の通告の仕方
    すぐに189(児童相談所虐待対応ダイヤル)にかけるのか、それとも翌日に担当部局に連絡するのか、あるいは、緊急度の高い通告の場合は189にかけるべきか、それとも警察に連絡するべきか、等。

また、打ち合わせの際には虐待通告に対する自分たちのスタンスを伝えることを意識していました。そもそも子ども虐待が疑われる場合は、児童虐待防止法第6条に基づき、全ての国民に通告が義務付けられているものであるため、LFAとしてのスタンスは、「子どもの不利益になると感じたら、小さなことでも通告していく」というものです。なので、どうしても通告回数が増えてしまうということを予め担当部局に伝えるようにしています。

—どのような運営方法であるにせよ、行政との打ち合わせは事前に行っているのですね。日々運用していく中では、どのように虐待通告対応フローを改訂していきましたか。

フローがあるせいで現場が疲弊し、有効な通告が行えないのでは本末転倒です。子どもにとって意味のある通告を行えるように、フローができてからしばらくは、現場から上がってくるリアクションやフィードバックを踏まえて、その都度フローを改訂しました。

例えば「子どもから同じ内容の吐露が何度も出てくる場合」の対応について、運用しながらフローを改定したことがあります。以前はフローで決められた通りに、子どもからの吐露が出る度に即時通告していたのですが、「得られた情報の内容が変わっていないので、行政としてもあまり動けない」ということがあり、現場で対応しているスタッフも疲弊しながら対応に悩んでいました。その状況を踏まえてフローを改訂し、例えば「通告窓口が閉まった夜の時間帯に、子どもから同じ内容の吐露を聞いた場合には、通告は翌日に行い、それまでに新たに得られた情報や、何度も同じ吐露が出てくることに対する職員の所感を中心に報告する」等、現場の疲弊も最低限に抑えながらも、有効な通告が行えるようにしました。

フローを運用し始めてから1年半~2年くらいは、都度状況を見ながら改定していましたが、最近はだいぶ落ち着いた気がします。


出典:photoAC

—これまでの経験を踏まえて、虐待通告対応フローの作成、運用および改訂において大切だと思うことはなんですか。

大切だと思うことは2つあります。1つは、現場の負荷を最小限にするようにフローを作成・改訂するということです。もう1つは、法律で定められている通告義務を遵守した上での子ども虐待についての自分たちの捉え方やスタンス」を明確にするということです。例えば、子どもだけではなく保護者とも密接に関わっている支援団体の場合、虐待通告に踏み切るということに対してハードルや抵抗感を感じることもあると思います。そうしたハードルや抵抗感を認識した上で、「自分たちとしてはどういうスタンスを持って子どもや保護者と接し、通告していくのか」ということを明確にする必要があります。

職員向けの研修

—今まで職員向けに行ってきた、子ども虐待や虐待通告対応フローについての研修にはどのようなものがありますか。

まずは、「子ども虐待および虐待通告対応がどういうものなのか」について研修を行い、子ども虐待の種類(身体的虐待や心理的虐待、ネグレクトなど)について共有し、子ども虐待の疑いがあれば通告することが法律で定められているということを共有しました。特に後者に関しては「LFAとして、どういうスタンスや考え方で子ども虐待に対応していくのか」についての認識を揃えることを意識しました。なぜなら、普段拠点で子どもと接する中で、職員によって「これは通告するレベルなのだろうか」と疑問に思って通告できなかったり、反対にやや過剰に動いてしまったりすることなどがあるためです。LFAとしての子ども虐待に対するスタンスは、子どもの不利益になると判断したら、どんなに小さいことでもその都度通告していくというものです。

実際に、虐待通告対応やその後の対応というのは、支援者にとっても大変なものです。気持ちも体力も費やして対応するので、団体としてのスタンスや考え方が揃っていなければ、虐待通告対応が立ち行かなくなる拠点が出てきてしまうかもしれません。

—まずはフローを運用するための前提を整えたのですね。その後はどのような研修を行ったのですか?

具体的にどのようにして虐待通告対応を行うか」という、フローの確認に入りました。

この確認の中で特に強調していたのは、必要な情報を漏れなく適切に伝えることです。「必要な情報」というのは、例えば以下のような情報です。

  • 虐待されている子どもの基礎情報(年齢、住所、性格等)
  • 虐待の内容(何をされているのか、本人はそのことについてどのように言っているのか)
  • 緊急性

各職員が、これらの情報を整理して漏れなく伝達できるようになるために、研修では通告のロールプレイを行ったり、日々の通告対応に対してソーシャルワーカーからフィードバックを行ったりしています。

この情報の整理・伝達は、団体内はもちろんですが、特に行政に連絡する際に大切です。なぜなら、これらの情報を基にして、行政の担当部署が「そのケースに対して介入するか否か」「介入するとしたらどのように介入するのか」を判断するからです。


