コロナ禍における学習支援の取り組み ーNPO法人Learning for Allの事例ー

2020年、コロナウイルスの感染拡大により、全国的にあらゆる子ども支援を中止・縮小せざるを得ない状況になりました。コロナ禍においてどのように動くべきか、日本全国の子ども支援団体が模索をした1年だったのではないでしょうか。二度目の緊急事態宣言も経て、今なお、その模索は続いているでしょう。

NPO法人Learning for All(以下、LFA)では一度目の緊急事態宣言下(2020年3〜5月)において、食料など生活物資の支給や、保護者の相談窓口開設、オンラインの学習支援など、コロナ禍だからこそ求められる支援を実施しました。

今回は当時の取り組みや直近新たに対応している点について、LFAの学習支援拠点・居場所支援拠点の全体統括を担当している多田さんに伺いました。

プロフィール:多田 理紗
Learning for All 子ども支援事業部。大学生当時、地元での原体験からLearning for Allに参画し、非常勤職員として研修開発・現場運営統括に従事。大学卒業後、IT企業を経てLFAに復帰。全ての子どもの”子どもの権利”・全ての人の”学習権”が保障され、一人一人が主体として思いやりをもち豊かに生きる社会にしたい。”自分が大切にされ、自分を大切に思うこと” ”身近な他者や社会と繋がりをもち、しんどいときは誰かに頼り、自分も誰かから頼られる存在であること” “やりたいことが見つかれば、そこに向かって踏み出す糧となる経験”を届けたい。最近ハマっていること:お花が自宅に届く定期便、日向坂46の番組を観る

コロナ禍におけるニーズをアンケートで把握

━━まずは一度目の緊急事態宣言下(2020年3〜5月)において、どのような対応を行ったか教えてください。


一度目の緊急事態宣言下では、LFAの学習支援拠点すべてを閉鎖し、支援している子どもや家庭と対面で繋がることができなくなりました。一方で、そんな時だからこそ自分達に何ができるかを考えるために、子ども・保護者の声を聞くアンケートをすぐに実施しました。

子ども・保護者のニーズがある限り拠点は開け、繋がり続ける状態にしておくことが必要だと考えていること、子ども・保護者のニーズに応えることがLFAの運営拠点が存在する理由であるという思いから、学習支援拠点を開けておくだけではない支援の形を考えました。

アンケートの結果、保護者には仕事の変化や失業、環境の変化に伴うストレス、子どもは学校の一斉休校による学習機会の喪失やそれに伴う昼夜逆転生活などの課題が浮き彫りになりました。

このような課題・ニーズを踏まえて、LFAでは以下の取り組みを始めました。
今回は「3.オンライン学習支援」について紹介します。

  1. 食料など生活物資の支給
  2. 保護者の相談支援(LINEで相談窓口を開設)
  3. オンラインの学習支援
  4. 他NPOとの連携の強化

オンラインツールを使った学習支援

今まで対面で行っていた学習支援を、オンライン会議ツール「zoom」を用いたオンライン支援に切り替えました。その際、一部の世帯にはLFAで調達したPCやタブレットをセットアップし貸与しました。
LFAが支援している世帯の中には、PCやタブレットを持っていない世帯も多いため、子どもたちの学習機会を損なうことがないようにこちらから貸与する形を取りました。費用は、LFAが緊急助成金を利用して用意しました。

オンラインでの学習支援では、子どもたちが勉強に集中できるような工夫を行いました。たとえば、授業ではホワイトボード機能を活用したり、クイズ形式の問題を出題し、正解したときに子どもの好きなキャラクターを画面に表示する等、画面を見続けるオンラインならではの集中力の途切れや飽きてしまうことに対する工夫を行いました。

ホワイトボード機能を活用して授業を行っている様子

また、オンラインならではの課題に応じて、指導時間の使い方に気を付けました。オンラインの学習支援は対面授業よりも子どもの様子がわかりづらいため、雑談の時間を多めにしたり、印刷したプリントを子どもに渡すことができないのでノートを書く時間を作るなど、オンライン指導によって気付いた課題を解決するようにしました。

授業スケジュール内にノートを取る時間や雑談の時間を作っている

オンライン支援による気づきと、今後に向けた対応

━━緊急事態宣言下、コロナ禍だからこそ求められているニーズを把握し、支援につなげていったのですね。このような取り組みを通して気づいたことはありますか?

オンラインで学習支援を実施してみて、「オンラインだからこそできる支援」もあることに気付きました。「拠点にきて学習支援を受けるのは物理的・心理的ハードルが高い」という子どもにとって、オンライン支援は参加のきっかけになります。拠点から少し離れた地域に住んでいる子どもや、集団の環境が苦手な子どもなども、オンラインであれば繋がり続けることができました。

━━オンラインの支援だからこそのメリットを感じたのですね。反対に、緊急事態宣言下の支援において課題を感じた部分や、特に難しかったことはありますか?

特に難しかった点としては、行政や学校などとの連携や、支援対象とする子どもは誰なのかを決定する点ですね。緊急事態宣言下におけるオンラインの支援は、困難を抱えた世帯に限らず必要なことです。LFAと既に繋がっている世帯のみを支援するのか、対外的に広く支援対象を集めるのかについては議論になりました。行政との連携も、スピード感やコロナ禍の対応について考え方がそれぞれ違うため、団体内だけで判断できることばかりではなく、難しい点でした。

また、学習支援における課題は多く感じました。オンラインでの学習支援に移行したことで、拠点がこれまで担ってきた「セーフティーネットとしての機能」が弱まってしまうことは課題だと感じました。緊急事態宣言下では特に「子どもと保護者が、長い時間一緒に家庭にいる状況」が続きます。親子ともにストレスが溜まってしまったり、虐待などの通告・発見が難しかったり、セーフティネットとしての機能は、弱まってしまったと感じています。

また、学習環境が家庭の環境(空間)に依存するため、家庭によっては集中できる空間を作るのが難しいことも課題でした。勉強部屋がなく集中できない子どもや、物理的に側で教えないと集中しづらい子どもの支援が特に難しいです。


━━「定期的に子どもが拠点にいく」という動作が、ある種のセーフティーネットになっていたり、学習に集中する機会になったりしていたのですね。二度目の緊急事態宣言も明けようとしているなか、直近で新たに対応したことはありますか?

現在は、オンラインでの支援における知見を団体内部で集約しているところです。オンラインの支援には、使用するツールやオンライン環境整備など技術的な知見と、先ほどお話ししたような「オンラインだと集中しづらくなってしまう子ども」などへの対応方法についての知見を、両方集約しておく必要があります。

またいつでもオンラインでの学習支援等を開始できるよう「次に備えた動き」として、一度経験した状況とその対応、検討すべきことを振り返り、整理しています。

まとめ

多田さん、ありがとうございました。
最後にLFAの「コロナ禍における対応」についてポイントを以下にまとめます。

・オンラインでの学習支援では、雑談の時間を多めにしたり、ノートを取る時間をしっかりとるなど、子どもが集中して勉強しやすいよう工夫をする
・オンライン支援に移行することで、学習支援拠点がこれまで担ってきた「セーフティーネットとしての機能」が弱まってしまうことはデメリット
・拠点から少し離れた地域に住んでいる子どもや、集団の環境が苦手な子どもなど「オンラインだからこそ参加しやすい子ども」もいて、オンライン支援のメリットも発見
・緊急事態宣言下において支援を必要としている人は多くいるため「支援する子どもは誰なのか」を決定する点は難しかった

※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

 

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