出典:photoAC

—なるほど。行政との効果的な連携のために、情報伝達の精度を上げることが大切なんですね。

過去には、子ども虐待か否かの判断に必要な情報が不足していたために、行政との連携がうまくいかなかったこともありました。ネグレクトによって食事を取れていない疑いがある子どものケースについて通告を行った際に、「どれぐらいの頻度で食べられていないのか」「朝・昼・夜のうちいずれの食事を取ることができていないのか」「食事を買おうと思えば買えるくらいのお金をもらっているのかどうか」「自分で食事を作る能力があるかどうか」等を行政から聞き返されたのですが、子どもから得ていた情報が極めて断片的だったために、それらの問いに対して完全には答えられず、結果としてそれほど動いてもらえませんでした。

だからこそLFAでは、通告を受けて判断する人が判断しやすいように、虐待の疑いの根拠となるような情報をできるだけ積み上げていくことを意識しています。また、連携がうまくいかなかった際には、行政からのリアクションやフィードバックを団体内で共有して、次に繋げるということも意識しています。

ただし、根拠となる情報を収集するために子どもからたくさん話を聞こうとすることは、時に子どもを傷つけることになりかねません。そのバランスはすごく難しいところです。

ボランティア・インターン向けの研修

—ボランティアやインターンに対する研修としては、どのようなものを行っていますか。

ボランティア・インターンに対しても、まずは職員に対する研修と同様に「子ども虐待がどういうものなのか(子ども虐待の種類、通告の義務等)」について研修を行います。

またLFAでは、ボランティアやインターンに子ども虐待か否かの判断をさせないようにしています。そのため、研修では自分で判断を抱え込まず、気になることがあればすぐに職員に言ってほしいと伝えています。

それでもどうしても、子どもとの関係性が深くなればなるほど、ボランティアやインターンが子ども虐待の判断について悩んだり、子どもから聞いた吐露を職員に言いづらくなってしまうことはあります。また、子どもから吐露を聞いたことで、ボランティアやインターンが代理受傷してしまうこともあります

—そうした課題やリスクに対して、どのように対処していますか。

判断の抱え込みや言いづらさに関しては、一人で抱え込まないように、職員から積極的に子どもについての話を聞きに行くようにしています。普段から、子ども虐待に関係なさそうなことでも、子どもから聞いた話を職員に逐一伝えてもらうようにすることで、いざという時に話しやすくなると考えています。

また、代理受傷に関しては、まずはボランティアやインターンが重たい吐露に遭遇する場面を減らすということが大切だと思います。そのため、少しでも子ども虐待の吐露に関係しそうな話が出たら、すぐに職員を呼んでもらい、ボランティアやインターンだけで対応しないようにしています。しかし、それでも代理受傷してしまうことはあるので、その場合は時間をかけてケアしていきます。特に自身が同じような経験をしていたり、熱心に関わってくれるボランティアやインターンほど傷つきやすいので、「子どもの話を聞いて、その人は何に傷ついたのか」といったことを聞いて、子どもの話の内容を一緒に解釈していきます

読者へのメッセージ

—最後に、読者へのメッセージをお願いします。

虐待通告対応フローは、我々支援者が持続的かつ子どもの最善の利益のために行動し続けられるために必要なものです。子ども虐待の疑いを「こぼさない」、通告からその後を含めた組織的な対応において「迷わない」、度重なる通告対応に対して「疲弊しない」ために、虐待通告対応フローを定めておくことが重要だと思います。

まとめ

今回は、LFA職員の宇地原さんに、虐待通告対応フローを作成・運用・改訂する際のポイントについて伺いました。ポイントを以下にまとめます。

  • 虐待通告対応フローを作成する際には、あらかじめ行政の担当部局との間で打ち合わせを行い、通告先や夜間の通告の際の対応について取り決めておく。
  • 子ども虐待や虐待通告に対するスタンスや考え方、および通告に際しての情報整理・伝達の方法を団体内ですり合わせておくことで、支援者の疲弊を予防するとともに、行政の担当部局と円滑に連携することができる。
  • ボランティアやインターンには子ども虐待か否かの判断はさせず、どんなことでも子どもから聞いたことを職員に共有してもらうようにする。

※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

虐待通告対応フローを作成する際に参考になるサイト・関連記事は以下です。

子ども虐待対応の手引き/厚生労働省

【前編】子どもが虐待されているかも?と思った時の対応方法
【前編】子どもが虐待されているかも?と思った時の対応方法
【後編】子どもが虐待されているかも?と思った時の対応方法
【後編】子どもが虐待されているかも?と思った時の対応方法

※関連記事後編には虐待通告対応フローを作成する際に考えるべき論点一覧も掲載。

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